甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【名古屋市】建中寺

今回は愛知県名古屋市の建中寺(けんちゅうじ)について。

 

建中寺は東区の市街地に鎮座する浄土宗の寺院です。山号は徳興山。

創建は1651年(慶安四年)。尾張藩2代目・徳川光友によって尾張徳川家の菩提寺として開かれ、多数の塔頭や末寺を持つ大寺院だったようです。太平洋戦争では空襲を受けませんでしたが、明治期の廃仏毀釈や戦後の区画整備により境内が縮小されています。また、いくつかの堂宇は名古屋東照宮をはじめとする寺社に移築されています。

現在の境内は江戸期とくらべて大幅に縮小されてはいますが、それでもなお江戸期の大規模な三門や本堂が現存し、往時の隆盛を偲ばせます。

 

現地情報

所在地 〒461-0003愛知県名古屋市東区筒井1-75-7(地図)
アクセス 車道駅から徒歩10分
名古屋高速 黒川料金所から車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト 徳興山 建中寺
所要時間 20分程度

 

境内

総門

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建中寺の境内は南向き。

境内の手前は車道をはさんで公園になっており、公園の南側に総門があります。寺号標は「徳興山建中寺」。

 

総門は三間一戸、薬医門、切妻、本瓦葺。

1652年(慶安五年)建立。市指定文化財。

 

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柱はいずれも角柱。

柱から女梁が伸びて巻斗と実肘木を介して男梁を持ち送りし、男梁は桁を大きく持ち出して軒裏を受けています。

梁や組物の木口は白く塗り分けられており、ここは江戸初期~中期らしい作風です。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

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内部。写真右が正面側になります。

男梁の上には大瓶束と板蟇股が立てられ、小さな格天井を受けています。

 

三間一戸の薬医門というのはちょっとめずらしいです(ふつうは一間一戸)。それと、薬医門に天井が設けられた例は初めて見ました。

 

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妻壁。こちらは東面で、写真左が正面側。

男梁の上の意匠は内部とほぼ同じで、こちらは大瓶束と板蟇股の上にさらに虹梁大瓶束があります。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚、桁隠しには猪目懸魚。

 

三門

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総門の先の公園を通り抜けて車道を渡った先には三門。

三間一戸、楼門、二重、入母屋、本瓦葺。

1652年建立。市指定文化財。

 

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下層。

柱は円柱で、正面側は壁がありません。

 

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柱は上端が絞られ、粽になっています。

柱上には台輪がまわされ、その上には和様尾垂木の三手先の組物が桁を持出ししています。組物は柱間にも配置されています(詰組)。

 

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頭貫と台輪の端部には禅宗様木鼻。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

各所の意匠は和様と禅宗様の意匠が混在し、折衷様となっています。

 

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上層。

金網がついていて見えづらいですが、組物は和様尾垂木の四手先、軒裏は放射状(扇垂木)の二軒繁垂木でした。

 

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内部。

格天井が組物で持出しされています。

門扉の桟唐戸には三葉葵の紋。

 

手水舎

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三門をくぐった先の参道左手には手水舎。

切妻、桟瓦葺。年代不明。

案内板にはほぼすべての伽藍の年代が書かれているのですが、この手水舎だけはいっさい記述がありませんでした。

 

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主柱は円柱で、その前後の控柱は角柱。まるで四脚門のような構成。

主柱と控柱は梁でつながれ、梁の下部は女梁で持ち送りされています。ここは薬医門のような構成。

四脚門とも薬医門ともつかないものが手水舎に使われていて、なんとも奇妙です。

 

本堂

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境内の中央には大規模な本堂が鎮座しています。

入母屋、向拝3間・軒唐破風付、本瓦葺。

1787年(天明七年)再建。市指定文化財。

本尊は阿弥陀如来。

 

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向拝は3間。

軒には唐破風がついていて、兎毛通には鳳凰が彫刻されています。

軒下は金網が張られています。

 

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向拝柱は几帳面取り角柱。

虹梁中備えは蟇股。唐破風の小壁には竜らしき彫刻。

見えづらいですが向拝木鼻は正面が唐獅子、側面が獏あるいは象(金網のせいでどちらか判らず)。

 

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向拝側面。

縋破風の桁隠しには竜の彫刻。

向拝柱と母屋は海老虹梁でつながれています。

 

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西面および妻壁。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

入母屋破風の妻壁は銅板でカバーされ、緑青の色を呈しています。二重虹梁になっており、大瓶束と蟇股で梁と棟を受けています。

 

なお、本堂後方には県指定文化財の徳川家霊廟があるようですが、後方にまわりこんでもそれらしきものは見えず、どうやら非公開の模様。

案内板いわく“唐門から始まって、本殿・合間・拝殿の三棟で権現造を構成”、“建物はすべて漆塗、内外極彩色を施して華麗な装飾”とのことで、拝観できないのが惜しいです。

 

その他の伽藍

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参道の右手には鐘楼。

入母屋、本瓦葺。下層は袴腰。

本堂と同じ1787年造営。市指定文化財。

 

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本堂の右には経蔵。

二重、宝形、本瓦葺。

1828年造営。市指定文化財。

内部には八角の輪造があるとのこと。

 

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本堂の左には不動堂と開山堂が東向きに建っています。

こちらは不動堂。入母屋(妻入)、向拝1間・軒唐破風付、桟瓦葺。

年代不明。

 

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こちらは開山堂。

寄棟、向拝1間、桟瓦葺。

1786年造営。市指定文化財。

 

以上、建中寺でした。

(訪問日2021/02/22)