世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲州市】熊野神社 ~新旧入り混じった6棟の本殿が並び立つ~

今回は山梨県のマイナー観光地ということで、甲州市の熊野神社(くまの-)について。

 

熊野神社は甲州市塩山の市街地に鎮座しており、その名前からもわかるように紀州(和歌山県)の熊野本宮大社から勧進されたと伝えられています。

本殿はなんと6棟もあり、うち2棟が鎌倉時代の造営とされ、山梨県内でも屈指の歴史を持つ古建築となっております。

 

 

現地情報

・所在地:

 〒404-0036

 山梨県甲州市塩山熊野174

・アクセス:

 塩山駅または東山梨駅から徒歩30分程度

 一宮御坂ICから国道411号線にて車で20分程度

・駐車場:10台程度(無料)

・営業時間:随時

・入場料:無料

・社務所:あり(要予約)

・滞在時間:15分程度

 

境内

境内入口

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境内の周囲は普通の住宅街になっており、その中に社叢が茂っています。

 

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石柱には社名が書かれているのですが、“熊”も“野”も見たことのない形の字になっています。

 

拝殿と本殿

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境内に入ると、すぐに手水舎と拝殿があります。

拝殿は正面5間、茅葺の入母屋。拝殿にしては珍しく全方向が吹き放ちで、神楽殿か何かと勘違いしてしまいそうな雰囲気。

重要文化財に指定されており、案内板によると室町後期のものとのこと。

 

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こちらは少々目立たない位置にある神楽殿(?)。造りからして、なんとなく鐘つき堂にも見えますが、使途不明。

 

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拝殿の裏に回ると、1メートルほどの高さの石積みの上に6棟の本殿がずらりと横並びになっています。

 

本殿(入母屋 3棟)

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まずは歴史の浅いほうの本殿から。向かって左に並ぶ3棟は、鉄板葺の一間社入母屋(妻入)。

正面向拝(こうはい)付き。母屋は円柱、向拝は角柱。縁側と浜床は切目縁。大棟には、甲州らしく武田菱がついていました。

 

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背面から見上げた図。まったく同じ造りの本殿が3棟、整然と並んでいます。

江戸時代の再建とのことですが、その際に旧観を失ってしまったそうです。そのせいなのか、この3棟の本殿は特に文化財指定されていないようです。

とはいえ、江戸時代の神社本殿にしては装飾が少なめで、いい意味で質素な印象。二重になった垂木が映えます。

 

本殿(春日造 2棟)

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石積みの右のほうに並ぶ2棟は、檜皮葺の一間社 隅木入り春日造(すみきいり かすがづくり)。

縁側は切目縁で、手すりは刎高欄(はねこうらん)。大棟には鰹木と置き千木がのっています。一切の彫刻がなく、母屋と向拝をつなぐ海老虹梁(えびこうりょう)も真っすぐ。これは、室町以前の神社建築の特徴です。

 

案内板によると、造営年代は“鎌倉時代と考えられ、記録に示す文保二年(1318年)の造替のものではないか”とのこと。この説が正しければ、この本殿は同市の大善寺本堂と並んで山梨県内で最古クラスの建築といえるでしょう。当然のことながら、重要文化財です。

 

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背面。

隅木入り春日造なので、正面側は入母屋のような配置の垂木になっていますが、背面は切妻です。

 

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本殿を左側面の後方から見た図。この図だけで、特筆すべきことが3つもあります。

1つ目は、左側面(写真中央)に出入口の扉がついていること。

2つ目は、背面側に脇障子(ついたてみたいなもの)も高欄(手すり)もなく、縁側が途切れたような状態になっていること。

3つ目は、母屋の柱が床下まで円柱に成形されていること。

いずれも、他の神社本殿ではあまり見られない特徴です。

 

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右側面後方から見上げた図。

前方(写真左のほう)でカクっと折れ曲がった屋根が、社叢の緑に映えます。

 

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左前方から見た図。

白飛びしていてちょっと見づらいですが、正面に伸びた向拝の破風のカーブが美しいです。

ちなみに、写真左に映っているのも本殿なのですが、再建時に何らかの事情でこのような祠になってしまったとのこと。

 

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最後に背面の図を。

妻入の本殿が並ぶ裏には、平入(流造)の社殿がどこか肩身の狭そうな感じで建っています。

 

境内の解説は以上になります。

入母屋が3棟、祠が1棟、春日造が2棟。つごう6棟の本殿が横並びに建った様は壮観としか言いようがありません。しかも、春日造りの2棟は鎌倉時代の造営という準国宝クラスの物件。甲府盆地周辺の寺社や古建築を巡るのなら、必見と言い切っていいほどの内容です。

 

以上、熊野神社でした。

(訪問日2019/07/13)