甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【多摩市】小野神社

今回は東京都多摩市の小野神社(おの-)について。

 

小野神社は多摩川南岸の住宅地に鎮座している武蔵国一宮です。

創建は不明。社伝によれば第3代・安寧天皇の時代とのこと。川の氾濫による遷座を繰り返しているため、当初の遷座地も不明。

史料上の初出は奈良時代から平安時代で、772年の太政官符に当社と思われる記述があります。『日本三代実録』の884年の記事にも登場し、平安初期には確立されていたようです。室町時代には太田道灌や後北条氏の崇敬を受け、江戸時代には幕府の庇護を受けて栄えました。

大國魂神社(府中市)には「一宮」として当社が合祀されていますが、平安時代に編纂された『延喜式』には小社として記載されています。なお、同郡に同名の小野神社(府中市)があり、現在は式内論社とされています。

 

現在の境内や社殿は、近現代に整備されたものと思われます。本殿は朱塗りの三間社、随神門には多数の彫刻が配されています。

 

現地情報

所在地 〒206-0002東京都多摩市一ノ宮1-18-8(地図)
アクセス 聖蹟桜ヶ丘駅から徒歩10分
国立府中ICから車で15分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト 武蔵国一之宮 小野神社
所要時間 15分程度

 

境内

随神門

小野神社の境内は西向き。めずらしい方角を向いています。

鳥居は石造の明神鳥居。

右の社号標は「武蔵一之宮 小野神社」。

 

鳥居の先には随神門。

三間一戸、八脚門、切妻、正面軒唐破風付、銅板葺。

 

右側面(南面)。

母屋に対して屋根が高く、やや頭でっかちなプロポーション。

 

母屋正面。扁額は「随神門」。

軒下は多数の彫刻で飾られています。

 

中央の通路部分の柱間。

虹梁の両端には、波と竜(あるいは怪鳥)が立体的に彫られています。その左右には唐獅子の木鼻。

虹梁の上の中備えは竜の彫刻。

扁額の両脇の笈形は、波間を泳ぐ鯉が彫られています。

 

向かって左の柱間。

柱はいずれも糸面取り角柱。

飛貫虹梁の絵様は、松と鷹が彫られています。その上の欄間彫刻は菊に唐獅子。

柱上の組物は出三斗。中備えの彫刻は、竹に鶏。

 

向かって右。

飛貫虹梁の上の欄間は唐獅子。

頭貫上の中備えは兎。

 

隅の柱には籠彫りの木鼻がついています。

題材は波に鯉。

 

向かって左側面(北面)の妻壁。

中央の柱の上は組物が省略され、舟肘木になっています。

頭貫の上の彫刻の題材は猪。

妻飾りは笈形付き大瓶束。結綿の部分が獅噛になっています。

 

破風板の飾り金具には菊の紋の意匠。大棟や鬼板にも菊の紋があります。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚、桁隠しは猪目懸魚。

 

内部通路。こちらは向かって左側。

手前(写真左)には飛貫虹梁がわたされ、雷神の彫刻があります。その上にも鬼(あるいは力神?)の彫刻。

後方の壁面の中備えは、板蟇股と間斗束を合体させたような部材が使われています。

 

向かって右側。

こちらには風神が配されています。

通路部分は格天井が張られています。

 

背面にも唐獅子などの彫刻が配置されています。

軒裏は二軒繁垂木。

 

南門

随神門向かって右側、境内南東にも出入り口があります。

入口には石造の明神鳥居。

南門は、三間一戸、八脚門、切妻、銅板葺。

 

正面は中間の柱が省略されています。

中備えの蟇股には菊の紋。

内部の扁額は「南門」。

 

左側面(西面)。

柱はいずれも糸面取り角柱。正面の柱には、木鼻がついています。

妻飾りは束と笈形。破風板の拝みと桁隠しは蕪懸魚。

 

手水舎と境内社

参道右手には手水舎。

切妻、桟瓦葺。

中備えに板蟇股が使われています。

 

参道左手には稲荷社。

一間社流造、銅板葺。

向拝柱の組物は鯖尾付きの出三斗。

 

拝殿と本殿

参道の先には朱塗りの拝殿があります。

入母屋、向拝1間、銅板葺。

 

向拝には棒状のしめ縄。

中備えは蟇股。

 

向拝柱は糸面取り。側面に木鼻がついています。

柱上は舟肘木で、鯖尾のようなものが突き出ています。

母屋の扁額は「小野神社」。

 

破風板の拝みには蕪懸魚。

入母屋破風の妻飾りには、板蟇股や妻虹梁が見えます。

 

拝殿の後方には、屋根付きの玉垣に囲われた本殿が鎮座しています。こちらも朱塗り。

本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、銅板葺。

祭神はウワハル、瀬織津姫など計8柱。

 

正面の向拝は3間。

向拝柱は糸面取り角柱。柱上は鯖尾付きの平三斗。

虹梁は無地の材が使われ、隅の柱の側面には木鼻がついています。

虹梁中備えは板蟇股。

 

向拝柱と母屋は、まっすぐな梁でつながれています。母屋側は、頭貫の下から出ています。

母屋柱は円柱。軸部は貫と長押で固定。

母屋の前面には板戸が3組、側面は横板壁。

縁側は3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面側は脇障子でふさがれています。

 

頭貫木鼻は拳鼻。頭貫の上には台輪がまわされています。

組物は舟肘木。古式の和様を意識したと思われますが、禅宗様の木鼻がすぐ近くにあって、ちぐはぐな感が否めません。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みには蕪懸魚。

 

背面。とくに目立った意匠はありません。

母屋柱の床下は、八角柱になっていました。

 

大棟には千木と鰹木。

千木は外削ぎで、長方形の風穴が開けられています。

鰹木は細い紡錘形のものが5本乗っています。

 

以上、小野神社でした。

(訪問日2022/03/12)