甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【名張市】宇流冨志禰神社

今回は三重県名張市の宇流冨志禰神社(うるふしね-)について。

 

宇流冨志禰神社は名張市街の川沿いの丘陵に鎮座しています。

創建は不明。『延喜式』に記載された「宇流富志弥神社」に比定されており、古文書によれば平安時代には確立されていたらしいです。安土桃山時代には織田信雄による2度の侵攻(天正伊賀の乱)を受け、境内や古記録を焼失しています。江戸時代には藤堂家の庇護を受けました。

現在の境内社殿は、江戸後期以降のものと思われます。春日造の本殿のほか、多数の境内社があります。また、多くの社宝が文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒518-0713三重県名張市平尾3319(地図)
アクセス 名張駅から徒歩10分
久居ICから車で1時間
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト 宇流冨志禰神社
所要時間 15分程度

 

境内

参道

f:id:hineriman:20220309150137j:plain

宇流冨志禰神社の境内は西向き。境内は住宅地の一画の高台にあり、背面側(東)は名張川が流れています。

一の鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「宇流冨志禰神社」。

 

f:id:hineriman:20220309150230j:plain

参道を進むと、境内の敷地の入口に二の鳥居と手水舎があります。

二の鳥居も石造の明神鳥居。明神鳥居ですが、貫の左右が柱から突き出ていないタイプです。扁額は「宇流冨志禰神社」。

 

f:id:hineriman:20220309150250j:plain

鳥居の左手前には手水舎。切妻、桟瓦葺。

主柱に細い控柱が添えられ、つごう8本の柱が使われています。

 

f:id:hineriman:20220309150306j:plain

柱はいずれも角面取り。柱上には舟肘木が置かれ、ひとつの舟肘木を主柱と控柱とで共有しています。

柱間は貫で連結されています。貫は柱から突き出ていて、先端はわずかに斜めにカットされています。

妻飾りは角柱の束が置かれ、棟木を受けています。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

拝殿

f:id:hineriman:20220309150335j:plain

拝殿は入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間、桟瓦葺。

 

f:id:hineriman:20220309150353j:plain

向拝柱は几帳面取りで、上端が絞られています。

柱上の組物は皿付きの出三斗。大斗に比して、肘木と巻斗が小さいです。

組物の上では手挟が軒裏を受けています。手挟には波状の彫刻。

虹梁木鼻は象鼻。禅宗様木鼻と象頭彫刻の中間的な造形。

 

f:id:hineriman:20220309150411j:plain

虹梁には唐草状の絵様が彫られています。

中備えは蟇股。はらわたのには下り藤の紋と、雲状の装飾が彫られています。

 

f:id:hineriman:20220309150426j:plain

正面の千鳥破風。鬼瓦には下り藤の紋。

破風板の拝みには鰭付きの猪目懸魚。

妻壁には妻虹梁と大瓶束が見えます。

後方に見える大棟には、波状の装飾が造形されています。

 

f:id:hineriman:20220309150447j:plain

母屋は正面5間・側面3間。

柱は円柱、柱上は舟肘木、柱間は蔀。

軒裏は二軒まばら垂木。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干の親柱には擬宝珠がついています。

 

f:id:hineriman:20220309150532j:plain

側面の入母屋破風。

こちらも拝みに鰭付き猪目懸魚が使われていますが、正面の千鳥破風のものとは造形が異なります。

妻飾りは千鳥破風と同様、妻虹梁と大瓶束。

 

本殿

f:id:hineriman:20220309150604j:plain

拝殿の後方には、塀に囲われた本殿が鎮座しています。

一間社春日造、銅板葺。

造営年不明。私の予想になりますが、明治以降のものと思われます。

祭神は宇奈根命(うなねのみこと)、タケミカヅチ(春日神)など。

 

大棟の紋は下り藤で、春日神が祀られていることが察せられます。

千木は曲線的な形状のもので、先端が斜めにカットされています。鰹木は紡錘形のものが2本。

正面の破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。破風内部は木連格子が張られています。

 

f:id:hineriman:20220309150644j:plain

向拝部分を後方から見た図。

向拝柱は几帳面取り。柱上の組物は連三斗。組物の上では、繰型のついた手挟が軒裏を受けています。

虹梁は非常に太い材が使われ、眉欠きだけが造形されています。木鼻は拳鼻で、こちらも太いです。木鼻の上に巻斗が乗り、組物を持ち送りしています。

虹梁中備えは板蟇股。円い模様が彫られています。菊か下り藤かと思ったのですが、よく見てもただの円にしか見えません。

 

f:id:hineriman:20220309150705j:plain

左側面(北面)。

背面側(写真左)には垂木が伸びていないため、入母屋ではなく春日造であることがわかります。

母屋柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定されています。

頭貫木鼻は平板な造形で、大仏様木鼻に見えます。とはいえシルエットは禅宗様木鼻に近く、どちらともつかない造形。

柱上の組物は、正面側は出三斗、背面側は連三斗。

 

f:id:hineriman:20220309150718j:plain

縁側はくれ縁が3面にまわされ、背面側は脇障子を立てています。

欄干は擬宝珠付き。

 

境内社

f:id:hineriman:20220309150739j:plain

拝殿向かって左側には伊勢神宮遥拝所。

こちらは遥拝所の拝殿で、入母屋、桟瓦葺。

 

f:id:hineriman:20220309150751j:plain

拝殿の後方には鳥居と遥拝所本殿。

鳥居は石造の明神鳥居。前述した二の鳥居と同様に、貫が突き出ていません。

 

本殿は覆いの屋根の下にあります。

三間社流造、向拝1間、屋根葺き不明。造営年不明。おそらく江戸中期あたりのもの。

 

f:id:hineriman:20220309150806j:plain

虹梁中備えには蟇股が3つ。蟇股には鳥獣の彫刻が入っています。

虹梁木鼻は獏と思しき獣が彫られています。

 

f:id:hineriman:20220309150826j:plain

社務所の向かい、参道左手には多数の境内社が並立しています。

 

以上、宇流冨志禰神社でした。

(訪問日2022/02/23)