甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【鎌倉市】光明寺

今回は神奈川県鎌倉市の光明寺(こうみょうじ)について。

 

光明寺は海岸沿いの住宅地に鎮座する浄土宗の大本山です。山号は天照山。

創建年は不明。寺伝によると1240年、良忠が佐助ヶ谷(同市佐助)に開いた蓮華寺が前身とのこと。のちに蓮華寺は現在地に移転し、現在の寺号に改称しましたが、移転年については1243年(寛元元年)説と1259年(正元元年)説があります。室町中期には祐崇によって中興され、土御門天皇の祈願所となっています。江戸時代は、知恩院によって関東の主要な浄土宗寺院(十八檀林)とされ隆盛しました。

現在の境内伽藍は江戸中期から後期にかけてのもので、大規模な本堂と山門が並びます。とくに本堂は当初の江戸中期の形式がよく保たれており、国の重要文化財に指定されています。ほか、国宝の紙本著色当麻曼荼羅縁起を所蔵しています。

 

現地情報

所在地 〒248-0013神奈川県鎌倉市材木座6-17-19(地図)
アクセス 鎌倉駅から徒歩30分
朝比奈ICから車で20分
駐車場 30台(無料)
営業時間 07:00-16:00(※時期により変動するため公式サイトを要確認)
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 浄土宗大本山光明寺
所要時間 20分程度

 

境内

総門

光明寺の境内は北西向き。入口は住宅地の生活道路に面しています。

向かって右の寺号標は「大本山光明寺」。

 

入口の総門は、一間一戸、四脚門、切妻、本瓦葺。

市指定有形文化財。

 

正面から見た軒下。

柱はいずれも円柱。上端がわずかに絞られています。頭貫には禅宗様木鼻がついています。

 

通路上の欄間には竜の彫刻があります。

扁額の字は、私の知識では判読できず。

 

右側面(南面)。

主柱(写真中央)の側面にも木鼻が出ています。

妻虹梁の上には大瓶束が立てられ、棟木を受けています。大瓶束の左右には斜めの棒材が付き、豕扠首のような意匠となっています。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

内部の梁の上にも大瓶束が使われています。

 

門扉は桟唐戸。藁座で軸を受けています。

桟唐戸の菱組の格子の部分には、菊と五七の桐の紋が彫られています。

 

背面。

門の左右には袖塀がつづいています。

 

山門

総門をくぐり駐車場の先へ進むと、巨大な山門がそびえ立っています。

桁行5間・梁間3間、五間三戸、楼門、二重、入母屋、桟瓦葺。

1847年(弘化四年)頃の造営。鶴岡八幡宮から移築されたものとのこと。

県指定有形文化財。

 

下層。

正面5間で、中央の3間に扉が設けられています(五間三戸)。

門扉は板戸。

 

柱は円柱。柱間は頭貫でつながれ、柱上には台輪がわたされています。

左右両端の柱間には、飛貫や腰貫が使われています。

 

柱は上端が絞られ、粽柱です。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は二手先。真下に柱のない位置にも組物が置かれています(詰組)。

 

左側面(北面)。

側面は3間。柱間は横板壁。

たいていの楼門は、どんなに大規模なものでも側面を2間とするため、この門のように側面3間とする例は非常にめずらしいです。

 

上層正面。扁額は山号「天照山」。

欄干の影になってしまいましたが、母屋の柱間には桟唐戸が設けられています。

 

上層も上端の絞られた円柱が使われ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

組物は尾垂木三手先で、詰組がびっしりと並べられています。

 

上層左側面。

こちらも側面3間で、軒下には詰組が並びます。

軒裏は二軒繁垂木。放射状の扇垂木で、禅宗様の意匠です。

 

入母屋破風。拝みに懸魚が下がっています。

妻飾りは、虹梁と大瓶束らしきものが見えますが、懸魚の影になってしまいよく見えず。

 

背面全体図。

上層の背面の柱間は、桟唐戸と縦板壁がつかわれています。

下層の背面は、5間すべてに飛貫が通されています。

 

下層内部の様子。写真右が正面側です。

側面は3間ですが、通路部分は長い虹梁を前後方向にわたし、柱を省略しています。

通路上には、鏡天井が張られています。

 

本堂

楼門の先には本堂が鎮座しています。

ただし訪問時(2024/01/27)は保存改修のため半解体工事の最中で、足場や養生がかけられていました。

 

(※画像はWikipediaより引用、2008年頃の撮影)

上の写真は修理前の本堂。

桁行9間・梁間11間、入母屋、向拝3間、瓦棒銅板葺。

1698年(元禄十一年)造営国指定重要文化財

 

内部は畳敷きで、前方は外陣、後方は内陣と脇陣と後陣に分けられているようです。造営当初の形態がよく保たれており、江戸時代の浄土系寺院の本堂の遺構として価値があります。

 

開山堂と大聖閣

本堂向かって左には、開山堂が南面しています。

入母屋、向拝3間 入母屋(妻入)、銅板葺。

 

向拝柱は几帳面取り。正面に唐獅子、側面に象の木鼻があります。

虹梁中備えは蟇股。

 

正面の入母屋破風。

拝みには猪目懸魚。鰭は雲の意匠。

奥の妻飾りには、虹梁と笈形付き大瓶束が使われています。

 

開山堂と本堂のあいだの渡り廊下からは、庭園と大聖閣を見ることができます。

 

大聖閣の下層は寄棟、銅板葺。

前面に縁側が設けられています。

 

上層は八角の屋根となっています。頂部には鳳凰の彫金。

柱は円柱で、桟唐戸や連子窓のような意匠が柱間に使われています。

 

鐘楼と繁栄稲荷

本堂向かって右(南側)には鐘楼があります。

入母屋、桟瓦葺。

 

柱は円柱。

飛貫には牡丹、頭貫には唐獅子の彫刻がついています。

 

飛貫虹梁の上の中備えは波の彫刻。

組物は二手先で、台輪の上の中備えにも組物が置かれています。

 

入母屋破風。

拝みの懸魚には、竜らしき彫刻があります。

妻飾りの虹梁の上には、雲の意匠の蟇股。

 

鐘楼向かって左には、繁栄稲荷が北面しています。

繁栄稲荷本殿は、一間社流造、銅板葺。

 

虹梁中備えは、波の意匠の蟇股。

向拝柱は几帳面取り角柱で、組物は皿付きの連三斗。四角い肘木を介して軒桁を受けています。

 

母屋柱は円柱。

組物は出三斗で、中備えにも平三斗が置かれ、1本の通肘木を共有しています。

妻飾りは豕扠首。

 

以上、光明寺でした。

(訪問日2024/01/27)