今回は新潟県糸魚川市の天津神社(あまつ-)について。
天津神社は糸魚川市の中心市街地に鎮座しています。
創建は景行天皇の時代といわれる古社。彌彦神社(弥彦村)や居多神社(上越市)とともに越後国一宮を称し、式内社の可能性がある神社(式内論社)です。また、境内には奴奈川神社(ぬなかわ-)もあり、こちらも式内論社です。
社殿については、天津神社・奴奈川神社ともに標準的な本殿ですが、拝殿は茅葺で独特な外観をしています。
現地情報
所在地 | 〒941-0056新潟県糸魚川市一の宮1-3-34(地図) |
アクセス | 糸魚川駅から徒歩10分 糸魚川ICから車で5分 |
駐車場 | 5台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
天津神社の入口は西向き。後述の社殿はいずれも南向きです。
境内の南側にも入口がありますが手水舎や案内板がなかったので、こちらの西側入口が正面という扱いのようです。
参道の左手には手水舎。手水舎は鉄板葺の切妻。
手水舎の近くには天津神社・奴奈川神社の文化財についての案内板(糸魚川市教育委員会、天津神社の設置)がありましたが、社殿はとくに文化財指定されていないようです。
参道はうっそうと社叢が茂っていますが、拝殿などがある区画までゆくと社叢が開けます。
写真は参道の狛犬。妙に頭が大きくコミカルな体形をしていて、愛嬌のあるポーズに見えます。
拝殿
境内の中心部には堂々とした存在感を放つ拝殿が鎮座しています。
拝殿は茅葺の入母屋(平入)。向拝なし。
拝殿の軒下は周囲の1間が吹き放ちの廊下のようになっており、外部の柱は角柱、内部の柱は円柱が使われています。
扁額は篆書体のような書体で「天津宮」。長押にかけられている白い幕には「三つ巴」の紋。
軒裏は一重のまばら垂木。
柱上の組物は出三斗(でみつど)と木鼻のついた平三斗(ひらみつど)。組物と組物のあいだには間斗束(けんとづか)が立てられています。
拝殿の右側面(東面)。
写真左の入母屋破風の内部は豕扠首(いのこさす)になっており、反時計回りの三つ巴が描かれています。
破風ぎわの箕甲(みのこう)の曲面や、苔むした茅がとても素朴な趣です。しかし破風の中に電線が入って行っているのはちょっと無粋に感じなくもないかも...
拝殿は後方(写真右)にも屋根の低い母屋がついており、裏手にある本殿へ向かって伸びています。
拝殿の平面は、Tを上下逆にしたような形状。
天津神社本殿
拝殿の裏には石の玉垣に囲われた天津神社本殿が鎮座しています。
本殿は銅板葺の三間社入母屋(さんけんしゃ いりもや)、平入。正面3間・側面3間、向拝1間。
造営年代は不明ですが、作風から江戸末期~明治期あたりのものと推測できます。
祭神はニニギ、天児屋命、フトダマの3柱。
屋根には千木と鰹木があり、千木は水平にカットされた外削ぎ、鰹木は5本。
母屋は側面(梁間)3間で、正面側の1間は壁のない吹き放ちになっていて、後方の2間に神体が収められているようです。
正面から見上げると、整然と並んだ垂木が四方に伸びる様が美しいです。
正面の軒先を支える向拝柱は几帳面取りされた角柱で、面には環状の紋様が刻まれています。
向拝柱に渡された虹梁(こうりょう)の上には竜が彫られた中備え、下には波の意匠が立体的に彫られた持ち送り。
彫刻が多用されているので、あまり古い本殿ではないことが分かります。
奥のほうの母屋には3組の扉が立てつけられています。祭神は3柱なので、扉の数と一致しています。
3つの扉の上には鳥が彫られた蟇股(かえるまた)が配置されています。
正面の階段の下には浜床が張られています。
縁側は壁面と直交に床板を張った切目縁(きれめえん)。欄干は跳高欄(はねこうらん)。縁の下は四手先の組物で支えられています。
右側面(東面)。
脇障子の有無や、背面側の縁側や床下も確認したかったのですが、玉垣と壁囲いにはばまれてよく観察できず。
腰組(縁の下の組物)を見るに、背面にも縁側がまわされていると思われます。
奴奈川神社本殿
天津神社本殿の左側(西)には奴奈川神社本殿が鎮座しています。
こちらの本殿は銅板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。
天津神社本殿とよく似た作風なので、同時代の造営と思われます。
祭神はヌナカワと大国主。タケミナカタ(諏訪大社の主祭神)の母と父です。
こちらはあくまでも境内社というあつかいなので、天津神社本殿とくらべると規模が小さく各所の意匠も少し簡素なものになっています。
なお、千木は内削ぎ、鰹木の本数は不明。
正面の軒先を支える向拝柱は、几帳面取りされた角柱。2つの角柱を、太い虹梁がつらぬいています。虹梁の上の中備えは竜、下の持ち送りは菊。
向拝柱の上の組物は連三斗(つれみつど)。虹梁の左右にはみ出た部分に斗(ます)が乗っていて、連三斗を受けています。
正面の階段の下には浜床。
縁側は切目縁で跳高欄付き。腰組はおそらく三手先。
ほか、側面や背面も確認したかったのですが、先述の天津神社本殿よりも隙のない壁囲いがあったため、これ以上の詳細は確認できませんでした。
以上、天津神社でした。
(訪問日2020/04/30)