今回は大阪府藤井寺市の辛国神社(からくに-)について。
辛国神社は市の中心部に鎮座しています。
創建は不明。雄略天皇の時代、物部氏の一族である辛国連が祖先を祀ったのが始まりとされます。平安期の『延喜式』には当社が記載され、式内社に列しました。室町前期には河内国守護・畠山氏の寄進を受けて現在地に移転し、春日大社を合祀しています。明治期には現在の社号に改称しています。
境内は市街地にありながら広い社叢に覆われ、長い参道を有しています。社殿についてはとくに文化財指定などはないようです。
現地情報
所在地 | 〒583-0024大阪府藤井寺市藤井寺1-19-14(地図) |
アクセス | 藤井寺駅から徒歩5分 藤井寺ICから車で10分 |
駐車場 | 5台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 辛國神社 公式ホームページ |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
辛国神社の境内は東向き。駅近くの商店街の入口あたりにあり、ここから50メートルほど北へ行くと葛井寺の西門があります。
一の鳥居は木造の両部鳥居。扁額は「辛國神社」。
二の鳥居は石造の明神鳥居。
参道右手には手水舎。
切妻、銅板葺。
拝殿と本殿
参道の先には拝殿が鎮座しています。
拝殿は、入母屋、正面千鳥破風付、向拝3間・軒唐破風付、銅板葺。
正面には軒唐破風(左手前)と千鳥破風(右奥)が設けられています。
両者とも破風板や鬼瓦は金色のメッキで飾られていて、神社らしい華やかさ。
向拝は3間あります。
中央の柱間は広く取られていて、無地の虹梁の上には蟇股が置かれています。蟇股には唐草と花(種類不明)が彫られています。
唐破風の小壁の妻飾りは笈形付き大瓶束。大瓶束は太く短いものが使われ、笈形は蟇股と同様の唐草の意匠。
3間あるうちの、向かって右。こちらは柱間が狭いです。
向拝柱は大きく角面取りされています。古式を意識したのでしょうか。
柱上の組物は出三斗。写真右の出三斗は、柱側面から出た斗栱で持ち送りされています。
向拝と母屋はまっすぐな梁でつながれています。
母屋柱は角柱で、柱上は舟肘木。
軒裏は、向拝のあたりは二軒繁垂木となっていますが、向拝から離れるにつれ垂木がだんだんまばらになって行っています。
拝殿の後方には塀に囲われた本殿が鎮座しています。
拝殿と本殿は幣殿(写真左)で連結されているため、広義の権現造(ごんげんづくり)と言っていいでしょう。同市の道明寺天満宮と似た構造です。
本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間?、銅板葺。
大棟には外削ぎの千木と、5本の鰹木が載っています。棟や破風板には「上り藤」の紋。
祭神はニギハヤヒ、天児屋根、スサノオ。
向拝柱は角柱、母屋柱は円柱。頭貫木鼻や連三斗などが確認できます。
妻飾りは豕扠首。破風板の桁隠しには猪目懸魚。
春日天満宮
境内の北側には摂社・末社が南向きに鎮座しています。
こちらは春日天満宮。「春日」は江戸期の辛国神社が春日社と呼ばれていたことに由来するようで、この社殿は天神(菅原道真)が単独で祀られているようです。
本殿の前には切妻、銅板葺の中門のようなものが設けられています。扁額は社号「春日天満宮」。
写真の中央上端に見えるのは本殿の鰹木と千木。
本殿は一間社春日造、正面軒唐破風付、銅板葺。
安土桃山風の極彩色ですが、虹梁など軸部の一部が白く塗装されていて独特な配色になっていると思います。
向拝柱は糸面取り。柱の上部は白く彩色されています。
階段や長押、欄干の擬宝珠は金具で飾られ、華やかな雰囲気。
虹梁は白地に黒で唐草の絵様が描かれています。中備えの蟇股には竜が絡みつき、緑色に彩色されています。
柱上の組物は連三斗。内側は虹梁の上に乗り上げ、唐破風の桁を受けています。
唐破風の下にも白い妻虹梁がわたされ、妻飾りに力神が使われています。力神はしゃがんだポーズで唐破風の棟木を受けています。
母屋柱は円柱。地は赤で、上半分は青、緑、白に塗り分けられています。
正面は吹寄せ格子の引き戸。
側面の壁には「鹿に紅葉」らしき絵がありますが、退色してしまっています。
縁側は正面と左右の計3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。背面側は脇障子を立ててふさいでいます。脇障子の羽目の彫刻は松。
長押、頭貫、軒桁は幾何学的なパターンで塗り分けられています。
頭貫木鼻は拳鼻。組物は出三斗。
中備えの蟇股には彫刻がありますが、題材がよく解らず。蟇股の左右の小壁は雲状の意匠になっています。
春日稲荷社
春日天満宮の近くには春日稲荷社。
一間社流造、銅板葺。
こちらはとくに彩色されておらず、各所の意匠も簡易的なものになっています。
以上、辛国神社でした。
(訪問日2021/11/21)