今回は山梨県北杜市の熱那神社(あつな-)について。
熱那神社は北杜市の郊外の集落に鎮座しています。
延喜式に記載された「神部神社」の論社(式内社の可能性のある神社)であり、本殿もそれに相応しい規模のものとなっています。また、境内の雰囲気もきわめて良好で、神社として隙のない内容です。
現地情報
所在地 | 〒408-0018山梨県北杜市高根町村山西割1714(地図) |
アクセス | 長坂駅から徒歩1時間 長坂ICから車で5分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 20分程度 |
境内
参道
熱那神社の境内入口は南向き。入口の鳥居は石製の明神鳥居。
右奥のうっそうと茂った社叢の中をまっすぐ100メートルほど参道が延びており、その奥に社殿が鎮座しています。
社叢の中は冬場でも竹藪と杉が茂っており、薄暗い参道はどこか不気味でなかなか雰囲気があります。夜に来ると良い肝試しになりそう。
駐車場は後述の本殿の近くにありますが、上述の鳥居のほうから境内に入ったほうが雰囲気を楽しめます。
二の鳥居は木製の両部鳥居。奥に見えるのは随神門。
随神門
随神門は鉄板葺の切妻。柱はいずれも角柱。
三間一戸(桁行3間で通路が1間)ですが、正面側は吹き放ちで梁間に柱もありません。こういった随神門は山梨県内でよく見かけます。
うっそうとした参道に対し、随神門の奥は社叢がひらけて明るくなっており、まるで異世界へ通じる門をくぐるような感覚を与えてくれます。
軒裏は二軒(ふたのき)のまばら垂木。
象のようなシルエットの木鼻(象鼻)が白黒に塗り分けられているのが目立ちます。
組物は斗が白木、肘木と木鼻が黒で色分けされています。すべて白木だと単調で味気ないですが、この組物は色分けが効果的に使われていて単調さを感じさせません。
虹梁(こうりょう)の上では笈形(おいがた)付き大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。こちらは造形・彩色ともに標準的。
拝殿と神楽殿
随神門をすぎると社叢がなくなり、比較的明るい境内になります。
拝殿は桟瓦葺の入母屋(平入)、向拝1間。大棟の紋は花菱。
軒裏は二軒のまばら垂木。虹梁の上には蟇股(かえるまた)。
向拝柱はC面取りされたもので、木鼻は正面が唐獅子、側面が象。
神楽殿は鉄板葺の入母屋で、1間四方、全方向が吹き放ち。
この手の舞台は壁に松の絵が描かれていることがありますが、このアングルだと背景の山がまるで壁の絵のよう。庭園でいう借景です。
本殿
拝殿の裏には本殿が鎮座しています。
本殿は鉄板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。高根町指定文化財。
案内板*1によると、1819年(文政二年)に“信州高嶋郡小和田村*2、大工棟梁小松七兵衛富熒”により造営されたとのこと。小松七兵衛は初代・立川和四郎の一番弟子で、立川流の宮大工。
祭神は、山梨県神社庁によると誉田別命などの3柱とのこと。
ご覧のように正面の向拝は板で塞がれていて観察できませんが、内部の様子は案内板の解説でフォローされています。
向拝は一間で几帳面どり角柱に虹梁を架し、両端に木鼻をつけ、身舎と海老虹梁で繋ぎ、手挟を入れ、さらに通り肘木付の連三斗を組んで丸桁をうけ、虹梁との間に本蟇股をいれています。前面に浜床を張り、昇高欄付の木階五級を設ける。
ところがなぜか向拝柱の連三斗(つれみつど)と木鼻の象だけは、壁に設けられた穴から見えるようになっています。
こちらは東面の右側面で、壁の彫刻は雲に竜。
側面(梁間)は2間あり、案内板によると後方の1間に神が祀られているとのこと。
柱に打ち付けられた長押には、武田菱に見える金具(釘隠し)がついています。頭貫には、雲状の意匠のついた木鼻。
長押と頭貫の上の欄間にも梅と思しき彫刻があります。
西面の左側面。壁の彫刻は竹に虎。欄間は題材不明。
縁側は4面にまわされており、背面をふさぐ脇障子はありません。床板は壁と平行に張ったくれ縁。欄干は擬宝珠付き。
母屋の柱上の組物は二手先で、持出しされた虹梁の上では赤い大瓶束が棟を受けています。その両脇には白い雲が彫られた笈形が添えられています。
写真上端に見切れている拝みの懸魚(げぎょ)は、小さく兎の顔が彫られている点が独特。
背面は3間。案内板によると正面は1間とのことなので、この本殿は一間社です。
壁の彫刻は波に亀と兎とのことですが、兎が見当たりません... 欄間は鶴。
床下は、雲の意匠がついた板状の持ち送りで縁側を支えています。
そして、長押の下は柱が八角柱になっています。
以上、熱那神社でした。
(訪問日2020/02/23)