今回は千葉県市川市の法華経寺(ほけきょうじ)について。
法華経寺は中山地区の市街地に鎮座する日蓮宗の大本山です。山号は正中山。
創建は1260年(文応元年)とされます。千葉氏家臣の富木常忍と太田乗明が、弾圧を受けていた日蓮をかくまい、法華堂を建てて草庵を提供したのが当寺の前身とのこと。寺院としての創建は日蓮(1282年没)の死後で、富木常忍が八幡に法花寺(法華寺)を、太田乗明の子息が中山に本妙寺を開きました。その後、1545年(天文十四年)に古河公方・足利晴氏によって法花寺と本妙寺は統合され、法華経寺が成立しました。室町後期から江戸中期にかけて何度か火災に遭っているようですが、加賀藩前田家などの庇護を受け、五重塔や祖師堂が再建されました。
現在の境内は室町後期から江戸中期にかけてのもので、五重塔などの4棟が重要文化財です。五重塔は関東でも数少ない遺構であるほか、巨大な祖師堂は比翼入母屋造というめずらしい様式で造られています。また、日蓮直筆の書など、多数の寺宝を所有しています。
当記事では、アクセス情報および山門、五重塔について述べます。
現地情報
所在地 | 〒272-0813千葉県市川市中山2-10-1(地図) |
アクセス | 京成中山駅から徒歩5分 原木ICから車で10分 |
駐車場 | 周辺に無料駐車場あり |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり |
公式サイト | 正中山 法華経寺 |
所要時間 | 40分程度 |
境内
総門(黒門)
法華経寺の境内は南西向き。京成中山駅の北に出て門前町を歩いて行くと、道路上に総門がかかっています。別名は黒門。
総門は、一間一戸、高麗門、切妻、銅板葺。
市指定有形文化財
内部向かって左側。
前方の主柱は几帳面取り角柱が使われていますが、後方の控柱は円柱が使われています。
向かって右側の柱上。
主柱の前後に、繰型のついた腕木を突き出し、軒桁を受けています。
柱上には大斗が置かれ、棟木を受けています。
背面。
後方の低い屋根の破風には、蕪懸魚が下がっています。
山門(仁王門、赤門)
黒門から数十メートルほど進むと境内入口があり、二重の山門が鎮座しています。別名は仁王門、赤門。
山門は、五間三戸、楼門、二重、入母屋、瓦棒銅板葺。
正面は5間で、中央の3間が通路となっています。五間三戸という様式の、大規模な門です。
左右両端の各1間には、仁王像が安置されています。
正面中央の柱間。
柱はいずれも円柱。柱間には飛貫虹梁がわたされ、中備えに雲の彫刻が置かれています。手前には雲(あるいは波?)の意匠の木鼻が突き出ています。
柱上の組物は三手先。桁下には軒支輪や格子の小天井が張られています。
正面向かって右の端。
頭貫木鼻は牡丹の意匠の籠彫りで、その上には台輪木鼻が添えられています。
組物のあいだの中備えは蟇股。
右側面。
側面は2間で、柱間は横板壁。飛貫虹梁の上は、中備えが省かれています。
上層。扁額は山号「正中山」で、本阿弥光悦の筆とのこと。
上層も正面5間。欄干の影になってしまい見えないですが、柱間は中央3間が桟唐戸、左右両端が連子窓です。
軒裏は上層下層ともに二軒繁垂木。下層は平行垂木であるのに対し、上層は放射状の扇垂木です。
頭貫には唐獅子の木鼻がつき、台輪の上の中備えに蟇股が置かれているのが確認できます。
組物は尾垂木三手先。斜め方向の尾垂木が、非常に長く伸びているのが印象的。
縁側は切目縁で、欄干は擬宝珠付きです。
上層右側面。
柱間は連子窓のようです。
そのほかの意匠は正面と同様。
下層内部の様子。通路上は格天井が張られています。
柱間には飛貫虹梁と頭貫虹梁が通り、それぞれの虹梁の上に蟇股が配されています。
背面の全体図。
五重塔
山門をくぐり、塔頭の立ち並ぶ参道を進むと、その先に五重塔が鎮座しています。
三間五重塔婆、瓦棒銅板葺。全高31.6メートル。
1622年(元和八年)造営。「法華経寺五重塔」として単独で国指定重要文化財となっています。
本阿弥光室が父母の供養のため発願し、加賀藩3代・前田利常*1の援助を受けて造営されたもの。
初重内部の中心には心柱がとおり、その四周に四天柱が立てられ、禅宗様の須弥壇に釈迦如来と多宝如来の木像が安置されているとのこと。内部は、金箔や極彩色で荘厳されているようです。
初重正面(南西面)。
外観は一面が赤い弁柄塗りで、これは1980年の修理時に塗られたようです。
柱は円柱で、いずれの重も正面側面ともに3間。
母屋の周囲に切目縁がまわされ、初重の縁には欄干がありません。
中央の柱間(写真右)は桟唐戸。
左右の柱間は連子窓が張られ、窓の下の腰壁には格狭間が入っています。
柱の上部には長押が2本打たれています。頭貫木鼻は見えず、軸部は和様です。
柱上の組物は、和様の尾垂木三手先。
中備えは蓑束。
側面も正面と同様の意匠です。
縁の下は、縁束と腰組に支えられています。
二重。
母屋や軒下の意匠は初重と同じですが、二重より上の重は縁側に跳高欄があります。
二重から五重を見上げた図。
軒裏はいずれも二軒繁垂木。
四重と五重。
初重から四重は平行垂木ですが、五重だけは禅宗様の扇垂木となっています。この扇垂木は、1912年(明治四十五年)の修理の際の改変らしいです*2。
初重とくらべると、五重の母屋は3分の2くらいの大きさで造られています。
案内板いわく、軒の出が小さく、細長く見えるとのこと。
頂部の宝輪。
路盤、受花、九輪、水煙、宝珠といった意匠が使われ、標準的な構成をしています。
山門と五重塔については以上。