甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【目黒区】祐天寺(明顕山祐天寺) 前編 仁王門、本堂

今回は東京都目黒区の祐天寺(ゆうてんじ)について。

 

祐天寺は中目黒地区の住宅地に鎮座する浄土宗の寺院です。山号は明顕山(明顯山)。

創建は1718年(享保三年)。増上寺の祐海が善久院という寺院を購入・再興し、師の祐天の廟所としたのがはじまりです。創建以来、将軍家の崇敬を受けました。

現在の境内伽藍の多くは創建当初のもので、仁王門や阿弥陀堂が区指定文化財、本堂などが登録有形文化財となっています。

 

当記事ではアクセス情報および仁王門、本堂などについて述べます。

阿弥陀堂、地蔵堂などについては後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒153-0061東京都目黒区中目黒5-24-53(地図)
アクセス 祐天寺駅から徒歩10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 明顕山 祐天寺
所要時間 20分程度

 

境内

仁王門

祐天寺の境内は北向き。めずらしい方角を向いています。境内入口は駒沢通りに面しています。

入口に建つ表門は、一間一戸、高麗門、桟瓦葺。

造営年不明。国登録有形文化財。

 

正面の軒下。扁額は寺号「祐天寺」。

柱は角柱で、柱の前後に腕木を持ち出して軒桁を支えています。

 

内部向かって左(東側)。

後方に細い控柱が立てられ、低い屋根がかけられています。

 

総門の先には仁王門。

三間一戸、八脚門、切妻、瓦棒銅板葺。

1735年(享保二十年)建立*1。徳川綱吉の息女の竹姫による寄進。区指定有形文化財。

 

正面中央の軒下。扁額は山号「明顕山」。

柱はいずれも円柱で、柱間は飛貫虹梁や頭貫でつながれています。

 

正面向かって右の柱間。

頭貫には木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗で、中備えは蟇股。

 

蟇股には十二支が彫られています。

上の写真は北面の右側(西側)の蟇股で、彫刻の題材は鶏(酉)。

 

左側面(東面)。

側面は2間で、柱間は横板壁。

基壇は四半敷きの石畳となっています。

 

妻面。

こちらの蟇股は、右が丑、左が寅となっています。

妻飾りは二重虹梁。蟇股や笈形付き大瓶束が使われています。

 

破風板の拝みは鰭付きの蕪懸魚。桁隠しは、蕪懸魚を変形させたものが使われています。

 

内部の通路部分。

通路の左右の柱間には、仁王像が安置されています。仁王門と同年の建立とのこと。

 

内部の通路上は鏡天井。

中備えは間斗束が使われています。

 

水屋と鐘楼

仁王門をくぐって進むと、参道右手に水屋があります。

入母屋、銅板葺。

国登録有形文化財。

 

柱は几帳面取り角柱。正面と側面に唐獅子の木鼻。

柱上の組物は皿付きの出三斗。虹梁中備えは皿付きの平三斗。

軒裏は放射状の二軒繁垂木。

 

水屋から参道右手にそれると、鐘楼があります。

切妻、瓦棒銅板葺。

こちらも国登録有形文化財です。

 

内部につるされた梵鐘は、徳川家宣正室の天英院が1728年に発願し、翌年に完成したもの。区指定有形文化財。

 

柱は面取り角柱で、上端が絞られています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出三斗。

 

台輪の上の中備えは、木鼻付きの平三斗。

妻虹梁の上では、笈形付き大瓶束が棟木を受けています。

破風板の飾り金具には、三葉葵の紋があります。拝みと桁隠しには蕪懸魚。

 

本堂

参道の先には本堂が北面しています。

 

入母屋、向拝1間 向唐破風、桟瓦葺。

国登録有形文化財。

 

正面の唐破風の軒下。

虹梁中備えは竜の彫刻。

唐破風の虹梁の上には、笈形付き大瓶束。大瓶束の太さに対して笈形が小ぶりで、独特なバランス。

 

向かって右の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。正面は獏、側面は唐獅子の木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗をかさねたもの。

 

母屋の正面と側面。

柱間の建具は、ガラスの引き戸が使われています。

 

入母屋破風には木連格子が張られています。

破風板の懸魚には、雲状の彫刻がついています。

 

本堂向かって右には書院。

こちらも国登録有形文化財とのこと。

 

本堂向かって左には仏舎利殿。

下層は宝形、桟瓦葺。上層は八角円堂、銅板葺。

 

下層の壁面には、祐天の事績の一場面を描いた絵が掲げられています。

 

柱は円柱。上端が絞られ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

組物は出組。中備えは蟇股。

 

上層の柱間には火灯窓があります。

頭貫と台輪の木鼻は下層と同様ですが、上層は中備えがありません。

 

仁王門、本堂などについては以上。

後編では阿弥陀堂、地蔵堂などについて述べます。

*1:目黒区教育委員会の案内板より