甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【弘前市】弘前八幡宮

今回は青森県弘前市の弘前八幡宮(ひろさき はちまんぐう)について。

 

弘前八幡宮は弘前城の北東の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によれば、坂上田村麻呂が蝦夷討伐の際に、宇佐神宮から勧請した八幡神を岩木村*1に祀ったのが始まりとのこと。安土桃山時代以降は大浦氏(津軽氏)の崇敬を受け、1590年に焼失した社殿が、津軽為信によって再建されています。

弘前城の築城(1611年)にともない、城の鬼門の鎮護として現在地へ移転し、現在の社殿はその際に造営されたもの。明治時代には神宮寺(別当)の最勝院が分離・移転し、当社は独立した神社となりました。

現在の主要な社殿は、江戸初期のもの。唐門と本殿は彫刻や彩色に安土桃山時代の華やかな技法が見られ、国重文に指定されています。また、「津軽一代様」の戌・亥年の本尊としても信仰されているようです。

 

現地情報

所在地 〒036-8057青森県弘前市八幡町1-1-1(地図)
アクセス 弘前駅または撫牛子駅から徒歩30分
大鰐弘前ICまたは黒石ICから車で20分
駐車場 20台(無料)
営業時間 境内は随時。本殿などの拝観は09:00-16:30。
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 【公式】弘前八幡宮
所要時間 20分程度

 

境内

参道と拝殿

弘前八幡宮の境内は南向き。

一の鳥居は明神鳥居。扁額は「八幡宮」。社頭より100メートルほど南の車道にかかっています。

横長でつぶれた感じの、いまひとつ締まらないプロポーション。車道の幅や、上を通る電線に配慮した結果こうなってしまったのでしょう。

 

車道を進むと、交差点に面した社頭に到着します。

二の鳥居は明神鳥居。扁額は「弘前八幡宮」。

 

境内に入ると駐車場があり、その一画に手水舎があります。

切妻、鉄板葺。

 

柱は角柱。

木鼻や蟇股、懸魚などの意匠が見られます。

 

拝殿は、入母屋(妻入)、鉄板葺。

扁額は「八幡宮」。

 

入母屋破風には木連格子が張られています。

破風板の拝みには鰭のついた懸魚。

 

拝殿向かって左手には、後方の唐門と本殿のほうへ行く通路があり、「拝観希望のかたは社務所にお声掛けください」と張り紙がありました。

拝観したい旨を社務所に申し出ると、パンフレットを頂けます。拝観料は取らないようです。

 

唐門(中門)

拝殿の後方には、唐門と本殿が鎮座しています。

唐門は、一間一戸、四脚門、入母屋、正面背面軒唐破風付、こけら葺。

1612年(慶長十七年)建立。「弘前八幡宮 2棟」として国指定重要文化財*2

 

正面の唐破風。兎毛通は蕪懸魚。

破風板には緑色に彩色された若葉の意匠がついています。

 

正面は1間。前方の控柱は、小さく面取りされた角柱が使われています。

門の内部には格天井が張られています。

 

頭貫木鼻は赤色の象鼻。柱上は彩色された舟肘木。

中備えは唐破風の桁を受ける木鼻と、蟇股。

木鼻は控柱の近くから前方に出て、実肘木を介して桁を持ち送りしています。

蟇股には花の彫刻。股の上には巻斗が乗り、肘木を介さずに梁を受けています。

唐破風の妻壁には大瓶束。

 

側面には冠木が突き出ています。

冠木の下には板蟇股が置かれていて、両端は緑色に彩色されています。

冠木の上には透かし蟇股が見えますが、冠木の陰になって彫刻はよく見えず。

 

背面にも軒唐破風がつき、ほぼ前後対称の造りとなっています。

門扉は桟唐戸。

 

本殿

本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、銅板葺。

社伝によると1612年(慶長十七年)建立。「弘前八幡宮 2棟」として国指定重要文化財*3

祭神は誉田別命、神功皇后、比売女神*4

 

正面の向拝柱は3間。

後方の母屋も3間で、3組の扉が設けられています。

 

向拝柱は角面取り。

柱上の組物は出三斗と連三斗で、極彩色に塗り分けられています。安土桃山時代の作風です。

側面の木鼻は象鼻。抽象的な象鼻から、写実的な象頭彫刻へと変遷してゆく過渡期といった趣です。

象鼻の上には巻斗が乗り、連三斗を持ち送りしています。

 

虹梁は無地の材が使われ、中備えは透かし蟇股。こちら(向かって左側)のものは彫刻が欠損してしまっています。

外側の向拝柱の上には連三斗と繋ぎ虹梁が、内側の向拝柱には出三斗と手挟が使われています。

 

繋ぎ虹梁と母屋。

繋ぎ虹梁はまっすぐな材が使われ、やや古風。母屋の頭貫の位置に取り付いています。

母屋柱は円柱。長押と貫で固定されています。

組物は出三斗と連三斗。中備えはありません。

妻飾りは豕扠首。

 

組物の詳細。

隅の組物は連三斗で、すぐ下の頭貫木鼻によって持ち送りされています。

母屋の中央の組物は、木鼻のついた平三斗。

 

背面も3間。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は跳高欄。

縁側の背面側は脇障子が立てられています。

 

腰組。

木鼻の意匠のついた腕木が縁束から伸び、腰組を持ち送りしています。

 

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

大棟には菊の紋と、つがいの鳩の彫刻がありました。

 

以上、弘前八幡宮でした。

(訪問日2022/04/09)

*1:現在の弘前市の一部。

*2:附 棟札5枚。うち2枚が唐門のもので、文化七年と嘉永四年の屋根の葺き替えの記録。

*3:附 棟札5枚。うち3枚が本殿のもので、宝暦五年、寛政三年、文化七年の屋根の葺き替えの記録。

*4:詳細不明。パンフレットによると交通安全の守護神らしい。