甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【伊賀市】観菩提寺(正月堂)

今回は三重県伊賀市の観菩提寺(かんぼだいじ)について。

 

観菩提寺は市北部の山際の集落に鎮座する真言宗豊山派の寺院です。山号は普門山。通称は正月堂。

創建は寺伝によると奈良時代で、東大寺の実忠によって天平年間(729~749年)に開かれたといわれます。その後の沿革は不明ですが平安時代に再興されたらしく、当地の武士らの崇敬を受けたようです。

現在の主要な境内伽藍は楼門と本堂(正月堂)の2棟だけとなっていますが、この2棟は室町前期の造営と推定され、国の重要文化財に指定されています。また、本尊の秘仏・十一面観音立像も重要文化財です。

 

現地情報

所在地 〒519-1711三重県伊賀市島ヶ原1349(地図)
アクセス 島ヶ原駅から徒歩30分
上野ICから車で20分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

楼門

観菩提寺の境内は南向き。

境内は公園と駐車場に面した場所にあり、道路より一段高い区画に境内伽藍が広がっています。

 

境内入口の楼門は、三間一戸、楼門、入母屋、檜皮葺

室町前期の造営。「観菩提寺楼門」として国指定重要文化財*1

 

下層は正面3間。

中央の1間はやや広く取られ、通路となっています。左右各1間には仁王像。

通路上の扁額は寺号「観菩提寺」。

 

正面向かって右側。

柱はいずれも円柱で、頭貫には禅宗様の木鼻が使われています。

柱上の組物は二手先。中備えは間斗束で、ここは和様の意匠。

 

右側面(東面)。

側面は2間で、柱間は白壁となっています。

頭貫の上の中備えは、正面と同様に間斗束。

 

正面の軒下から通路上を見上げた図。写真下の奥に見えるのは本堂。

通路上も、頭貫の上に中備えが使われています。

内部は鏡天井で、通路部分の天井には竜らしき絵が描かれていた形跡があります。

 

つづいて上層。扁額は山号「普門山」。

上層も正面3間です。

 

右側面。

柱は円柱で、こちらも頭貫に木鼻がありますが、上層の軸部は頭貫の下に長押が打たれています。

柱上の組物は、木鼻のついた三手先。

側面には、中備えがありません。

 

背面。

正面および背面は、中備えに間斗束が使われています。

柱間は4面すべてが吹き放ち。

 

入母屋破風には、木連格子が張られています。

破風板の拝みには猪目懸魚。

 

背面を本堂の縁側から見下ろした図。

下層には、背面側も四天王の像が置かれています。訪問時は、背面向かって右の多聞天像*2が修理中のため不在となっていました。

 

本堂(正月堂)

山門の先には本堂が鎮座しています。別名は正月堂。

右手前の標柱は「國寶 正月堂」。ここで言う國寶(国宝)は、戦前の法によって指定されたいわゆる旧国宝のことで、現在の重要文化財に相当します。

 

本堂は、桁行3間・梁間3間、入母屋、向拝3間、檜皮葺。

室町前期の造営。向拝は1885年の改修で付加されたようです。

「観菩提寺本堂」として国指定重要文化財

 

前方の1間通りは向拝で、吹き放ちの空間となっています。

 

向拝の中央。扁額は「正月堂」。

 

向かって右の柱。

柱はいずれも円柱。向拝柱の側面には象鼻があります。

柱上の組物は出三斗。実肘木はなく、軒桁を直接受けています。

 

虹梁は白い線で絵様が彫られています。

中備えは蟇股。明治の改修時の部材のようですが、縦長でアンバランスな感が否めない形状です。

 

向拝の軒下の様子。写真右が向拝柱、左が母屋です。

向拝の組物の上では、手挟が軒裏を受けています。手挟は古風かつシンプルな板状のもので、繰型状の曲線のシルエットとなっています。

向拝柱と母屋のあいだには、太い虹梁がわたされています。虹梁に絵様は彫られていません。

 

母屋部分は正面3間。3間いずれも格子戸となっています。

母屋も柱は円柱が使われ、柱上は出三斗です。

 

右側面(東面)。

側面は3間。前方の1間は桟唐戸、後方の2間は白壁です。

 

母屋柱の上部には頭貫が通り、禅宗様の木鼻がついています。

桟唐戸の上の中備えは出三斗。

 

左側面(西面)。

縁側は切目縁が4面にまわされ、向拝部分だけ跳高欄が立てられています。

 

側面3間のうち、中央の1間は中備えに双斗(ふたつど)のような部材が使われています。

基部の巻斗は皿付きで、肘木の上に波状の曲線で刳りとられた巻斗(?)2つが軒桁を受けています。風変わりな意匠ですが、おそらくこれは改修時のものではなく、造営当初からあった部材だと思います。

 

背面。

中央は桟唐戸、左右各1間は白壁です。

中備えはいずれも間斗束で、先述の双斗のような部材ではありません。

 

側面の破風。

入母屋破風には妻虹梁があり、その上に大きな板蟇股が置かれています。妻虹梁の下にも、出三斗や彫刻が入っています。

破風板の拝みには、鰭付きの蕪懸魚。

 

以上、観菩提寺でした。

(訪問日2023/08/11)

*1:附:棟札1枚

*2:平安時代の作で、県指定有形文化財