今回も京都府京都市の知恩院について。
当記事では御影堂、阿弥陀堂などについて述べます。
御影堂(本堂)
三門をくぐって石段を昇ると、境内の中心部に巨大な御影堂(みえいどう)が鎮座しています。当寺の本堂に相当する堂です。
桁行11間・梁間9間、入母屋、正面向拝5間、背面向拝3間、本瓦葺。
1639年(寛永十六年)再建。「知恩院本堂」として国宝に指定されています*1。
正面の向拝は5間。中央の1間はやや広く取られています。
向拝が5間もあるほど大規模な仏堂は、京都市内でもあまり多くないと思います。
向拝柱は几帳面取り角柱。
柱上の組物は、出三斗と連三斗。
虹梁中備えは蟇股。竜などの神獣の彫刻が入っています。
隅の柱の側面には、獏が彫られた木鼻。頭に皿斗を乗せ、連三斗を持ち送りしています。
隅の向拝柱を、母屋側から見た図。
組物の上では、籠彫りされた手挟が軒裏を受けています。
正面の軒下。
母屋の正面は11間もあります。
向拝柱と母屋をつなぐ梁はありません。
母屋柱はいずれも円柱が使われています。
柱は上端が絞られ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻が付いています。
組物は尾垂木三手先。
組物で持ち出された桁のあいだには軒支輪が設けられ、桁を母屋のあいだには格子の小天井が張られています。
台輪の上の中備えは蓑束。
柱間は桟唐戸と連子窓。
連子窓、蓑束、長押など和様の意匠が中心になっていますが、桟唐戸や木鼻など禅宗様の意匠も取り入れられています。和様と禅宗様を折衷した建築(折衷様建築)といえます。
左側面(西面)。
縁側は、切目縁が4面にまわされています。
側面は9間。
柱間は正面と同様で、桟唐戸と連子窓。
軒下の組物や中備えも、正面と同様です。
母屋は亀腹の上に建てられ、縁束は亀腹の周囲にある礎石の上に立てられています。
妻面。
雨で見づらいですが二重虹梁になっていて、中央に蟇股が置かれ、その左右には間斗束があります。蟇股や間斗束の周囲は、唐草と思しき彫刻で埋め尽くされています。
破風板は素木で、彩色や金具はありません。
拝みと桁隠しには三花懸魚。拝懸魚は彫刻の入った鰭が付き、中央には小さく三葉葵の紋が見えます。
御影堂を左後方(南西)から見た図。
背面にも3間の向拝が設けられています。
背面の軒下。
背面向拝を内側(縁側の上)から見た図。
背面の向拝柱も几帳面取り角柱が使われています。
隅の柱には象の木鼻。
組物は出三斗と連三斗。
虹梁中備えは蟇股。植物を題材にした彫刻が入っています。
ほか、本堂正面向かって右(南東側)の軒裏には、知恩院七不思議のひとつ「忘れ傘」がありますが、よく見えなかったため割愛。
堂内は自由に拝観でき、広大な畳敷きの外陣に入れます。内部は外陣・内陣・内々陣に区切られ、内陣には法然が祀られた宮殿が鎮座しています。
本堂の後方には歩廊(左)と集会堂。
歩楼は本堂の附(つけたり)として国宝に指定されています。
集会堂(しゅうえどう)は、入母屋、本瓦葺。
1635年(寛永十二年)造営。「知恩院」5棟として国指定重要文化財。
集会堂より先は有料の区画となっており、寺宝や庭園などを見ることができます。
阿弥陀堂
御影堂の左手(西側)には阿弥陀堂が東面しています。
桁行3間・梁間3間、一重、裳階付、入母屋、向拝3間、本瓦葺。
1910年(明治四十三年)再建。国登録有形文化財。
設計は木子清敬、棟梁は市田重郎兵衛。
向拝は3間。
向拝の下には階段があり、母屋の周囲4面に切目縁がまわされています。
正方形の平面と「一重、裳階付、入母屋」の屋根は典型的な禅宗様建築*2でよく見られる様式ですが、この阿弥陀堂はそこに向拝と縁側が付いているため、禅宗様建築とは似て非なる様式です。
向拝柱は几帳面取り。
組物は出三斗で、肘木部分は木鼻の意匠になっています。組物の上には、雲状の手挟があります。
虹梁の中備えは竜の彫刻。
向かって右の向拝柱。
隅の向拝柱は、側面に縛の木鼻が付き、柱上は連三斗が使われています。
下層の母屋正面は5間。
建具は5間いずれも桟唐戸。戸の上には長押が打たれています。
母屋柱は円柱。上端が絞られた粽柱です。
虹梁と柱の接続部には、繰型のついた持ち送りが添えられています。
組物は木鼻のついた三手先。台輪の上の中備えは蟇股。
下層の右側面(北面)。右手前の棟は渡り廊下。
柱間は側面も5間で、建具は桟唐戸です。
上層の正面。扁額は寺号「大谷寺」で、後奈良天皇の宸筆とのこと。
雨に煙って見づらいですが、上層の柱間は3間。柱は円柱が使われ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻が見えます。
組物は尾垂木三手先。柱間にもびっしりと詰組が置かれています。
上層の右側面。柱間は3間あります。
こちらも詰組が配されています。
妻飾りは二重虹梁。大瓶束や、三葉葵の紋が見えます。
破風板の拝みと桁隠しは、鰭付きの三花懸魚。
阿弥陀堂と御影堂のあいだには、両堂をつなぐ渡り廊下があります。
向唐破風、本瓦葺。
こちらも国の登録有形文化財です。
阿弥陀堂の左(南)には、手水舎と霊塔(左奥)があります。
手水舎は、入母屋、本瓦葺。
手水舎の柱は円柱。上端がわずかに絞られています。
柱上は出三斗。
虹梁と木鼻には、若葉の意匠の絵様。
内部は格天井です。
虹梁中備えは蟇股。
霊塔は、三間多宝塔、本瓦葺。
下層は正面側面3間で、中央の柱間は板戸、左右は連子窓。
軸部の固定は長押が多用されています。頭貫木鼻はありません。
柱上には、雲肘木をつかった古風な組物が使われています。
組物のあいだの中備えは間斗束。
軒裏に垂木はなく、板軒です。
上層。
こちらも雲肘木の組物が使われていますが、尾垂木を介して軒桁を支えています。非常に古風な技法です。
下層と同様に、軒裏は板軒となっています。
御影堂、阿弥陀堂などについては以上。