甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【国立市】谷保天満宮

今回は東京都国立市の谷保天満宮(やぼ てんまんぐう)について。

 

谷保天満宮は甲州街道沿線の丘陵に鎮座しています。

亀戸天神社(江東区)、湯島天満宮(文京区)とならぶ関東三大天神の1社とされます。

社伝によると創建は903年(延喜三年)。菅原道真の子の「菅原道武」なる人物が、父を弔うための廟を建てたのが始まりとされます。『延喜式』に記載のある「穴沢天神社」に比定される式内論社です。その後の沿革は不明ですが、江戸時代には幕府の庇護を受けています。

現在の社殿は江戸初期から後期にかけて再建されたもの。天満宮は学問の神ですが、当社は交通安全の神としても信仰されているようです。また、境内の一画は梅園になっています。

 

現地情報

所在地 〒186-0011東京都国立市谷保5209(地図)
アクセス 谷保駅から徒歩5分
国立府中ICから車で5分
駐車場 30台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 交通安全発祥と学業の神 谷保天満宮
所要時間 15分程度

 

境内

参道

谷保天満宮の境内は南東向き。

 

入口には一の鳥居。石造の明神鳥居で、扁額は「天満宮」。

正門(境内入口と一の鳥居)は北東を向いています。いわゆる鬼門です。

当初は境内の南が正門だったようですが、甲州街道のルートが丘陵の上(境内の裏手)を通るようになったため、北東を正門としたようです。

 

二の鳥居は石造の明神鳥居。

参道左手には手水舎。切妻、銅板葺。

 

正門や二の鳥居は、本殿などの社殿よりも高い場所にあり、坂を下って参拝する「下り宮」となっています。

関東で著名な下り宮というと上野国一宮の貫前神社(群馬県富岡市)がありますが、前述のとおり当社は街道のルート変更に対応した結果こうなっただけなので、純粋な下り宮とは言えないかもしれません。

 

鳥居をくぐって下ってゆくと左手に神楽殿があり、参道が右手に折れて、境内は南東向きになります。

神楽殿は入母屋、銅板葺。

扁額は篆書のような書体で「神楽殿」。

 

拝殿

境内の中心部には拝殿があります。

入母屋、向拝1間 入母屋(妻入) 正面軒唐破風付、銅板葺。

案内板(国立市教育委員会)によると、江戸末期の造営とのこと。

 

向拝柱は几帳面取り。

正面には唐獅子、側面には獏の木鼻。

向拝柱と虹梁(水引虹梁と繋ぎ虹梁)の接続部には、篭彫りの持ち送りが添えられています。

柱上の組物は出組。

 

虹梁中備えは竜の彫刻。

組物で持ち出された軒桁の下には、鶴の浮き彫り。

唐破風の小壁には大瓶束が立てられ、左右には唐獅子(あるいは麒麟?)の彫刻。

破風板の兎毛通には、鳳凰が彫られています。

 

向拝の屋根の破風。鬼板には梅の紋が見えます。

入母屋破風の拝み懸魚には怪鳥の彫刻。

 

母屋前面は桟唐戸と蔀戸。

 

桟唐戸の羽目板には唐獅子の彫刻。扉の軸の近くにも唐獅子の木鼻があります。

扉の上の中備えには菊と思しき花の彫刻。

 

母屋柱は角柱。

頭貫の上には台輪が通っています。頭貫木鼻は象鼻。

組物は出三斗と木鼻付き平三斗。

中備えは蟇股。梅などの彫刻が入っています。

 

側面。

柱間はいずれも蔀ですが、後方(写真左)の1間は、蔀戸の上端が火灯窓のようなカーブになっています。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

破風の内部には虹梁と大瓶束が使われています。

 

拝殿の背面にも入母屋(妻入)の庇が伸びており、棟が十字になっているようです。

 

本殿

拝殿の後方には、塀に囲われた本殿が鎮座しています。

桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、銅板葺。

祭神は天神(菅原道真)。ほか、創始者の菅原道武も祀られています。

 

伝承によると寛永年間(1624~1643)の造営とのこと(国立市教育委員会の案内板より)。

文化財指定はとくにないようです。寛永年間の建築となると都内でもそれなりに古いものなので、年代の根拠となる史料が残っていたなら都指定文化財くらいの価値はあると思います。

 

向拝は3間。

向拝柱と母屋柱は、S字に湾曲した海老虹梁でつながれています。

母屋の正面も3間で、3組の板戸が立てつけられています。

 

向拝柱は几帳面取り。

柱の正面は唐獅子、側面は獏の木鼻。

柱上は出三斗。組物の後方には手挟。

虹梁中備えは透かし蟇股。彫刻は暗くてうまく観察できませんでした。

 

彫刻には彩色の跡らしきものがあり、造営当初は極彩色のきらびやかな本殿だったのかもしれません。

 

西面の妻壁。二重虹梁になっています。

大虹梁の上には出三斗と蟇股。

二重虹梁の上の妻飾りは、笈形付き大瓶束。笈形は渦状の花の意匠。美しい意匠だと思いますが、塗り直しされていないのが惜しいです。

 

頭貫には唐獅子の木鼻。

組物は出組。

中備えの板蟇股は、はらわたに何かしらの絵が描かれていたように見えます。

桁下の板支輪には、波の浮き彫り。

 

母屋柱は円柱。壁面は横板壁。

縁側は4面にまわされ、背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

 

縁の下は三手先の腰組で受けられています。

組物のあいだの中備えには、板蟇股と巻斗が置かれています。

 

背面は3間。

細部の意匠は側面とほぼ同じ。

 

最後に境内南側の梅園。

ほとんど花が咲いていない(散ったあと?)状態でしたが、茶店が出ていて、花見客(?)が出入りしていました。

 

以上、谷保天満宮でした。

(訪問日2022/03/12)