甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【彦根市】北野寺

今回は滋賀県彦根市の北野寺(きたのじ)について。

 

北野寺は彦根城西側の住宅地に鎮座する真言宗豊山派の寺院です。山号は金亀山。

当寺の前身となった彦根寺は、寺伝によると720年(養老四年)の創建で、元正天皇の勅願で開かれたとされます。当初は彦根城の位置にありました。平安後期には当寺の霊験が都でも知れわたっていたらしく、貴族の崇敬を集めて隆盛しました。中世の沿革は不明ですが、江戸初期には衰微していたようです。

1603年(慶長八年)、彦根城の築城にともなって現在地へ移転し、寺号を「北野寺」に改めて中興されました。北野寺の寺号は、井伊直孝が幼少期に手習いを受けた上野国の北野寺(群馬県安中市)に由来します。以降、幕末まで井伊家の祈願寺として崇敬を受けました。1620年には境内に天満宮(北野神社)が勧請され、当寺はその別当となりましたが、明治初期の神仏分離令によって北野神社が分離されました。

現在の境内は、南西に北野神社が隣接してつながっており、かつての神仏習合の時代を偲ばせます。伽藍は江戸後期のものです。寺宝には室町時代の役行者像があり、市の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒522-0069滋賀県彦根市馬場1-3-7(地図)
アクセス 彦根駅から徒歩30分
彦根ICから車で10分
駐車場 なし(※北野神社に駐車場あり)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

仁王門

北野寺の境内は南東向き。入口は生活道路に面していて、南西へ20メートルほど行くと北野神社の社頭があります。

仁王門は、三間一戸、八脚門、入母屋造、桟瓦葺。

 

正面中央の柱間。

柱は円柱で、上端が絞られています。

中央の柱間は、頭貫の下に虹梁がわたされ、台輪の上に蟇股があります。虹梁の絵様は松の意匠。蟇股には花鳥らしき彫刻が入っていますが、退色して題材がよくわからず。

 

向かって右。

こちらは中央より少し低い位置に飛貫虹梁がわたされています。虹梁や台輪の上に中備えはありません。

隅の柱は、頭貫に木鼻がついています。柱上の組物は出組。

 

右側面。

側面は2間で、柱間は横板壁。

 

破風板の拝みには猪目懸魚。

妻飾りは、板壁に束が立てられています。

 

内部。左右の柱間には仁王像が安置されています。

柱間には虹梁がわたされ、通路上の虹梁の絵様は竹の意匠です。

 

背面。

左右の柱間は横板壁。

正面は台輪の上に中備えがありましたが、こちらは省略されています。

 

手水舎と鐘楼

仁王門をくぐって参道を進むと、左手(西)に手水舎と鐘楼があります。こちらは手水舎。

桁行2間・梁間1間、入母屋造、銅板葺。

 

入母屋破風。蕪懸魚が下がっています。

妻飾りは、懸魚の影になって見づらいですが、虹梁と大瓶束が使われています。虹梁の下には蟇股。

 

正面は2間。向かって右の柱間は小さく取られています。

 

柱はいずれも几帳面取り角柱。頭貫には木鼻がつき、柱上は出三斗と平三斗。

柱間には飛貫が通り、飛貫と柱との接続部には金属製の持ち送りが添えられています。飛貫の上には菱組みの欄間が入っています。

頭貫(虹梁)と台輪の上の中備えは蟇股。

 

向かって右の柱間。

こちらは中備えに蓑束が使われています。

 

手水舎の西側には鐘楼。

切妻造、桟瓦葺。袴腰付。

 

破風板の拝みには鰭付きの懸魚が下がっています。

 

柱は面取り角柱。頭貫に象鼻がつき、柱上は大斗と舟肘木を組んだもの。

妻飾りは虹梁と大瓶束。

 

鐘楼の北側には境内社が2棟あります。

2棟とも、一間社流造、銅板葺。

向かって右は狐の像が置かれており、稲荷社のようです。向かって左は木札に「弁■■」(※■部は退色により判読できず)とあったため、おそらく弁才天です。

 

本堂

境内の中心部には本堂が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、入母屋造、向拝1間、桟瓦葺。

棟札より、1800年(寛政十二年)の造営。

 

向拝は1間。

虹梁中備えは蟇股。竜の彫刻が入っています。

 

向拝柱は上端が絞られた几帳面取り角柱。

側面に獏の木鼻がつき、組物は連三斗。

 

向拝の組物の上には手挟があります。手挟は菊の彫刻。

桁隠しにも菊らしき花の彫刻があります。

 

向拝柱と母屋をつなぐ懸架材はありません。

母屋は正面側面ともに3間。正面3間のうち、中央の1間は桟唐戸、左右各1間は半蔀が使われています。

 

正面中央の柱間。扁額は山号「金亀山」。

 

柱は上端が絞られた円柱。柱間は貫と長押で固められています。頭貫には拳鼻がつき、柱上は出組。

扁額の影になっていますが、台輪の上の中備えは蟇股が使われています。

 

左側面。

前方の柱間は半蔀、中央は引き戸、奥の柱間は横板壁。

縁側は切目縁が4面にまわされ、擬宝珠付きの欄干が立てられています。

軒裏は二軒繁垂木。

 

背面にはこのような孫庇のようなものが設けられ、トタン板で覆われています。

おそらく縁側の閼伽棚などを保護するために設けられたものでしょう。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

妻飾りは虹梁大瓶束。虹梁の下には蟇股と出組があります。

 

地蔵堂

本堂向かって右側(北側)には地蔵堂。本堂と同様に南東向きです。

桁行3間・梁間3間、宝形造、銅板葺。

 

屋根の頂部には露盤があり、卍の意匠がついています。

露盤の上は、本来なら宝珠がありますが、欠落してしまっているようです。

 

柱はいずれも角柱。柱上は舟肘木。

柱間は3間。中央の柱間は半蔀。左右の柱間の窓ははめ殺しのようです。

 

本堂の後方(北西)には「大聖歓喜天本殿」があります。

母屋は陸屋根で、正面の向拝のような部分は唐破風に似た形状になっています。

 

北野寺の伽藍については以上。

北野神社の社殿については当該記事にて既述のため割愛。

 

以上、北野寺でした。

(訪問日2025/03/23)