今回は山梨県南アルプス市高尾(たかお)の穂見神社(ほみ-)について。
穂見神社は南アルプス市の山中に鎮座しています。
巨摩郡に複数ある穂見神社の1つで式内論社に比定されている古社です。社殿も充実していて、明治期の派手な神楽殿のほか、やや大規模で江戸初期の作風がよくあらわれた本殿を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒400-0318山梨県南アルプス市高尾524-2(地図) |
アクセス | 白根ICから車で20分 |
駐車場 | 100台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 20分程度 |
境内
参道
高尾神社の境内は南向き。
入口の鳥居は木製の赤い両部鳥居で、唐破風の庇の下にある扁額は「穂見神社」。
二の鳥居は石製の明神鳥居。扁額は「穂見神社」。
社殿
鳥居をすぎると随神門(右手前)と神楽殿(左奥)が見えてきます。
随神門は銅板葺の切妻(平入)。正面3間・側面1間。三間一戸で柱は角柱。
そして穂見神社の社殿の中でもとくに派手で見栄えするのがこちらの神楽殿。
神楽殿は銅板葺の入母屋。棟が十字になっており、四方に破風があります。また、四方すべてに軒唐破風(のき からはふ)がついています。柱は角柱。
案内板*1によると“明治十八年から再建をはじめ、同二十四年に竣工”とのこと。つまり1891年の造営。
まずは上のほうから。写真は北面の唐破風。
黒く塗られた破風板の中央からは、亀が彫られた兎毛通(うのけどおし)が垂れています。この亀は玄武でしょう。他の面の兎毛通には、白虎や青龍が彫刻されていました。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木ですが、垂木は放射状に延びています。これは扇垂木(おうぎだるき)と言います。
組物は三手先で木鼻や尾垂木が突き出たもの。組物は柱上に置くのが普通ですが、この神楽殿は柱間にもびっしりと組物が並べられています。これは詰組(つめぐみ)と言います。
また、角柱から突き出た木鼻を見ると、台輪にも木鼻がついています。
内部をのぞき込んでみると内側にも組物があって、天井が持出しされています。
天井の中央部は、板材を面一(つらいち)に張った鏡天井。これも禅宗様建築の意匠。
縁側の欄干は、四隅が跳ねている跳高欄(はねこうらん)。
縁側の床下を支える腰組は、四手先の出組となっています。
拝殿は桟瓦葺の入母屋(平入)。向拝はなく、前面の1間が吹き放ち。
拝殿そのものには特にこれといった意匠はないですが、拝所の賽銭箱の奥に狛犬が置かれています。
ぱっと見で石製に見えなくもないですが、よく見てみると木製でした。
本殿
拝殿の裏には本殿が鎮座しています。
本殿は銅板葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。正面はおそらく3間、側面は2間。向拝は板で塞がれていて間数不明ですが、円柱が使われているように見えます。
案内板*2によると1665年(寛文五年)造営*3で、県指定文化財に指定。“桃山時代の様式が残る江戸初期の建物であり、規模が雄大で装飾性に富むすぐれた建築”とのこと。
右側面の大棟。棟は箱棟になっており、上に小さい屋根が設けられています。
鬼板には鬼の面がつけられていますが、風化がやや目立ちます。ちなみに、本殿の棟に鬼の面をつけた例は甲信地方のほぼ全域で見かけます。
向拝の軒下。
まず目を引くのは写真左に見える象の木鼻。ここに象を彫刻するのは珍しくないですが、あまり立体感がなくプレーンな造形。平板な大仏様木鼻から立体の象頭彫刻へ発展する途中といった感じ。
そして見逃してはならないのが、木鼻の上のほうで垂木を受けている桁。組物によって支持された桁が3本並行して渡されているのがわかります。このような技法は長野県の室町時代の本殿でいくつか例があります*4が、山梨県では見かけないめずらしい技法です。
写真中央の手挟(たばさみ)は、オシドリと思しき鳥が彫刻されています。
反対側、左側面の壁。
柱の上には一手先の出組が梁を持出ししており、梁の上では赤いシンプルな束が棟を受けています。束の左右の壁面は白く塗られており、波の意匠がついています。
三間社なので背面の柱間も3つ。
塗り替えなどのメンテナンスを長らくやっていないからなのか、退色やコケが目立ちます。
床下を見ると、母屋の柱は床下だけ八角柱になっています。
以上、穂見神社(高尾)でした。
(訪問日2020/03/20)