今回は長野県上田市の安楽寺(あんらくじ)について。
安楽寺は別所温泉の北側の山際に鎮座する曹洞宗の寺院です。山号は崇福山。
創建は奈良時代から平安時代といわれ、詳細な年代は不明。宋に渡って禅宗を学んだ樵谷惟仙(しょうこく いせん)が住職となったのが実質的な開山で、鎌倉期の別所温泉(塩田平)は北条氏の庇護をうけていたため、このころが安楽寺の最盛期だったようです。
伽藍については、大部分が江戸後期から現代にかけての新しいもの。いっぽう、八角三重塔は国内に類例のないきわめて貴重な物件であり、鎌倉初期の造営であるだけでなく日本最古クラスの禅宗様建築でもあるため国宝に指定されています。
当記事ではアクセス情報および本堂などの伽藍について述べます。
現地情報
所在地 | 〒386-1431長野県上田市別所温泉2361(地図) |
アクセス | 別所温泉駅から徒歩15分 上田菅平ICから車で30分 |
駐車場 | 40台(無料) |
営業時間 | 08:00-17:00、11月から2月は16:00まで |
入場料 | 300円 |
寺務所 | あり |
公式サイト | 宗教法人 曹洞宗 崇福山安楽寺 |
所要時間 | 30分程度 |
境内
黒門
安楽寺の入口は、北向観音の入口から数十メートルほどの場所にあります。
黒門は一間一戸、高麗門、切妻、桟瓦葺。
扁額は山号「崇福山」。案内板(設置者不明)によると1792年頃の造営。
写真左の石碑は「不許葷酒入山門」(くんしゅ さんもんに いるを ゆるさず)。ニラ・ニンニクや酒を口にしたものは入山するべからず、といった意味。歴史ある寺社の入口によくある石碑です。
門は車が通れる幅になっていて、この黒門をくぐって奥へ進むと駐車場があります。
山門
安楽寺の境内は南向き。駐車場から石畳の参道を登ると境内の中心部に到着します。
山門は一間一戸、薬医門、切妻、銅板葺。
別所神社の案内板によると、同市内の塩野神社(前山)や別所神社を造営した末野家の作とのこと。
内部、向かって左側。
千社札がべたべたと貼られているのが目につきますが、構造をよく見ると薬医門にしてはかなり凝っています。
写真左手前が本柱、右奥が控柱。両者は虹梁(こうりょう)でつながれていますが、虹梁が本柱を突き抜けて写真左端までのびており、その下部は柱に挿さった組物で持ち送りされています。
さらに虹梁の上部には皿のついた斗(ます)が載せられ、S字にカーブした小さい海老虹梁(えびこうりょう)で本柱の上の大斗にのびています。
本柱の上部には雲状の木鼻がついているのですが、海老虹梁はそれをよけるようにカーブしているのがおもしろく、なんとも奇天烈な印象を受けます。
内部、向かって左側の後方。写真右下が控柱です。
写真中央、虹梁の柱間には大瓶束(たいへいづか)が立てられています。
そして控柱の上にはやはり小さい海老虹梁がついており、木鼻をよけて大瓶束の上へとのびています。
左側面を外部から見た図。写真右が正面側です。
本柱と大瓶束が妻虹梁と桁を受け、妻虹梁の上では大瓶束が大棟を受けています。
なお、内部に天井はなく化粧屋根裏。軒裏は二軒(ふたのき)のまばら垂木です。
鐘楼
山門をくぐって本堂へ進むと、参道右手には鐘楼があります。入母屋、桟瓦葺。下層は袴腰。
柱は円柱。唐獅子と象が彫刻された木鼻がついています。
柱上の組物は出組で、二手先に桁を持出ししています。また、柱のない場所にも組物が配置されています。組物と組物のあいだには、巻斗(まきと)が並べられています。
軒裏は二軒(ふたのき)のまばら垂木。垂木は放射状に延びています。
縁側の床下は、二手先の腰組。組物のあいだには蟇股(かえるまた)が置かれています。
本堂と庫裡
本堂は寄棟、銅板葺。
扁額は「安楽禅寺」。大棟は箱棟になっており、北条氏の紋である三つ鱗が描かれていました。
本堂の右手には庫裏。
明らかに現代の建築で2階建てですが、和風の寄棟の屋根に2階の窓を開口させ、窓の下に庇を設けて屋根の軒先とつなげています。箱棟の中央部が2段になっているのも個性的。
本堂と庫裡のあいだにはこのような玄関があります。軒唐破風付きで、こけらで葺かれています。
唐破風の上には木材のままの鬼板。三つ鱗の紋が描かれています。
屋根は、薄い木の板を少しずつずらしながら何枚も重ねている様子が観察できます。
唐破風の破風板の中央に下がる兎毛通(うのけどおし)は鳳凰。尾羽の房のひとつひとつまで造形されていて、羽毛の造形も精緻。
虹梁の中備えは龍。
その上では大瓶束ではなく蟇股が棟を受けています。蟇股は雲と三つ鱗。小壁は漆喰。
竜の左右の彫刻は、波に亀。
虹梁にも波状の彫刻が小さく入っており、虹梁の下部には波が透かし彫りされた持ち送りがついています。
安楽寺の本堂などの伽藍については以上。