甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【鎌倉市】円覚寺 その1(山門、仏殿など)

今回は神奈川県鎌倉市の円覚寺(えんがくじ)について。

 

円覚寺は市北部の丘陵に鎮座する臨済宗円覚寺派の大本山。山号は瑞鹿山。

建長寺に次いで、鎌倉五山の第2位に列しています。

創建は1282年(弘安五年)。元寇の戦死者を弔うため、8代執権・北条時宗の発願で禅僧・無学祖元を招いて開かれました。その後は北条氏の庇護を受けましたが幾度も火災で伽藍を焼失し、関東大震災では舎利殿などが倒壊しています。

現在の境内伽藍は、塔頭(境内寺院)にある舎利殿は室町時代のものですが、主要な伽藍は江戸中期以降のものです。舎利殿は神奈川県の建造物として唯一の国宝となっています。また、洪鐘(梵鐘)も国宝に指定されています。

 

当記事ではアクセス情報と、山門や仏殿など境内中心部の伽藍について述べます。

弁天堂と国宝の洪鐘、唐門と方丈、佛日庵(開基廟)などについては「その2」を、

正続院および国宝の舎利殿については「その3」をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒247-0062神奈川県鎌倉市山ノ内409(地図)
アクセス 北鎌倉駅から徒歩1分
朝比奈ICから車で15分
駐車場 なし
営業時間 08:00-16:30(※冬季は16:00まで)
入場料 500円(※舎利殿や開基廟は別料金)
寺務所 あり
公式サイト 臨済宗大本山 円覚寺 - 鎌倉市
所要時間 2時間程度

 

境内

総門

円覚寺の境内は南西向き。

境内入口は北鎌倉駅のとなりにあり、参道が横須賀線によって分断されています。

 

踏切を渡ると、参道脇に寺号標があります。

右は「臨済宗大本山 円覚寺」。左は「北条時宗公御廟所」。

 

石段を登った先には総門。

一間一戸、四脚門、切妻、桟瓦葺。

 

正面の軒下。内部の扁額は山号「瑞鹿山」。

頭貫のあいだの中備えは連三斗。通し肘木を介して軒桁を受けています。

軒裏は二軒繁垂木。

 

前方の控柱は、上端が絞られた円柱。四脚門の控柱で円柱を使うのはめずらしいです。

控柱の正面と側面には拳鼻。

 

妻面。

妻虹梁などはなく、主柱がそのまま棟木の近くまで伸びています。

主柱と控柱は貫で連結され、上部は海老虹梁で連結されています。

 

主柱の上部。

主柱も円柱で、上端が絞られています。側面には頭貫木鼻と台輪木鼻がついています。

台輪の上では出三斗が棟木を受けています。

 

背面から見た図。

門扉は桟唐戸。

木鼻や扉や礎石などなど、禅宗様の意匠が多用され、禅寺の入口の門としてふさわしい造りだと思います。

 

山門(三門)

総門の先は有料(拝観料500円)の区画となります。

拝観料を払って参道を進むと、山門があります。

山門は、三間一戸、二重、楼門、入母屋、銅板葺。

1785年(天明五年)再建。県指定有形文化財。

 

下層は柱間に建具がなく、4面すべてが吹き放ち。

左右の柱間は柱の腰に貫が通っていて、中央の柱間だけが通路となっています。

 

向かって右の柱間。

柱の上部には2本の貫が通り、頭貫の上には台輪が通っています。

台輪の上には、柱間にも組物が配されています(詰組)。

 

柱はいずれも円柱。上端が絞られ、粽柱になっています。

柱上の組物は木鼻付きの出組。

この写真は正面中央向かって右の柱なのですが、なぜかここだけ軒桁に彫刻がついています。

 

隅の柱。

頭貫と台輪には、禅宗様木鼻が設けられています。

軒裏は二軒繁垂木。

 

右側面。

こちらも建具がなく、柱間は貫が通されているだけ。

 

下層内部の通路部分には虹梁が渡され、虹梁の中央には大瓶束が立てられています。

 

通路部分、向かって左側。

こちらも虹梁と大瓶束があります。

 

つづいて上層。扁額は「圓覺興聖禪寺」(円覚興聖禅寺)。

下層と同様、正面の柱間は3間。

中央は桟唐戸、左右は火灯窓が設けられています。

 

上層も柱は円柱が使われ、頭貫と台輪に木鼻があります。

柱間に詰組が置かれている点も下層と同じですが、こちらの組物は禅宗様の尾垂木二手先。

 

上層右側面。

側面は2間。柱間は舞良戸と縦板壁。

軒裏は二軒繁垂木で、垂木が放射状に伸びています(扇垂木)。

 

破風板の拝みには鰭付きの懸魚。

入母屋破風の妻飾りはよく見えず。

 

背面全体図。

こちらも上層の柱間は縦板壁。

 

仏殿

山門の先には、円覚寺の本堂に相当する仏殿が鎮座しています。

RC造。桁行3間・梁間4間、一重、裳階付、入母屋、銅板葺。

1964年(昭和三十九年)再建。

本尊は釈迦如来。

 

裳階の軒下。軒裏は平行の二軒繁垂木。

柱は粽の円柱。上部に頭貫と台輪が通り、柱間には平三斗の詰組。

扉の上には弓欄間。欄間の中央には宝珠の意匠。

 

向かって右の柱間。

連子窓が設けられていますが、右端の柱間は窓や建具がなく、飛貫の上の弓欄間も省略されています。

 

上層。扁額は「大光明寶殿」。

 

組物は尾垂木三手先。こちらも詰組で、柱間にびっしりと組物が配されています。

軒裏は放射状(扇垂木)の二軒繁垂木。

 

破風板の拝みには懸魚。

妻飾りは二重虹梁。大虹梁の上には蟇股や大瓶束が使われています。

 

内部には大きな鏡天井が設けられ、竜が描かれています。

 

本尊の釈迦如来。宝冠釈迦如来、廬舎那仏とも呼ばれるようです。

案内板*1によると釈迦如来像は鎌倉時代の作らしいですが、火災で顔以外の部分を喪失し、1625年に体の部分が補作されたとのこと。脇侍の梵天と帝釈天も、釈迦如来像の補作の際に作られたようです。

 

選仏場(選佛場)

仏殿向かって左手には、茅葺屋根の選仏場(せんぶつじょう)が南東向きに建っています。

寄棟(妻入)、茅葺。

1699年(元禄十二年)頃の造営のようです*2

 

正面の柱間は、火灯窓や桟唐戸など、禅宗様の意匠が使われています。

 

柱は円柱。柱上には台輪が通っています。

軒裏は一重まばら垂木。

扁額は「選佛場」。

 

隅の柱には、頭貫木鼻と台輪木鼻がついています。

中備えは間斗束。

組物と中備えは、実肘木ではなく通肘木が使われ、肘木を共有しながら軒桁を受けています。

 

選仏場の左側面。

正面からだと宝形にも見えますが、側面から見ると短い大棟が前後に伸びていて、寄棟であることがわかります。

 

山門や仏殿などについては以上。

その2では、弁天堂と洪鐘、唐門と方丈、佛日庵(開基廟)などについて述べます。

*1:円覚寺 三宝会の設置

*2:境内案内板(大本山 円覚寺 三宝会による設置)より