甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【日野町】比都佐神社(十禅師)

今回は滋賀県日野町十禅師(じゅうぜんじ)の比都佐神社(ひつさ-)について。

 

比都佐神社は町西部の集落に鎮座しています。

創建は不明。『延喜式』に記載された「比都佐神社」に比定される式内論社です。平安時代に日吉大社(大津市)の領地となり、十禅師権現が勧請されたのが地区名の由来。当社所蔵の文書によると、室町時代と江戸時代に計4回の社殿造営が行われたとのこと。明治時代に社殿を焼失し、1886年に社殿が再建されています。

現在の境内や社殿は明治時代に再建されたもの。境内に立つ宝篋印塔には鎌倉初期の銘があり、当地に点在する中世の石造物として評価が高く、国重文となっています。

 

現地情報

所在地 〒529-1645滋賀県蒲生郡日野町十禅師410(地図)
アクセス 日野駅から徒歩15分
蒲生スマートICから車で20分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

神楽殿

比都佐神社の境内は南東向き。田園地帯に面した集落の一画に境内があります。

入口の鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「比都佐神社」。

 

参道左手には手水舎。切妻、鉄板葺。

蟇股や蕪懸魚が使われています。

 

神楽殿は、入母屋(妻入)、銅板葺。

1886年(明治十九年)の再建と思われます。

柱間に建具がなく、全方向が吹き放ちです。

 

正面中央の扁額は、右横書きで「比都佐神社」。

柱は面取り角柱で、柱上は舟肘木。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

内部は、二重の折上げ小組格天井になっています。

 

拝殿

拝殿は、入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

 

向拝の軒唐破風の兎毛通。

中央は三つ花懸魚のような意匠、左右の鰭は牡丹と思しき花が彫られています。

 

虹梁中備えは竜の彫刻。

その上の唐破風の小壁には笈形付き大瓶束。大瓶束の左右に添えられた笈形は、菊水の彫刻になっています。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。柱上の組物は皿付きの出三斗で、となりの虹梁の上の組物と肘木を共有しています。

向拝柱の側面には、獏の彫刻。

 

向拝柱の上の手挟は、籠彫りで菊が彫刻されています。

 

母屋の前面。柱間は、格子戸と蔀戸が使われています。

正面中央の格子戸の上の扁額は、「比都佐神社」。

縁側は前面のみに設けられています。母屋の脇に立てられた脇障子は、欄間に菱組の格子が入っています。欄干は跳高欄、昇高欄は擬宝珠付き。

 

母屋柱は円柱。軸部は長押で固定され、柱上は舟肘木。擬古風な造り。

側面は2間。柱間は横板壁。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

本殿

拝殿の後方には本殿が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、三間社入母屋、向拝1間、銅板葺。

神楽殿や拝殿と同様、1886年の再建と思われます。

祭神はホオリ(彦火火出)などの9柱。

 

向拝。

向拝柱は几帳面取り角柱で、唐獅子と獏の木鼻がついています。

虹梁中備えには竜の彫刻がありますが、これ以上近づけないため細部は観察できず。

向拝柱と母屋は、大きく湾曲した海老虹梁でつながれています。

 

母屋の前面は3間。中央の柱間が広く取られています。

建具は菱組の格子戸。

 

側面も3間。見づらいですが、前方の1間は板戸、後方の2間は横板壁になっています。

縁側は正面と両側面の計3面に切目縁まわされ、跳高欄が立てられています。背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

縁の下の腰組には、繰型のついた肘木が使われています。

 

母屋柱は円柱。頭貫には拳鼻がついています。

組物は出組で、桁下には軒支輪。

 

背面。こちらも3間。

 

隅木の下には、竜の彫刻が添えられています。

中備えの蟇股は植物の彫刻が入っています。

どちらの彫刻も、金網がかかっていて見づらいのが惜しいです。

 

本殿の左側には、このような門が設けられていました。

切妻、銅板葺。

門扉は桟唐戸が使われています。

 

宝篋印塔

神楽殿向かって左手には、宝篋印塔が立っています。

1304年(嘉元二年)建立国指定重要文化財

 

塔身(梵字が彫られた中央の四角い部分)が1段になっている、関西形式の宝篋印塔。

案内板(滋賀県教育委員会の設置)いわく、“造立年次が明らかで、規模が大きく、細部意匠の優秀な遺品として貴重”だそうです。

 

基部側面はくぼみ(格狭間)がつけられ、向かい合う鳥の彫刻が入っています。案内板によると孔雀とのこと。

 

笠の四隅の耳(隅飾り)は、右奥のものが欠損しています。

頂部は、本来は蛇腹状の相輪がつくのですが、露盤にそのまま宝珠が乗せられています。相輪は欠損してしまったとのこと。

 

以上、比都佐神社でした。

(訪問日2022/10/15)