甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲州市】熊野神社 後編(本殿の詳細)

今回も山梨県甲州市の熊野神社について。

 

前編では、拝殿と本殿の概要について述べました。

当記事では、本殿の詳細について述べます。

 

本殿(第一本殿と第二本殿)

向かって右(東側)の2棟。

右が第一本殿、左が第二本殿で、2棟とも同じ様式で造られているため、同年代の造営と考えられます。

 

建築様式は、一間社隅木入り春日造、桧皮葺。

「熊野神社本殿 2棟」として国指定重要文化財*1

構造や技法から、社記にある1318年(文保二年)造替のものと推定されています。

ただし、1318年という年代はあくまでも構造や技法からの推測にすぎないため、文化庁のデータベースでは室町中期のものとして扱われています。もし年代を示す棟札などがあって、鎌倉時代ものだと確定していたなら、国宝指定もありえる建築だと思います。

 

こちらは向かって右の第一本殿。

向拝は1間。向拝柱にしめ縄がかけられています。

向拝柱にわたされた虹梁は、眉欠きや袖切りはありますが、絵様は彫られていません。中備えもありません。

 

向拝柱は大面取り角柱。

柱の側面には、繰型や渦のついた木鼻があります。木鼻の上には皿斗が乗り、組物を持ち送りしています。

組物は連三斗。実肘木を介さず、軒桁を直接受けています。

 

向拝の下には、角材の階段が5段。階段に欄干はありません。

 

正面の柱間には、格子戸がはめ込まれています。

 

母屋柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定されています。

頭貫の上の中備えは間斗束。

 

向拝柱と母屋柱のあいだには、虹梁がわたされています。虹梁は、何かしらの文様で彩色されていたと思しき形跡が残っています。

虹梁の向拝側は組物の位置から出て、母屋側は頭貫の位置に取り付いています。また、母屋側は柱から出た斗栱で持ち送りされています。

前方の母屋柱の組物は出三斗。

 

母屋柱(写真右)の上からは、斜め方向に隅木が伸び、直交する垂木をさばいています。入母屋のような軒まわりです。

このような隅木のある春日造は、隅木入り春日造(すみぎいりかすがづくり)と呼ばれ、通常の春日造とは区別されます。ちなみに、隅木入りでない通常の春日造は、柱の上に破風板を入れて軒裏の垂木をさばきます。

 

向拝の庇の部分の側面には縋破風がつき、桁隠しに猪目懸魚が下がっています。

 

右側面(東面)は横板壁。

側面も、中備えは間斗束です。

 

後方の組物は連三斗。頭貫の位置から斗栱が出て、持ち送りしています。

母屋の組物も、軒桁を直接受けています。

 

左側面(西面)を後方から見た図。

こちらの側面は、柱間の中央に角柱を立てて仕切り、前方に板戸を設けています。

 

背面は1間。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面側は脇障子も欄干もなく、縁側が途切れたような外観です。

母屋の柱は井桁状の土台の上に立てられ、床下も円柱に成形されています。

 

正面の軒まわりは入母屋に似ていますが、背面は完全な切妻の造りになっています。

妻飾りは豕扠首。古風な意匠です。

破風板の拝みと桁隠しは猪目懸魚。

 

正面の破風。

木連格子が張られ、拝みには猪目懸魚。

 

大棟を後方から見た図。

春日造のため、大棟は前後方向に延びています。

千木は、X字状のものが大棟の両端に2つ置かれ、先端は水平に切りそろえられています。

鰹木は、細い紡錘形のものが3本。

 

第一本殿のとなりには、第二本殿があります。

2棟ともほぼ同じ造りをしているため、解説は割愛。

 

ただし、向拝やつなぎ虹梁を見ると、第一本殿は彩色の跡が残っていたのに対し、第二本殿は彩色が消されたのか、跡が残っていませんでした。

 

本殿(第三本殿~第六本殿)

第二本殿向かって左側には、小規模な第三本殿が並んでいます。

一間社隅木入り春日造、鉄板葺。

造営年不明。案内板(甲州市教育委員会)によると“再建ができず小祠に替えられ”たとのこと。

 

第三本殿の左側には、第四本殿、第五本殿、第六本殿。

3棟いずれも、一間社入母屋(妻入)、向拝1間、鉄板葺。

造営年不明。私の予想ですが、おそらく江戸中期のもの。案内板によると“江戸時代の再建で旧観を失”っているとのこと。文化財指定はとくにないようです。

 

こちらは3棟のうち、向かって右側にある第四本殿。

向拝は1間。柱にしめ縄がかけられています。

虹梁は絵様が彫られていますが、中備えはありません。

 

向拝柱は几帳面取り。側面には唐獅子の木鼻。

組物は連三斗。組物の上の肘木は、長い通肘木が使われています。

 

向拝柱の上の手挟は、松に鷹の彫刻。

向拝と母屋をつなぐ梁はありません。

 

正面の階段は5段。階段に昇高欄がついています。

階段の下には浜床。

 

母屋は正面側面ともに1間。

正面は板戸。左側面(西面)は、第一・第二本殿と同様に板戸があります。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

 

母屋柱は円柱。軸部は長押と貫で固定。頭貫には渦の意匠の木鼻。

組物は出組。中備えは、巻斗が置かれています。

桁下の支輪板にも渦の意匠が彫られています。

 

背面も1間。柱間は横板壁。

建築様式は春日造ではなく入母屋であり、背面側にも垂木がまわっています。

 

母屋柱は円柱ですが、床下は八角柱に成形されていました。

 

正面の入母屋破風。拝みには蕪懸魚。

第四以降の本殿は、大棟に千木や鰹木はありません。

 

第五、第六本殿については、第四本殿と同じ造りをしているため割愛。

 

最後に、第六本殿の裏にある名称不明の社殿。

一間社流造、銅板葺。

 

以上、熊野神社でした。

(訪問日2023/04/22)

*1:附:棟札4枚。内容は「再興応仁元年丁亥十二月十日」、「修覆宝暦元辛未十二月十五日」(2枚)、「修覆宝暦二壬申年十二月廿四日」。