今回は茨城県潮来市の長勝寺(ちょうしょうじ)について。
長勝寺は潮来市街に鎮座する臨済宗妙心寺派の寺院です。山号は海雲山。
創建は不明。寺伝によると1185年(文治元年)、源頼朝により開かれたとのこと。鎌倉時代は幕府の崇敬を受けて隆盛したようです。その後の中世の沿革は不明ですが、近世には衰微・荒廃していたようです。徳川光圀の命により、妙心寺(京都市)の太嶽祖清を招いて再興され、現在の境内伽藍が再建されました。
現在の境内伽藍は、楼門と本堂の2棟が県指定の文化財です。とくに本堂は禅宗様建築の典型といえる様式で造られ、貴重な遺構となっています。ほか、当寺の所蔵する銅鐘は鎌倉末期のもので、国重文です。
現地情報
所在地 | 〒311-2424茨城県潮来市潮来428(地図) |
アクセス | 潮来駅から徒歩10分 潮来ICから車で10分 |
駐車場 | 20台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 20分程度 |
境内
総門
長勝寺の境内は南向き。入口は市の中心部の住宅地に面しています。
境内入口の総門は、一間一戸、高麗門、切妻、桟瓦葺。
右の寺号標は「長勝禅寺」。
主柱は面取り角柱。
女梁と男梁を前方(写真右)に出し、軒桁を持ち出すことで軒裏を受けています。女梁と男梁の先端は繰型がついています。
背面。
後方の控柱には、切妻の屋根が伸びています。
山門
参道を進むと、二重屋根の楼門が鎮座しています。
三間一戸、二重、楼門、入母屋、銅板葺。
1700年(元禄十三年)造営。県指定有形文化財。
当初は普門院*1の山門として造られたもので、完成間近になって徳川光圀の命で現在地へ移築されました。
下層。正面3間のうち、中央の1間が通路となっています。
通路の左右の柱間には、仁王像を置けるスペースがありますが、何も置かれていません。
中央の通路部分の柱上。
柱は円柱で、上端が絞られています(粽柱)。
組物は木鼻のついた出組で、柱の真上でない場所にも組物がびっしりと配されています(詰組)。
向かって左の隅の柱。
柱の上部には頭貫と台輪がとおり、禅宗様木鼻が付いています。
下層の軒裏は、平行の二軒繁垂木。
側面は2間。柱間は横板壁。
通路部分の内部は、格天井とも鏡天井ともつかない天井が張られています。
上層。
正面の柱間は、3間いずれも桟唐戸。
上層も柱は円柱で、上端が絞られた粽柱です。
頭貫には拳鼻。台輪は木鼻がありません。
組物は尾垂木二手先。こちらも詰組になっています。
軒裏は、放射状(扇垂木)の二軒繁垂木。
背面の全体図。
前後でほぼ対称の造りですが、上層の背面は連子窓になっています。
本堂(仏殿)
参道の先には本堂が鎮座しています。
桁行3間・梁間3間、一重、裳階付、入母屋、茅葺、裳階は瓦棒銅板葺。
造営年不明。元禄年間(1688~1704)の造営と推定されています。県指定有形文化財。
本尊は阿弥陀如来。
「一重、裳階付、入母屋」は禅宗様建築の典型といえる建築様式*2。各所の意匠も、禅宗様のものが散見されます。
禅宗様建築の好例として価値のある遺構なのですが、造営年が明らかでないせいか、県の文化財にとどまっています。ほぼ同じ建築様式の正福寺地蔵堂(東京都東村山市)が国宝になっていることを考えると、年代がわかる資料があればこの長勝寺本堂も国の重要文化財になれたのではないでしょうか。
下層(裳階の軒下)は5間。
柱は角柱で、柱間は桟唐戸と連子窓。
なお、下層の屋根は厳密には屋根ではなく、裳階(もこし)という庇です。外観は二重に見えますが、内部は平屋です。上層(母屋)は3間四方で、下層(裳階)は母屋の周囲1間通りを覆うため、つごう5間四方となります。
正面中央の柱間。
建具は2組の桟唐戸が立てつけられています。扉の窓の羽目は、菱形のパターンの格狭間。
貫には藁座が打ち付けられ、扉の軸を受けています。
柱上の組物は、皿斗をベースに花肘木を乗せたもの。虹梁の上の中備えも、同様の花肘木です。
向かって左の2間。
柱間は火灯窓と桟唐戸。こちらの桟唐戸は、格狭間ではなくふつうの連子の窓で、中央部の桟唐戸よりも簡素なもの。
扉の軸は、上部は藁座で受けていましたが、下部は土台の横木に穴をあけて受けています。
左側面(西面)。下層は、側面も5間。
柱間はいずれも縦板壁。
軒裏は平行の一重まばら垂木。
上層(母屋の軒下)。
こちらは3間四方(方三間)です。
柱は円柱で、上端が絞られています。
頭貫と台輪には禅宗様木鼻。
柱上の組物は尾垂木三手先。柱間にも詰組があります。
軒裏は放射状(扇垂木)の二軒繁垂木。
粽柱、火灯窓、頭貫と台輪の木鼻、詰組、扇垂木は、禅宗様の典型的な意匠です。ほか、縦板壁や桟唐戸を使い、縁側を設けない点も禅宗様建築でよく見られる特徴です。
右側面(東面)。
こちらも詰組が配されています。
破風板の拝みには三花懸魚。
奥の妻飾りには、笈形付き大瓶束があります。
その他の伽藍
参道の右手(東)には勢至堂が西面しています。
宝形、向拝1間、銅板葺。
向拝柱は面取り角柱。組物はなく、向拝柱が軒桁を直接受けています。
虹梁中備えには「勢至堂」の扁額。柱の側面には象鼻。
母屋柱も角柱が使われています。
境内の東側、駐車場の近くには鐘楼。
入母屋、袴腰付、瓦棒銅板葺。
内部につるされている銅鐘は、鎌倉幕府執権の北条高時が1330年(元徳二年)に寄進したもの。国指定重要文化財です。
上層。
正面側面ともに1間。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
柱は円柱。上端が絞られ、頭貫と台輪には木鼻。
柱上は出組。柱間にも詰組があります。
縁側の下は、二手先の腰組。
下層は袴腰。
本堂右手、境内の北東には、方丈(あるいは客殿?)と思しき伽藍。
入口の門は、一間一戸、薬医門、切妻、桟瓦葺。
最後に、鐘楼の近くにある文治梅(ふんじばい)。
文治元年に、源頼朝が当寺を開いた際に植えた木と言われているようですが、真偽のほどは不明。
梅の木の手前には歌碑がありますが、私には判読できず。
以上、長勝寺でした。
(訪問日2022/11/20)