甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【岡谷市】照光寺

今回は長野県岡谷市の照光寺(しょうこうじ)について。

 

照光寺は岡谷の中心市街に鎮座している真言宗の寺院です。山号は城向山。

創建は不明。室町期には下社秋宮の神宮寺の末寺だったとのこと。現在の境内は本堂をはじめ多数の伽藍があって非常に充実した内容で、その大半は立川流・大隅流の宮大工によって造られたものです。

 

現地情報

所在地 〒394-0028長野県岡谷市本町2-6-43(地図)
アクセス 岡谷駅から徒歩10分
岡谷ICから車で10分
駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 真言宗智山派 城向山瑠璃院 照光寺
所要時間 20分程度

 

境内

蚕霊供養塔

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照光寺の境内は南向き。幹線道路に面した場所に入口があります。

 

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参道の左手には蚕霊供養塔(さんれい-)が東面して建っています。

蚕霊供養塔は二重、初重軒唐破風付、銅板葺。総高37尺(約11メートル)。

1934年竣工。棟梁は大隅流の石田房茂。

 

文字どおり蚕の供養のために造られた塔。諏訪地域の製糸業の歴史を物語る遺産のひとつです。

 

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初重。基壇は5尺(約1.5メートル)の美濃石で造られており、その上に塔の母屋が乗っています。

初重の柱は円柱で、1間四方。正面には両開きの桟唐戸。軸部は長押と貫で固定されていて、頭貫には象鼻がついています。

 

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初重の軒下。

柱上には台輪がまわされ、その上に中備えと組物が配置されています。中備えの蟇股は2羽の鳩が飛ぶ構図。組物は和様の尾垂木三手先。

 

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初重の正面には軒唐破風が設けられ、標準的な多宝塔や三重塔とは一線を画するデザインになっています。

破風板から下がる兎毛通には、天女が彫られています。

なお、初重の軒裏は二軒の平行繁垂木です。

 

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二重。扁額は「蠶霊塔」(蠶は蚕の旧字体)。

母屋の四周には縁側がまわされているほか、柱上の組物の構造や、軒裏が扇垂木になっている点が初重と異なります。

 

手水舎(水屋)

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蚕霊供養塔から参道を進むと、左手に手水舎があります。

唐破風の屋根の両側面にさらに軒唐破風をつけ、四方すべてを唐破風にしたような構造。建築様式としては切妻、正面背面軒唐破風付、銅板葺といったところでしょうか。

平成期の造営のようです。

 

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南面。

虹梁には浮彫の竜。中備えの彫刻は竜と獅子が対峙するあいだに兎が居ます。兎毛通は鷹。

 

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西面。

虹梁は松に鶴。中備えは竹藪に牛、鼠、猪で、どうやら十二支が題材のようです。妻虹梁の上には大瓶束。兎毛通は鳳凰。

柱につけられた木鼻は、南面と北面が唐獅子、東面と西面が獏。

ほか、東面と北面にも同様の彫刻があっていずれも良い造形ですが割愛。

 

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内部の天井には派手な竜が彫刻されています。

 

山門

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参道を進むと山門が鎮座しています。扁額は山号「城向山」。

山門は一間一戸の薬医門、切妻、瓦棒銅板葺。

1846年造営。棟梁は2代目和四郎こと立川和四郎富昌。上社本宮の幣拝殿などを造った宮大工です。

 

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正面の軒下。

柱をつなぐ腕木(男梁)は先端が木鼻のような造形になっており、その左右には象鼻がつけられて組物を介して軒桁を受けています。

 

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西面。写真左が正面側になります。

虹梁の下には蟇股。虹梁の上では笈形付き大瓶束。

内部に天井はなく、化粧屋根裏。軒裏は一重のまばら垂木。

 

立川和四郎が手掛けた割にはそれらしい彫刻もなく、やや地味な感が否めない造り。どうやらこの門は下社神宮寺(現存せず)から移築したものらしいです(『諏訪の社寺と名匠たち』より)。

 

本堂

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本堂は入母屋(平入)、向拝1間・軒唐破風付、銅板葺。

1792年の造営。棟梁は大隅流の名工・柴宮長左衛門矩重(旧姓伊藤)。

本尊は大日如来。

 

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向拝および母屋正面。

大量の彫刻が配置されており、これらは柴宮長左衛門矩重(しばみや ちょうざえもん のりしげ)の作とのこと。長左衛門は下社春宮を造営した宮大工です。

 

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向拝柱は几帳面取り角柱。木鼻は正面が唐獅子、側面が象。

虹梁には波のような唐草が浮き彫りになっており、よく見ると鳩らしき鳥も飛んでいます。虹梁下部には「波に亀」の持ち送り。

いずれも長左衛門らしい題材と作風です。

 

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虹梁中備えの彫刻は竜。その上では大瓶束をはさんで2頭の唐獅子が彫刻されています。兎毛通は鳳凰。

 

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向拝柱の上の手挟の彫刻は「松に鷹」。ちょっと変わった技法の彫りかたをしています。

 

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母屋の欄間にはこのような彫刻がはめ込まれています。題材は何かの物語や故事の一場面と思われますが、あいにく私の浅い知識では特定できず...

 

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入母屋破風の内部には笈形付き大瓶束。ひょろりと縦に伸びた形状が独特でおもしろいです。

破風板の拝みには、唐草の装飾がついた蕪懸魚。鬼板の紋は、諏訪梶の図案を簡略化したものでした。

 

薬師堂

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本堂の右手には薬師堂が西面して建っています。

薬師堂は入母屋(平入)、向拝1間、桟瓦葺。

1826年の造営。棟梁は藤森広八。

 

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向拝。木鼻は唐獅子と象、中備えは竜。

 

その他の伽藍

ほか、境内には大小多数の伽藍がありますが、きりがないので以下は手短に紹介いたします。

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開山堂。本堂左手、薬師堂の近くにあります。

鉄板葺、上層が八角形になっているのが特徴的。1903年建立。

 

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鬼子母神堂。薬師堂の奥にあります。

入母屋(平入)、向拝1間、銅板葺。

虹梁は波に亀、中備えは鶴。

 

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平岡稲荷。鬼子母神堂のさらに奥にあります。

一間社流造、銅板葺。

 

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玄関。本堂の左隣です。

向唐破風、銅板葺。

木鼻は唐獅子と獏。虹梁中備えは唐獅子が戯れる図。その上の大瓶束の左側は司馬温の甕割り、右側は不明。兎毛通は鳳凰。

 

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社務所。本堂と玄関の左隣です。

入母屋、銅板葺。

木鼻は唐獅子と獏。虹梁は波の意匠。中備えは竜。

 

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最後に境内西側にある光明閣。

 

以上、照光寺でした。

(訪問日2020/10/14)