甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【伊那市】遠照寺

今回は長野県伊那市の遠照寺(おんしょうじ)について。

 

遠照寺は旧高遠町の山間の集落に鎮座している日蓮宗の寺院です。山号は妙朝山。

創建は寺伝によると821年(弘仁十一年)。最澄が開基したとのことで、もとは天台宗寺院だったようです。1473年(文明五年)に日朝によって日蓮宗に改められ、現在に至ります。境内は牡丹の名所として著名で、伽藍については室町期に造営された釈迦堂が国重文に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒396-0304長野県伊那市高遠町山室2010(地図)
アクセス 伊那ICから車で35分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

山門

f:id:hineriman:20201102121951j:plain

遠照寺の境内は西向き。入口には山門が建っています。扁額は山号「妙朝山」。

山門は一間一戸の薬医門、切妻、桟瓦葺。

 

f:id:hineriman:20201102122052j:plain

内部。写真右が正面側です。

柱は几帳面取りの角柱。前後の柱は貫で連結され、柱から突き出た腕木(挿肘木)によって支えられた組物が梁を受けています。

内部には棹縁天井が張られ、軒裏は見えません。

 

f:id:hineriman:20201102122107j:plain

外部。写真左が正面側です。

梁は二重になっており(二重虹梁)、虹梁中備えは蟇股。二重虹梁の上部では笈形付きの束が棟を受けています。笈形は雲のような意匠、束はただの円柱で組物も結綿もついていません。

 

鐘楼堂と本堂

参道を進むと右手に鐘楼堂と本堂があります。

f:id:hineriman:20201102122135j:plain

鐘楼堂は桁行1間・梁間1間、入母屋、銅板葺。

柱は円柱で、上部を絞った粽。柱の上部の頭貫と台輪には木鼻がついています。台輪の上の組物は柱の軸上だけでなく、柱間にも配置されています(詰組)。軒裏は一重の扇垂木。これらはいずれも禅宗様の意匠です。

 

f:id:hineriman:20201102122147j:plain

本堂は入母屋(平入)、向拝1間・軒唐破風付、桟瓦葺。

本尊は釈迦如来とのこと。日蓮宗寺院で釈迦如来が単体で本尊になるのは少し風変わりに思います。

降棟・隅棟の鬼板や箱棟には、日蓮宗の「井桁に橘」の紋が描かれています。

 

f:id:hineriman:20201102122159j:plain

向拝。この部分だけ木材が新しく後補のように見えますが、詳細は不明。

向拝柱は几帳面取り角柱。木鼻は正面が唐獅子、側面が象。虹梁中備えは竜の彫刻、その上には笈形付き大瓶束。兎毛通の飾りは雲の意匠。

 

本堂には市指定文化財の陣太鼓と鰐口が保存されているようで、両者とも織田信長の家臣である森長可が、高遠城の戦いの戦利品を奉納したものとのこと。また、本堂と庫裡の裏手にある「亀島庭園」が市指定名勝庭園とのこと。

拝観も可能のようでしたが、あいにく管理者が不在のタイミングで訪問してしまったため断念。

 

朝師堂

f:id:hineriman:20201102122232j:plain

本堂の後方には朝師堂と釈迦堂が鎮座しています。

こちらは朝師堂。寄棟(妻入)、茅葺。

遠照寺の中興の祖である日朝が祀られています。案内板*1によると眼病の守り神として近隣から篤く信仰され、霊験あらたかとのこと。

 

釈迦堂

f:id:hineriman:20201102122254j:plain

釈迦堂は桁行3間・梁間3間の方三間、入母屋(平入)、向拝1間、銅板葺。

造営年は室町後期と推定されています。案内板には“須弥壇裏板に天文七年(1538)来迎壁裏面には天文十八年(1549)の墨書がありその頃の建築と思われる”とあります。国指定重要文化財

堂内には多宝小塔が安置されているようです。多宝小塔は1502年(文亀二年)、高遠町鉾持(伊那市)の池上左衛門大夫政清の作とのこと。

 

f:id:hineriman:20201102122422j:plain

向かって右の向拝柱。

向拝柱は角面取りの角柱。室町期のものなので面取りのC面の幅が広めです。

柱から突き出た木鼻は象が口を開けたようなシルエット(象鼻?)で、繰型の跡がうっすらと残っています。

柱上の組物は平三斗で、正面側には木鼻がついています。木鼻は虹梁の象鼻と似た意匠です。

 

f:id:hineriman:20201102122452j:plain

向拝柱と母屋はまっすぐなつなぎ虹梁で連結されています。つなぎ虹梁の母屋側の下部には、持ち送りとして挿肘木の組物が添えられています。

母屋柱は通常の円柱。軸部は貫と長押で固定されています。母屋柱の上部に通っている頭貫には木鼻がつけられており、この木鼻も象のようなシルエットで繰型の跡がありますが、前述の虹梁のものとは形状が異なります。

母屋正面の中央には両開きの桟唐戸。その左右の柱間は格子の窓が設けられています。

 

f:id:hineriman:20201102122509j:plain

側面。こちらの柱間は、壁板が横方向に張られているだけです。

柱上の組物は出組で、組物からは象鼻のような木鼻が出ています。

組物で持ち出された桁の下には軒支輪。軒裏は二軒の平行繁垂木。

 

f:id:hineriman:20201102122530j:plain

背面。中央は引き戸が設けられているほか、側面との差異はとくになし。

縁側は切目縁が4面にまわされています。欄干なし、縁の下は縁束。

 

f:id:hineriman:20201102122545j:plain

大棟の鬼板には卍。

破風板の拝みからは梅鉢懸魚が下がっています。入母屋破風の内部は縦板でふさがれています。

 

七面堂

f:id:hineriman:20201102122604j:plain

境内の最奥には七面堂が鎮座しています。

七面堂は入母屋(平入)、向拝1間、鉄板葺。江戸中期のもののようです。

内部に立派な天井絵があるらしいですが、堂内には入れません。

 

f:id:hineriman:20201102122623j:plain

向拝柱は几帳面取り。木鼻は唐獅子と獏。虹梁中備えはありません。

 

f:id:hineriman:20201102122641j:plain

軒裏は三重になっていますが、桁に近いほうは扇垂木なのに、軒先は平行垂木という妙なことになっています。

軒先の平行垂木を後から付け足したように見えます。

 

以上、遠照寺でした。

(訪問日2020/10/04)

*1:遠照寺による設置