甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【京都市】月読神社

今回は京都府京都市の月読神社(つきよみ-)について。

 

月読神社(月讀神社)は桂川西岸の住宅地に鎮座する松尾大社の摂社です。

創建は『日本書紀』によると、第23代・顕宗天皇の時代、月神なるものを葛野郡(嵐山や太秦の近辺)の歌荒樔田(うたあらすだ)という地に祀ったのが始まりとされます。史料上の初見は701年(大宝元年)で、『日本文徳天皇実録』によると、856年(斉衡三年)に現在地に遷座しました。平安時代の『延喜式』では「葛野坐月読神社」として名神大社に列しています。

中世の詳細な沿革は不明ですが、安土桃山時代以降は松尾大社の管理下に置かれました。1877年に、正式に松尾大社の摂社となり、現在に至ります。

壱岐の月読神社の分霊とされ、創建に渡来人が関わった古社であることから、境内が市指定の史跡となっています。本殿などの社殿は江戸後期のものと思われますが、桧皮葺の屋根が維持されています。

 

現地情報

所在地 〒615-8296京都府京都市西京区松室山添町15(地図)
アクセス 松尾大社駅から徒歩10分
沓掛ICから車で15分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

薬医門

月読神社の境内は東向き。境内は松尾大社から南へ400メートルほどの位置にあり、入口は住宅地に面しています。

入口には明神鳥居。扁額は「月讀大神」。

 

鳥居の先は一段高い区画となっており、拝殿などの社殿は、門と塀に囲われています。

門は、一間一戸、薬医門、切妻、銅板葺。

 

向かって左後方から見た図(南面)。写真右が正面側です。

写真右の主柱からは冠木が突き出ています。主柱と控柱(左)には梁がわたされ、梁の先端は繰型のついた木鼻。妻飾りは大きな板蟇股。

破風板の拝みには、鰭付きの蕪懸魚。

 

内部にわたされた梁には、蟇股のかわりに大瓶束が立てられていました。

軒裏は一重まばら垂木で、化粧屋根裏。

 

拝殿

境内の中心部には拝殿と本殿(写真右奥)が鎮座しています。この2棟は、鳥居や薬医門の筋より、少し左にずれた軸上にあります。

拝殿は、梁間3間・桁行2間、入母屋(妻入)、銅板葺。

造営年不明。案内板*1には“江戸時代に建てられた本殿、拝殿”とあり、江戸後期のものと思われます。

 

四面すべての柱間に建具がなく、吹き放ち。

縁側は切目縁で、跳高欄が立てられ、階段の親柱は擬宝珠付き。

 

正面の軒下。

柱は面取り角柱。軸部は長押と頭貫が使われ、木鼻はありません。柱上は舟肘木。

内部は格天井。軒裏は一重まばら垂木。

正面の軒先には、後補のものと思われる庇がついています。松尾大社の拝殿にもこのような後補の庇がありましたが、そちらと較べてこの拝殿の庇はやや粗末な感がなきにしもあらず。

 

本殿

拝殿の奥には、低い基壇の上に本殿が鎮座しています。

祭神は社名のとおりツクヨミ(月読)。

 

桁行正面1間・背面2間・梁間1間、一間社流造、檜皮葺。

造営年不明。拝殿と同様、江戸後期のものと思われます。

 

虹梁中備えの蟇股。

実肘木と一体化した形状のもの。

 

向拝柱は面取り角柱。

柱上は連三斗。実肘木はなく、桁を直接受けています。

柱の側面には拳鼻がつき、巻斗を介して持ち送りしています。

 

海老虹梁はゆるやかにカーブした形状。

母屋側は頭貫の位置から出て、向拝側は組物の上に降りています。海老虹梁にしては細く、軒下のかなり高い位置を通っています。

 

母屋柱は円柱。

母屋の前面には金具のついた板戸。

戸の上の扁額は「月讀大神」。

 

軸部は、柱のやや低い位置に長押と頭貫がついています。

柱上は舟肘木、妻飾りは豕扠首で、古風な和様建築の意匠です。

 

母屋の右側面(北面)。

母屋の柱間や、頭貫の上や、床下はシンプルな白壁。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面は脇障子を立ててふさがれ、脇障子も白く塗られています。

 

背面は中央に柱が1本追加され、2間となっています。

柱間や中備えに、とくに意匠がない点は正面や側面と同様です。

 

境内社

本殿の左右には、小規模な境内社。こちらは本殿向かって左側の聖徳太子社。

一間社流造、桟瓦葺。見世棚造。

小規模な本殿ですが、本殿で瓦屋根はめずらしいです。

 

こちらは本殿向かって右の御船社。

一間社流造、銅板葺。見世棚造。

母屋に対して屋根が大ぶりに造られています。

 

右に見えるのは「願掛け陰陽石」なる岩。

ほか、境内には神功皇后にまつわる伝承がある「月延石」なる岩もありますが、写真を撮り忘れてしまったため割愛。

 

以上、月読神社でした。

(訪問日2023/02/22)

*1:京都市による設置