今回は奈良県天理市の夜都岐神社(やつぎ-)について。
夜都岐(夜都伎)神社は市の東部の山際を通る山の辺の道の沿線に鎮座しています。社号は「やつき」「やとぎ」とも読まれるようです。
創建は不明。当地は興福寺や春日大社の社領だったため、「春日神社」が勧請されたようです。当初の「夜都岐神社」は現在地から約400メートル離れた場所にあり、「春日神社」に合祀されて現在の夜都岐神社になったという経緯があるようです。平安時代の『延喜式』には「夜都岐神社」の記載があり、当社はその論社の後継であるため、式内社を主張しています。春日大社から下賜された鳥居や本殿を使う伝統があり、1406年(応永十三年)に第四本殿が下賜された記録があります。
現在の本殿は明治時代に移築されたもので、桧皮葺の春日造です。並立する境内社も桧皮葺が維持されています。また、拝殿は当地ではめずらしい茅葺が採用されています。
現地情報
所在地 | 〒632-0047奈良県天理市乙木町765(地図) |
アクセス | 長柄駅から徒歩30分 天理東ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道と拝殿
夜都岐神社の境内は西向き。境内は、乙木集落の北端の田園地帯にあります。
右の社号標は「式内夜都岐神社」。
一の鳥居は木造の明神鳥居。扁額なし。
境内の案内板(設置者不明)によると、1848年(嘉永元年)に春日大社の若宮から下賜されたものとのこと。
一の鳥居から100メートルほど進むと参道が左に折れ、境内の敷地に入ります。
二の鳥居は石造の明神鳥居。南向き。扁額は「夜都岐神社」。
二の鳥居の先には社務所。
寄棟、桟瓦葺。錣屋根。
社務所の右手には西向きの拝殿があります。
入母屋、茅葺。
案内板いわく、“拝殿は藁葺で この地方では珍しい神社建築である”とのこと。茅葺(藁葺)の神社建築はさほどめずらしくないですが、言われてみると奈良県内ではほとんど見かけないと思います。
柱は角柱。柱間は格子戸。
軒裏は化粧垂木ではなく、野垂木と思われる垂木がそのまま見えています。
装飾材といえるような部材は見当たらず、非常に素朴な拝殿です。
妻面。
こちらも目立った意匠は見られません。
本殿
拝殿の後方には、5棟の本殿が並立して鎮座しています。
祭神はタケミカヅチや天児屋根など。
中央の本殿は、一間社春日造、檜皮葺。
案内板(設置者不明)によると現在の本殿は1906年(明治三十九年)改築。春日大社から下賜された、いわゆる「春日移し」の本殿ですが、いつ造られたかは不明。私の予想になりますが、おそらく幕末のものかと思われます。
向拝柱は角面取りで、上端はカラフルに色分けされています。
柱上の組物は連三斗。
虹梁の木鼻は獏の彫刻。頭上に巻斗が載り、組物を持ち送りしています。
向拝柱と母屋のあいだにはまっすぐな梁がわたされ、梁の上には白い板が張られています。
母屋柱は円柱。こちらも上端が色分けされています。柱上は舟肘木。
軸部は長押で固定されています。頭貫木鼻や中備えはありません。
前面は板戸。側面は板壁で、牡丹と思しき絵が描かれています。
母屋の前には角材の階段が5段。昇高欄の親柱は擬宝珠付き。
縁側は切目縁が3面にまわされ、背面側は脇障子を立ててふさいでいます。欄干は跳高欄。
大棟の上には、外削ぎの千木と紡錘形の鰹木が各2つ。
背面。
いずれの社殿も、背面は完全な切妻になっていて、春日造であることが確認できます。
左手(北側)には、5棟の本殿とは別に塀で囲われた社殿があります。こちらは八坂神社。
この社殿も、一間社春日造、檜皮葺。
以上、夜都岐神社でした。
(訪問日2022/02/23)