今回は富山県上市町の日石寺(にっせきじ)について。
日石寺は町南部の山間に鎮座する真言密宗の大本山です。山号は大岩山。通称は大岩不動。
創建は不明。寺伝によると、725年(神亀二年)に行基によって開かれたとのこと。創建から中世にかけての沿革は不明。室町後期は上杉氏の侵攻を受けて荒廃したようですが、江戸時代は加賀藩前田家の祈願所となり復興しました。
現在の境内伽藍は江戸後期から近現代のものですが、本尊の磨崖仏(岩に彫られた仏像のこと)は平安時代のもので、重要文化財に指定されています。ほか、独特な外観の三重塔が町の文化財となっています。
現地情報
所在地 | 〒930-0463富山県中新川郡上市町大岩163(地図) |
アクセス | 上市スマートICから車で15分 |
駐車場 | 50台(無料) |
営業時間 | 08:30-16:30(※境内は随時) |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり |
公式サイト | ※要確認 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
山門
日石寺の境内は西向き。
駐車場は境内の裏手にあり、正面のほうから境内に入ると、旅館や飲食店が並ぶ先に山門があります。
山門は、三間一戸、楼門、入母屋、桟瓦葺。
元禄年間(1688~1704)の再建。町指定有形文化財。
下層。正面3間のうち、1間が通路となっています(三間一戸)。
柱は角柱で、柱上の組物は大斗と舟肘木を組んだもの。
木鼻や中備えといった意匠はありません。
上層。扁額は大日王(?)。
柱間の建具は、中央は桟唐戸、左右は連子窓。
軒裏は一重の繁垂木。
上層も角柱が使われ、組物は大斗と舟肘木。木鼻や中備えがない点も同様。
縁側の欄干は擬宝珠付き。擬宝珠のついた親柱は、円柱ではなく八角柱に成形されています。
背面側。
ほぼ前後対称の造りですが、下層の背面側は壁がなく吹き放ちです。
山門の先には池があり、橋の先に阿覚窟なる洞窟があります。
案内板によると1897年に建設されたとのこと。洞内には空海にゆかりのある厄除大師が鎮座しています。
本堂と鐘楼
境内の中心部には、摩崖仏の覆い屋を兼ねた本堂が鎮座しています。
RC造、入母屋、向拝3間、銅板葺。
本尊の不動明王(摩崖仏)は平安時代の作で、「大岩日石寺摩崖仏」として重要文化財に指定されています。境内は何度か火災で焼失していますが、摩崖仏は損傷を免れ、現在も良好な状態で保存されています。
訪問時は拝観の時刻を過ぎていたため、堂内には入れませんでした。扉越しに摩崖仏の一部分が見えましたが、写真は撮れなかったため割愛。
向拝は3間。
向拝柱は大面取り角柱。柱上は出三斗。中央の柱間の中備えは蟇股。
紫の垂れ幕には、梅鉢の紋があります。
母屋部分。扁額は山号「大岩山」。
本堂のはす向かいには鐘楼があります。
切妻、桟瓦葺。
柱は上端が絞られた円柱。頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。
柱上の組物は出三斗。台輪の上の中備えは、木鼻のついた平三斗。
妻面。
こちらは、台輪の中備えに蟇股が置かれています。
妻飾りは笈形付き大瓶束。
破風板の拝みと桁隠しには、蕪懸魚が下がっています。
本堂周辺の伽藍
本堂向かって左側の一段低い区画には、観音堂があります。
桁行3間・梁間3間、宝形、銅板葺。
1996年造営。
正面の軒下。
建具は板戸。
左側面。
後方の柱間は横板壁が使われています。
向かって右手前の隅の柱。
柱は面取り角柱が使われ、頭貫に禅宗様木鼻がついています。
柱上の組物は出三斗。実肘木はなく、軒桁を直接受けています。
扉と頭貫の上の中備えは、蟇股。はらわたの彫刻はシンプルかつ抽象的な造形で、鎌倉時代の作風を意識したものと思われます。
本堂の裏手には六本滝。
ここで滝行をするようです。
六本滝から奥へ進むと、愛染堂があります。
入母屋、向拝1間、銅板葺。
向拝柱は大面取り角柱。
柱上は連三斗で、中備えは蟇股。
母屋柱は円柱。正面側面ともに3間です。背面側には、孫庇がついています。
建具は板戸と連子窓。頭貫に木鼻はなく、中備えは間斗束が使われています。いずれも和様の意匠。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
本堂向かって右側には、八角形の大日堂が鎮座しています。
八角円堂、銅板葺。
1975年造営。
正面の柱間は板戸。左右の斜め後方の壁面には連子窓。
柱間には長押が打たれています。柱の上部には頭貫がありますが、木鼻はついていません。
縁側はなく、内部は土間のようです。
柱上の組物は、平三斗を変形させたもの。
中備えは蟇股。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
三重塔
境内の奥には、独特な外観の三重塔が立っています。
三間三重塔婆、桟瓦葺。全高15メートル。
江戸時代後期の造営。町指定有形文化財。
この塔の最大の特徴は、母屋の柱間に壁や建具がないこと。よって、内部の軸組が丸見えの状態で、心柱などの構造を詳細に観察することができます。
内部の様子。
内部構造をいつでも観察できるのはすばらしいですが、落書きが目立つのが残念です。中には、柱を刃物で削った落書きもあります。
塔の中心部には心柱が立っています。この心柱は初重(最下層)の基壇まで通っていますが、江戸以降の五重塔・三重塔は心柱が接地していないことが多いため、これは古風な技法といえます。
心柱の四周には四天柱。4本の四天柱は土台の横木の上に立てられ、それぞれ貫や虹梁でつながれています。
正面および側面は3間。柱はいずれも円柱。
柱間は虹梁でつながれ、柱上には台輪が通っています。
柱の上部や台輪に木鼻はありません。
組物は和様の尾垂木二手先。中備えは間斗束(撥束)。
軒下の意匠は、おおむね和様で構成されています。
軒裏は、いずれの重も放射状の二軒繁垂木。
放射状の垂木(扇垂木)は禅宗様の意匠です。
初重を背面から俯瞰した図。
境内裏手には急坂の車道が通っており、道路の路肩に立つと、高い視点から塔を見下ろすことができます。
二重および三重。こちらも心柱が通っている様子が観察できます。
軒下の意匠や、壁と建具がない点は初重と同様。
ただし三重には縁側があり、跳高欄が立てられています。
頂部の宝輪。
路盤の上に逆蓮と九輪がありますが、その上には水煙がなく、宝輪としては簡素な造りです。
以上、日石寺でした。
(訪問日2023/05/05)