甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【伊那市】熱田神社

今回は長野県伊那市の熱田神社(あつた-)について。

 

熱田神社は伊那市郊外にある旧長谷村の集落に鎮座しています。

創建については詳細不明ですが、熱田神宮(名古屋市)から勧請されたのがはじまりとのこと。境内は村の鎮守として標準的な規模ですが、江戸中期に造営された豪華な本殿が国指定重要文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒396-0402長野県伊那市長谷溝口宮之久保1993-1(地図)
アクセス 下之郷駅から徒歩1.5時間
伊那ICから車で30分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道

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熱田神社の境内は西向き。

入口の鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「熱田神社」。

 

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参道の右手には手水舎。入母屋、銅板葺。

軒裏の垂木は一重ですが、放射状に延びている(扇垂木)のが特徴的。

 

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柱は几帳面取り。木鼻は唐獅子と象の彫刻。

 

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破風板からは蕪懸魚が下がっています。

入母屋破風の内部は板でふさがれていて見えず。

 

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参道の左手には舞宮。寄棟、鉄板葺。

案内板(伊那市教育委員会)によると、もとは拝殿の前にあったため「前宮」や「神楽殿」と呼ばれていたとのこと。1936年に現在地へ移設、1989年に茅葺から鉄板葺に改修。

舞宮の内部には「神社物語」と銘打った手作りの解説パネルがあり、熱田神社の伝説や本殿の造営にまつわるエピソードが詳細に語られているので必見。

 

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正面の虹梁のスパン(柱間)が非常に長く、強度的にちょっと心配になってしまう造り。虹梁の下部を見てみると、もとあった柱を抜いたような形跡が見られます。

内部には天井がなく、小屋組や化粧屋根裏を見ることができます。

 

拝殿と覆い屋(天覆)

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拝殿は入母屋(妻入)、向拝1間・軒唐破風付、銅板葺。

後方に見える平入の建物は、後述する本殿の覆い屋です。

 

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拝殿向拝。

向拝柱は几帳面取り角柱。木鼻は正面、側面ともに象鼻。柱上の組物は皿付きの出三斗をベースとしたもの。

虹梁中備えは蟇股。その上の小壁には笈形付き大瓶束。

唐破風の破風板からは、兎毛通と桁隠しが下がっています。

母屋の扉の上に掲げられた扁額は「熱田大神宮」でした。

 

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拝殿の後方には、本殿を保護する覆い屋(天覆)があります。入母屋(平入)、茅葺。

1888年の造営本殿の附として国重文に指定されています。

 

本殿

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覆い屋の内部には本殿が鎮座しています。本殿は三間社入母屋(さんけんしゃ いりもや)国指定重要文化財です。

桁行3間・梁間3間、入母屋(平入)、左右側面軒唐破風付、向拝1間、こけら葺。

1762年(宝暦十二)の造営。高遠藩などの寄進ではなく、村の住人が費用を出し合い300両の大金を工面して造ったとのこと。宮大工については、境内の石碑によると下記のとおり。

 この建築には宮大工であった当溝口村高見善八が棟梁となり 多くの職人とともに精魂こめて仕上げたもので 規模といい 造作といい 近隣に比類ない豪華なものである

 特に彫刻師は上州(現群馬県)勢多郡の関口文治郎 彩色は 武州(現埼玉県)熊谷在の森田清吉である 竜 象 唐獅子 花鳥などの彫刻は実に巧妙華麗で見あきることがない それで名声が響きわたり「伊那日光」と呼ばれるようになった

長谷村教育委員会

祭神はアマテラス、ヤマトタケル、八剱大明神。

 

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反対側から見た図。左右には摂社と思しき小さい本殿があるため、熱田神社本殿はちょっと見づらいです。

向拝柱は几帳面取りで、面には紋様が彫られています。柱上の組物は出三斗。木鼻は正面が唐獅子、側面が象(?)。手挟には彩色された孔雀が彫られています。

見えにくいですが、母屋の正面には3組の桟唐戸が設けられています。

 

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左側面。

母屋柱は円柱で、側面の柱間は3つ。すなわち梁間(側面)3間。

柱の上部には唐獅子の木鼻。柱上の組物は三手先で、竜や象が彫られた木鼻が突き出ています。組物で持ち出された梁には、極彩色で波が描かれています。

そして軒には唐破風がつけられています。ふつうなら唐破風は正面の軒や庇に設けられる装飾であり、側面の軒に設けるのはかなり風変わりです。

 

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背面。こちらも柱間が3つ。

軒下の意匠は側面と同様ですが、こちら側は軒に唐破風がついていません。

 

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左後方からみた縁側。

縁側は切目縁が4面にまわされ、背面は脇障子でふさがれています。欄干は跳高欄、縁の下は腰組。

 

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縁の下の腰組には竜と唐獅子が彫られています。組物のあいだにある彫刻は彩色されており、波に泳ぐ竜や、故事を題材にしたと思われる人物像が題材となっています。

 

信州ではあまり見かけない入母屋本殿のうえ側面に唐破風がつき、彫刻の作風も諏訪の立川流・大隅流とは趣が異なります。しかも江戸中期とは思えないくらいの派手な彩色まで施されています。

近隣の寺社の中でも異彩を放つ、特異かつ秀逸な物件だと思います。

 

以上、熱田神社でした。

(訪問日2020/10/04)

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