今回は千葉県印西市の松虫寺(まつむしでら)について。
松虫寺は市東部の丘陵に鎮座する真言宗豊山派の寺院です。山号は摩尼珠山。
創建は不明。 寺伝によると聖武天皇の皇女・松虫姫が当地で病の平癒を祈願し、松虫姫の遺骨を納めるため、743年(天平十五年)に行基によって開かれたらしいです。本尊の七仏薬師は平安時代の作で、当寺は遅くとも平安時代には草創されていたと思われます。その後の沿革は不明。江戸中期後期には現在の主要な伽藍が再建され、明治時代には鎮守社の松虫姫神社と六所神社が寺の管轄から分離されました。
現在の境内伽藍は、仁王門と薬師堂が江戸中期の改築、四脚門と本堂は江戸後期の再建です。本尊の七仏薬師(瑠璃光如来)は貴重な平安時代の像で、国重文。ほか、南北朝時代から戦国時代にかけての仏具を寺宝として所蔵しています。
現地情報
所在地 | 〒270-1602千葉県印西市松虫7(地図) |
アクセス | 印旛日本医大駅から徒歩30分 富里ICまたは成田スマートICから車で30分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | 印西市 摩尼珠山 医王院 松虫寺 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
仁王門と鐘楼
松虫寺の境内は南向き。境内は丘陵地の集落の一画にあります。
入口の仁王門は、三間一戸、八脚門、切妻、銅板葺。
1718年改築。
正面は3間。扁額は山号「摩尼珠山」。
中央の1間が通路で、通路上に飛貫虹梁がわたされています。
軒裏は一重の繁垂木。
柱の上部には頭貫と台輪が通っています。
柱上の組物は出組。中備えの意匠はありません。
柱は上端がわずかに絞られ、頭貫には木鼻がついています。
妻飾りは二重虹梁。
大虹梁の上には蟇股と大瓶束が立ち、その上では虹梁大瓶束が棟木を受けています。
右後方から見た図。
後方の1間通りは壁がなく、吹き放ち。
軒下の意匠は正面と同様。
内部は棹縁天井が張られていました。
仁王門の右側(東)には鐘楼。
切妻、鉄板葺。
1865年(慶応元年)造営*1。
柱は円柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。
組物は出組で、中備えは詰組。
軒裏は一重まばら垂木。
妻飾りは二重虹梁。
大虹梁の上に大瓶束を2本立て、その上の虹梁大瓶束で棟木を受けています。
薬師堂(瑠璃光堂)
仁王門をくぐると、境内の中心部に薬師堂が鎮座しています。
桁行3間・梁間4間、入母屋、向拝1間、銅板葺。
1718年(享保三年)改築。徳川吉宗の援助を受けて改築されたとのこと*2。
本尊の七仏薬師(瑠璃光如来)は平安時代の仏像で、中心に薬師如来の座像が置かれ、その左右に各3体の立像を配置する構成になっているとのこと。つごう7体の薬師如来がならぶことから、七仏薬師と呼ばれます。「木造薬師如来坐像 1躯」「木造薬師如来立像 6躯」として国重文。
向拝柱は几帳面取り角柱。柱上は連三斗を2つ重ねた構成のもので、上の肘木には木鼻がついています。
柱の正面には唐獅子、側面には獏の木鼻。獏の頭に巻斗が乗り、組物を持ち送りしています。
虹梁は唐草の絵様が彫られ、中備えは蟇股。
蟇股の彫刻は、壷のまわりに3人の老人が立っています。題材はおそらく三聖吸酸。
海老虹梁は大きく湾曲した形状。母屋の頭貫の少し下に取り付いています。
向拝柱の上の手挟は、牡丹の意匠の籠彫り。
縋破風の桁隠しは、菊の花の意匠。
母屋の正面は3間。
側面は4間あり、その最前列の1間通りが吹き放ちの外陣となっています。
外陣と内陣は格子戸で隔てられ、側面の柱間は板戸と縦板壁。
縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。
母屋柱は、上端が絞られた円柱。頭貫と台輪が通り、頭貫には木鼻。
柱上の組物は出組。中備えは蟇股で、何らかの故事を題材にしたと思われる彫刻が入っています。
背面は3間。
柱間は縦板壁。
左側から、外陣の内部を見た図。
外陣の上には虹梁がわたされ、その上には小さい海老虹梁がわたされています。
内陣の正面中央。扁額は「瑠璃閣」。
扁額の裏の欄間には、波の彫刻。
松虫姫神社
仁王門と薬師堂の左側(西)には、かつて松虫寺の鎮守社だった松虫姫神社があります。
明治時代の神仏分離で松虫寺の管轄からはずれたようですが、当記事であわせて紹介。
入口には石造明神鳥居。柱と貫の接続部に、ブラケットのような持ち送りがついているのが風変り。
社殿(拝殿?)は、入母屋、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。
向拝柱は几帳面取り角柱。正面に唐獅子、側面に獏の木鼻。
柱上は出三斗。
虹梁は赤地に青で唐草が彫られ、中備えは松と鳳凰。
唐破風の小壁には、波と旭日の彫刻。
母屋は、正面3間、側面2間。
正面中央の扁額は「松虫姫神社」。
柱間は舞良戸や横板壁が使われています。
縁側は切目縁が3面にまわされ、背面側に脇障子を立てています。
六所神社
松虫姫神社の反対側、本堂の右手(東)には六所神社。こちらもかつては松虫寺の鎮守社だったようです。
入口には木造両部鳥居。
六所神社本殿は、桁行正面3間・背面1間、梁間1間、三間社流造、向拝1間、銅板葺。
向拝柱は面取り角柱。側面に象鼻。
柱上は出三斗。
正面の軒下には角材の階段が5段。
階段の下には浜床。
海老虹梁は向拝の組物の上から出て、軒裏をかすめて母屋頭貫の位置に取り付いています。
母屋の正面には3組の扉が設けられています。
母屋柱は円柱。頭貫と台輪が通り、頭貫には拳鼻。
母屋の組物は出三斗。台輪の上の中備えは蟇股。
妻飾りは大瓶束。
破風板の拝みと桁隠しは蕪懸魚。
以上、松虫寺でした。
(訪問日2022/11/19)