今回は一年の最終日ということで、2021年の総集編となります。
ことし当ブログで紹介した約150件の寺社建築のうち、感動した、あるいは秀逸だと思ったものをジャンル・年代・文化的価値を問わずノミネートしていきます。
なお、ノミネートの選定基準は私の感性による独断です。個人の偏見が多分に含まれている点と、対象が中部地方やその近辺にかたよっている点をご了承ください。
長野県
【佐久市】駒形神社本殿
一間社流造、とち葺。
1486年造営(社伝より)。国指定重要文化財。
ベーシックでありふれた様式の流造。
あまり装飾性がなく地味な第一印象ですが、弓なりの虹梁や大棟の鬼面などに地域色がよく出ています。
全体のバランスが整っており、保存状態もきわめて良好。目の保養になるきれいな本殿です。
【下諏訪町】諏訪大社下社春宮幣拝殿・左右片拝殿(3棟)
諏訪造、総桧皮葺。
1779年造営。当該の3棟と下社秋宮の社殿をあわせて国指定重要文化財。
信濃国一宮である諏訪大社の1社。名工・柴宮長左衛門の傑作。
中央の幣拝殿は楼門形式、左右の片拝殿は招屋根のついた片流れ。社殿の並びも独特で、当地に特有の諏訪造という様式。
各所を彩る白木の彫刻も出色。秀逸な箇所を挙げ連ねると、枚挙にいとまがありません。
山梨県
【南アルプス市】八王子社(落合)本殿
一間社流造、銅板葺。
造営年不明。
標準的な流造本殿。華やかな彩色が印象的。大棟には箱棟と鬼面が使われており、甲州らしい作風。
秀逸だと思ったのは破風の部分。部材ごとに細やかに色分けされ、重厚で美しい仕上がり。蓑甲の曲面も見劣りしない美しさ。
【甲州市】大善寺薬師堂
桁行5間・梁間5間、寄棟、桧皮葺。
1291年上棟、1306年頃の竣工。国宝。
鎌倉期に造られた大型の密教仏堂。山梨県および首都圏で最古の木造建築。
和様をベースとし、禅宗様と大仏様(鎌倉新様式)を部分的に採用した折衷様式。鎌倉新様式というムーブメントを、折衷という形でいち早く取り入れた一作と言えるでしょう。
滋賀県
【野洲市】御上神社本殿
桁行3間・梁間3間、入母屋、向拝1間、桧皮葺。
鎌倉後期の造営(推定)。国宝。
貴重な鎌倉期の大型本殿。入母屋本殿の草分けといえる存在で、建築史的にきわめて価値の高い物件。
どこか仏堂のような雰囲気を漂わせながらも、神社本殿として美しく清楚な姿に仕上げられている点も特筆です。
【近江八幡市】長命寺
境内伽藍全体でのノミネート。
長大な石段の参道、迫力ある本堂をはじめとする雄大な伽藍、そして眼下には琵琶湖の眺望。
とくに境内中心部は国重文の大規模な堂宇がいくつもひしめき、濃密な空間が構成されています。一言で評するなら「名刹の中の名刹」。
静岡県
【湖西市】本興寺本堂
桁行5間・梁間5間、寄棟、茅葺、正面および背面向拝各1間、桟瓦葺。
1552年再建。国指定重要文化財。
大規模な茅葺本堂。屋根は直線的なラインで構成され、折り目正しい印象。
秀逸だと思ったのは屋根葺きの使い分け。屋根から向拝が切り離されたように見えるため、屋根の軒先のラインをまっすぐに保つことができています。
愛知県
【稲沢市】長光寺地蔵堂
六角円堂、銅板葺。
1510年(永正七年)造営。国指定重要文化財。
六角円堂という非常にめずらしい様式の仏堂。
どちらかといえば珍物件のたぐい。江戸期の改造が顕著なようですが、独特な構造や繊細な軒裏など見るべきところは多いです。
また、若かりし日の織田信長がたびたびこの寺を訪れて茶を飲んだようで、歴史的なロマンも兼ね備えています。
奈良県
【広陵町】百済寺三重塔
三間三重塔婆、本瓦葺。
鎌倉時代の造営(推定)。国指定重要文化財。
標準的な構造の三重塔。虚飾のない純粋な和様の意匠で構成され、端正なプロポーションや木割の美しさが際立ちます。
廃寺になってもなお気高く屹立し、往時の隆盛を偲ばせます。
以上、9件が2021年の寺社建築ベストセレクションになります。