甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【津市】津観音(観音寺)

今回は三重県津市の津観音(つ かんのん)について。

 

津観音は津の中心市街に鎮座する真言宗醍醐派の寺院です。山号は恵日山、寺号は観音寺、院号は大宝院。

浅草観音(東京都台東区)、大須観音(名古屋市)とならぶ日本三大観音のひとつ。

創建は伝承によれば709年(和銅二年)。阿漕浦にて漁夫の網に観音像がかかり、これを祀ったことに由来するらしいです。室町期には地震による浸水を受け、境内を現在地に移転しています。戦国期には織田氏と北畠氏の争乱に巻き込まれ、安土桃山期には関ヶ原の戦いの前哨戦で境内伽藍を焼失しました。江戸期には津藩主・藤堂氏によって再建されましたが、1945年の空襲を受けて境内伽藍のすべてを焼失しました。

現在の境内は戦後に整備されたもの。伽藍は昭和後期から平成初期のもので、大規模な本堂のほか、県内で唯一となる木造五重塔が立ち並びます。

 

現地情報

所在地 〒514-0027三重県津市大門32-19(地図)
アクセス 津駅または近鉄名古屋線 津新町駅から徒歩25分
津ICから車で10分
駐車場 20台(無料)
営業時間 08:00-20:00
入場料 無料(※堂内拝観および資料館は500円)
寺務所 あり
公式サイト 津観音 | 三重県津市
所要時間 20分程度

 

境内

仁王門

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津観音の境内は南向き。

幹線道路には背を向けるように鎮座しており、正面側は商店街となっています。

寺号標は右が「恵日山観音寺」、左が「別格本山 大宝院」。

 

仁王門は三間一戸、八脚門、切妻、本瓦葺。

1980年再建。

 

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柱は円柱。頭貫木鼻はありません。

組物は四角い木鼻(?)がついた平三斗。

軒裏は二軒繁垂木。

 

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妻壁。

妻飾りは二重虹梁になっており、大小の虹梁の上には板蟇股が計3つ配置されています。

 

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破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

大棟鬼板には鬼瓦があります。

 

手水舎

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参道左手には手水舎。

切妻、本瓦葺。

1986年再建。

 

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柱は面取りされた角柱。柱上は大斗と舟肘木。

ほか、頭貫木鼻、妻壁の板蟇股、破風板拝みの蕪懸魚といった意匠が見られます。

軒裏は一重まばら垂木で、内部は格天井。

 

鐘楼堂

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参道右手には鐘楼堂。

入母屋、本瓦葺。

1984年再建。

 

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柱は円柱。上部に台輪と木鼻がとおり、禅宗様木鼻がついています。

柱上の組物は出組。

軒裏は二軒繁垂木。

 

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飛貫の上の中備えは蟇股。

はらわたの彫刻は、鎌倉~室町あたりの作風を意識したような造りで、幾何学的な図形や唐草が彫られています。

 

観音堂(本堂)

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境内の中心部には、堂々としたたたずまいの本堂が鎮座しています。

桁行5間・梁間5間、寄棟、向拝1間、本瓦葺。

1968年再建。

本尊は観音菩薩。

 

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大型の仏堂のため、向拝も大きく取られています。

 

仏教寺院の境内に現代風の街灯があるのが少し気になるかもしれませんが、津観音の伽藍はあくまでも現代建築なので、そう考えると決して悪くないと思います。

 

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向拝柱は角柱。古式の作風を意識したのか、大きく面取りされています。

柱上の組物は連三斗。

側面には象の木鼻。象の頭に巻斗が乗り、組物を持ち送りしています。

 

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虹梁中備えは蟇股。はらわたには火炎のついた宝珠が彫られています。

 

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軒裏を受ける手挟は、菊水が浮き彫りになっています。

向拝柱と母屋をつなぐ懸架材はありません。

 

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母屋正面の柱間は5間。

柱間の建具はいずれも二つ折れの桟唐戸。

 

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母屋柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定されています。

頭貫には拳鼻。中備えは間斗束。

柱上の組物は出三斗。

 

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向かって左の側面(西面)。

前方の3間は桟唐戸、後方の2間はしっくいの壁と連子窓になっています。

 

護摩堂

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観音堂向かって左手前には護摩堂が東向きに鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、寄棟、向拝1間、本瓦葺。

1994年再建。

 

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向拝柱は小さく角面取りされています。

側面には拳鼻。

柱上の組物は出三斗。軒裏を受ける手挟は、繰型が彫られた比較的簡素なもの。

 

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虹梁中備えは蟇股。

はらわたは幾何学的な唐草が彫られ古風ですが、青や緑の派手な彩色は安土桃山期の作風を意識したように見えます。

 

五重塔

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本堂左手、境内の西側には五重塔が建っています。

三間五重塔婆、初重裳階付、本瓦葺。全高21メートル。

2001年再建。

 

一見すると六重に見えますが、いちばん下の屋根は裳階(もこし)といい、初重(第一重)の軒下に設けられた庇であるため、これは五重塔です。ちなみに、法隆寺五重塔(奈良県斑鳩町)も同様の造りをしています。

 

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初重の裳階の軒下。

中央は桟唐戸、左右は吹寄せ格子の火灯窓が設けられています。

 

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柱は上端がわずかに絞られています。

柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様木鼻が設けられています。

組物は出三斗。柱間にも組物が配置されています(詰組)。

軒裏は一重の繁垂木。

 

桟唐戸、火灯窓、頭貫および台輪の木鼻、詰組など禅宗様の意匠が散見されます。

 

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初重および二重の屋根の軒下。

こちらは台輪が使われておらず、頭貫木鼻も見当たりません。

組物は尾垂木二手先。中備えは詰組ではなく間斗束。

軒裏は二軒繁垂木。

 

裳階の軒下とは打って変わって、屋根の軒下は和様(禅宗様でない)の意匠でまとめられています。

 

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初重から五重の見上げ。

すらりと高くそびえるようなバランスですが、初重に裳階があって母屋が大きいため安定感のあるシルエットになっていると思います。

 

以上、津観音でした。

(訪問日2021/09/19)