今回は奈良県桜井市の大神神社(おおみわ-)について。
大神神社は市の北東部の山際に鎮座する大和国一宮です。
創建は『日本書紀』によると第10代・崇神天皇の時代で、日本最古の神社のひとつ。創建以来、朝廷から篤い信仰を受け、平安時代の『延喜式』では名神大社に列しています。鎌倉以降は神仏習合の三輪明神として信仰されました。明治時代には神仏分離で神宮寺が廃され、現在の社号「大神神社」に改められました。
現在の境内の主要な社殿は江戸初期に整備されたもの。総桧皮葺の豪華な拝殿と、神宮寺の遺構である大直禰子神社が国重文に指定されています。本殿のない神社で、神体の三輪山の前には独特な三つ鳥居が立っているようです。
当記事では大神神社のアクセス情報および社殿と、摂社の大直禰子神社について述べます。
現地情報
所在地 | 〒633-8538奈良県桜井市三輪1422(地図) |
アクセス | 三輪駅から徒歩10分 橿原北ICから車で15分 |
駐車場 | 300台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 【公式】三輪明神 大神神社 (おおみわじんじゃ) |
所要時間 | 30分程度 |
境内
参道
大神神社の境内は西向き。境内は深い社叢に覆われ、周辺は住宅地になっています。
境内入口には二の鳥居。木造の明神鳥居で、柱が太くて力強いプロポーション。扁額は「三輪明神」。
一の鳥居は境内の手前の市街地に立っているようですが、わざわざ写真を撮りに行くのが面倒だったため割愛。
参道左手には境内社の祓戸神社。
参道を進むと、左手に手水舎があります。
入母屋、檜皮葺。
柱は角面取り、柱上は舟肘木。
長押が打たれ、頭貫木鼻はありません。
欄間には菱形の木組みが張られています。
軒裏は二軒まばら垂木。内部は格天井。
拝殿
境内の奥には拝殿が鎮座しています。
拝殿の手前には2本の柱が立ち、そのあいだにしめ縄がかけられています。「縄鳥居」というようです。
拝殿の母屋部分は切妻、檜皮葺。正面の突出部は入母屋(妻入)、正面軒唐破風付、檜皮葺。
1664年(寛文四年)造営。4代将軍・徳川家綱の寄進。棟札1枚とあわせて国指定重要文化財。
なお、大神神社には本殿がなく、後方の三輪山を神体としています。主祭神は大物主。
拝殿の後方にはめずらしい三つ鳥居(三輪鳥居)が立っているようですが、訪問時は拝観できませんでした。
正面の破風の部分。破風板にはきらびやかな飾り金具がついています。
唐破風の兎毛通は蕪懸魚。写真中央の破風の拝みには三花懸魚。
正面中央の突出部の軒下。
柱上の組物は出組。持ち出された桁は唐破風の部分で途切れていて、先端は木鼻になっています。
中備えは蟇股で、はらわたの彫刻は鳳凰。
蟇股の上は笈形付き大瓶束。
向かって右の軒下。
中備えの彫刻は、しめ縄の影になってしまい、よく見えず。
右端の木鼻は拳鼻が使われています。
拝殿正面の左右には、孫庇のような屋根がついています。こちらも檜皮葺。
建具はガラス戸が使われています。
拝殿の左右には、到着殿(拝殿向かって左)と勅使殿(向かって右)。
両者とも入母屋、檜皮葺。
柱は角柱で、柱上は舟肘木。建具は蔀。
祈祷殿
拝殿の北西には巨大な祈祷殿。
祈祷殿は入母屋、正面千鳥破風付、向拝3間、銅板葺。
1999年竣工。
向拝柱は大面取り角柱。柱上は出三斗。
虹梁中備えは透かし蟇股。
木鼻は拳鼻のようなシルエットですが、平面的な造形。
軒裏は二軒繁垂木。縋破風の桁隠しには猪目懸魚。
母屋柱は円柱で、柱上は出三斗。
正面の千鳥破風。
拝みには猪目懸魚。破風の内部の妻飾りは豕扠首。
大直禰子神社
境内の北西の集落の一角には、摂社の大直禰子神社(おおたたねこ-)が南向きに鎮座しています。別名は若宮社。
入口の鳥居は木造の明神鳥居。扁額は「若宮社」。
こちらが大直禰子神社本殿。拝殿はありません。
この本殿は、当初は大神神社の神宮寺の本堂だったようです。寺院風の外観もそれに由来します。
江戸時代までは十一面観音と大直禰子を祀っていたようです。明治時代の廃仏毀釈を受けて十一面観音が同市の聖林寺に移され、摂社(大神神社の境内社)の社殿として存続しています。神仏習合の時代の神宮寺の遺構は、その多くが明治時代に破壊されており、現存例が少なく貴重です。
大直禰子神社本殿は、桁行5間・梁間5間、入母屋、本瓦葺。
造営年は不明。室町時代の改修で現在の形態になったようですが、堂内の外陣は鎌倉時代のものとのこと。そして内陣の一部には奈良時代の部材が使われているようです。
国指定重要文化財。
正面は5間。
柱間はいずれも板戸が使われています。
柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定されています。木鼻はありません。
柱上は出三斗と平三斗。平三斗は鯖尾のついた古風な形状のもの。
中備えは間斗束。
軒裏は一重の繁垂木。
外観に禅宗様や大仏様の意匠は見受けられず、純粋な和様の意匠で構成されています。室町時代の改修が顕著なようですが、鎌倉時代より前のものだと言われても納得できるくらい古風な造りです。
左側面(西面)。こちらも5間。
前方の3間は、正面と同様の板戸。
後方の2間は白い壁になっており、縁側が途切れています。
後方の2間の拡大図。
柱上の組物が省略され、舟肘木になっています。頭貫や中備えの間斗束も省略されています。
背面。
こちらも縁側、組物、中備えが省略されています。
破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。
妻壁には豕扠首。
ほか、周辺には多数の境内社があるようですが、今回は時間がなかったため割愛。境内社の中には、率川神社(奈良市)のように市外のかなり離れた場所に鎮座するものもあるようです。
以上、大神神社でした。
(訪問日2022/02/23)