今回は長野県諏訪市の善光寺(ぜんこうじ)について。
善光寺は市西部の山際の集落に鎮座する真言宗智山派の寺院です。山号は松尾山。
長野県に3件ある善光寺のひとつ。通称は諏訪善光寺。
創建は不明。伝承によると本田善光の開基で、本尊の善光寺如来を坐光寺(元善光寺)から善光寺へ移す途中、7年ほど当地に安置されたのが由来とのこと。
境内は高台に鎮座し、江戸後期に大隅流の宮大工によって造られた山門が市指定文化財となっています。また、廃仏毀釈で破却された神宮寺の寺宝を数多く所蔵しているようです。
現地情報
所在地 | 〒392-0131長野県諏訪市湖南4890イ(地図) |
アクセス | 上諏訪駅から徒歩1時間 諏訪ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
山門
善光寺の境内は北東向き。めずらしい方角ですが高台の斜面の向きにあわせただけで、とくに深い意味はないと思われます。
山門は三間一戸、楼門、入母屋、銅板葺。
1826年(文政九年)造営。市指定有形文化財。
棟梁は矢崎玖右衛門(境内案内板では“九右衛門”と表記)。矢崎玖右衛門元形は大隅流の宮大工で、茅野市の三輪神社本殿と酒室神社本殿を造営した人物。
下層。
柱は円柱で、前方の1間は壁がなく吹き放ち。
柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様木鼻が設けられています。
柱上の組物は通常の出三斗。桁を介して上層の縁側を受けています。
内部中央は角柱になっており、ここだけ太い梁が使われています。変わった造りです。
冠木門に柱を付け足して楼門にしたかのような構造。
南側から見た側面。写真右が正面側です。
背面側も壁がなく、吹き放ちになっています。
上層。扁額は山号「松尾山」。
軒裏は二軒繁垂木。
門の前の道がせまいため、あまり引いた構図の写真が撮れません。
上層も円柱が使われています。軸部は長押と頭貫で固定。
下層と同様、頭貫と台輪に禅宗様木鼻が設けられています。
組物は出組。
縁側の欄干は擬宝珠付き。
組物で持ち出された桁の下は板支輪になっていて、彫刻があります。
こちらは向かって左側面(南面)で、題材はツバメとカササギと思われます。
後方から見た全体図。
上層も吹き放ち。
大棟と鬼板には、立ち葵の紋が描かれていました。
山門の北側には総門(通用門?)。
一間一戸、切妻、鉄板葺。
後方から見た図。
2本の主柱に屋根をかけ、主柱の後方に控柱を設けた構造。
この様式は特にこれといった名前はないので、単に「門」としか言いようがありません。
内部。柱は角柱。
柱から腕木を伸ばして桁をわたし、軒裏を受けています。軒裏はまばら垂木で化粧屋根裏。
本堂
山門の先には本堂。
入母屋、銅板葺。
本尊は善光寺式阿弥陀三尊。
手前の木はモクレンのようです。
正面中央。扁額は「善光寺」。
鰐口が吊るされています。
ガラス戸には立ち葵の紋。善光寺(長野市)と同じ紋です。
母屋柱は円柱。
頭貫には象鼻が付き、柱上は台輪がまわされています。
組物は出三斗。中備えは蟇股。
軒裏は三軒のまばら垂木。垂木は放射状に延びています(扇垂木)。
三軒はちょっとめずらしいですが、三軒で扇垂木の例は初めて見ました。格好良い軒裏だと思います。
本堂向かって左側面(南面)の屋根。手前の屋根は後述の観音堂。
本堂の棟はT字を逆さにした形状で、神社の拝殿と幣殿のような構造です。あるいは、撞木造(長野市の善光寺本堂の様式)の前後を逆にした造りと言えるかもしれません。
本堂向かって右には玄関。
屋根は切妻、銅板葺。
中央はガラス戸、左右には火灯窓。
玄関の虹梁の上には、松に鷹の彫刻がありました。
その他の堂
本堂左手には観音堂。
宝形、銅板葺。
正面にのみ縁側が設けられています。壁は正面が板張り、側面がしっくい壁。
扁額は「観音堂」。
桟唐戸の意匠の引き戸が使われています。
柱上に組物はなく、母屋から腕木を伸ばして桁をわたし、軒裏を受けています。
観音堂の手前、山門の南側には松尾社。
山号の「松尾山」との関連性は不明。
境内南端の少し高くなった区画には瑠璃殿が北向きに鎮座しています。
宝形、銅板葺。
扁額は「瑠璃殿」。
こちらは組物や中備えがあります。
軒裏は、観音堂と同様に腕木を伸ばして軒を受けています。
頭貫には象鼻。
組物は出三斗。
中備えは蟇股。はらわたの彫刻は、菊水などが彫られていました。
最後に山門から南方を望んだ図。
中央奥は茅野市街、その先には峻険な八ヶ岳が壁のようにそびえています。
以上、善光寺(諏訪善光寺)でした。
(訪問日2021/10/06)