今回は群馬県中之条町の日向見薬師堂(ひなたみ やくしどう)について。
日向見薬師堂は四万温泉の最奥部に鎮座しています。
創建は平安中期とされ、湯前薬師の別名があります。境内は門とお籠堂と薬師堂があるだけのシンプルな内容ですが、茅葺の薬師堂は安土桃山時代に造られたもので国重文に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒377-0601群馬県吾妻郡中之条町四万4371(地図) |
アクセス | 月夜野ICまたは渋川伊香保ICから車で1時間 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
山門
日向見薬師堂の境内は南向き。
寺務所もなく無住の寺院に見えますが、中之条町の市街から四万温泉へゆく途中にある揚水山宗本寺という浄土宗の寺院が所有管理しているようです。
山門はまるで神社の両部鳥居のような構造をしており、ほかの寺社では見かけない造りです。
形式的には「一間一戸の四脚門、切妻、こけら葺」といったところ。
主柱は角面取りされています。
腕木は貫のように主柱を貫通していて、先端は断面が白く塗られています。
内部には天井がなく、化粧屋根裏になっています。軒裏は一重のまばら垂木。
お籠堂
主題の日向見薬師堂の前にはお籠堂があります。
お籠堂という名称ではありますが、どちらかといえば八脚門に近い構造に見え、中央部を通行することができます。
湯治客が数日のあいだここに籠もって読経し、ときには断食や水垢離などの荒行をした場所とのこと。
桁行3間・梁間2間、寄棟(平入)、茅葺。
『四万村誌』によると1619年(慶長十九)の造営。町指定重要文化財。
日向見薬師堂
お籠堂の奥には日向見薬師堂が鎮座しています。
桁行3間・梁間3間、寄棟(平入)、茅葺。
棟札より1598年(慶長三)の造営。棟梁は当地の宮大工と思われる横尾縫殿助(よこお ぬいのすけ)。
国指定重要文化財。群馬県内では最古の仏堂であり、寺院建築で国重文となっているのは県内唯一とのこと。
本尊は薬師如来。真田信之の武運長久を祈願して建てられたようです。
正面。
白飛びして見づらいですが、中央は両開きの桟唐戸。扁額は「薬師堂」。
内部には厨子が安置されており、これは1537年の作とのこと。
柱はいずれも円柱。上端が絞られ、粽になっています。
柱の上端には頭貫が通り、台輪がまわされています。頭貫と台輪に木鼻がつけられ、禅宗様の木鼻です。
組物は一手先で木鼻がついたもの。母屋側の組物は上に向けて広がる形状をしており、禅宗様の組物を想起させる構成。
軒裏は二軒の平行繁垂木。
ここまで禅宗様の意匠がつづいたので軒裏は扇垂木と思いきや、意外にも平行垂木です。
平行垂木は和様の意匠なので、この薬師堂は和様と禅宗様の良いとこ取りを狙った「折衷様」です。
縁側は欄干のない切目縁が4面にまわされています。床下は縁束。
なお、典型的な禅宗様建築は母屋を土間にし、縁側は設けないことが多いです。
母屋柱の床下は、円柱の成形が八角柱に手抜きされていました。
左側面(西面)。
屋根葺きは素朴な印象を受けやすい茅葺。ですが軒裏や茅負をよく見るとわずかに照り(反り)がつけられていて、素朴さの中にも優美な貫禄と品格が備わっているように感じます。
背面。こちら側には孫庇のような構造があります。
背面・側面ともに壁板は縦方向に張られています。これも禅宗様の意匠。
最後に薬師堂の隣にある御夢想の湯。
3層の構造になっており、正面には向唐破風の向拝が2つ並んだおもしろい造り。
以上、日向見薬師堂でした。
(訪問日2020/11/22)