今回は大阪府堺市の家原寺(えばらじ)について。
家原寺は西区の住宅地に鎮座する行基宗の単立寺院(本山)です。山号は一乗山。
別名・通称は智恵の文殊、ハンカチ寺。以前は落書き寺とも呼ばれたようです。
創建は寺伝によると704年(慶雲元年)、行基が母方の実家のあった場所に寺を開いたのが始まりとのこと。その後は荒廃したようですが、鎌倉期に再興されています。江戸期に再び再興されて現在の本堂が再建されますが、明治期の廃仏毀釈で仁王像が流出(海外に売却)するなどして荒廃しています。
現在の境内の大部分は近現代の再建で、三重塔は平成期のものですが、多くの伽藍が立ち並び充実した境内になっています。学業成就の寺として著名なようで、本堂の外壁は合格祈願のため貼り付けられたハンカチで埋め尽くされ、他所の寺社では見られない独特の外観となっています。
現地情報
所在地 | 〒593-8304大阪府堺市西区家原寺町1-8-20(地図) |
アクセス | 津久野駅から徒歩10分 堺ICから車で10分 |
駐車場 | 50台(500円) |
営業時間 | 09:00-17:00 |
入場料 | 500円 |
寺務所 | あり |
公式サイト | 智恵文殊家原寺 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
南大門(仁王門)
家原寺の境内は南向き。参拝者用の駐車場の一角に南大門があります。
南大門は一間一戸、四脚門、切妻、本瓦葺。
内部には仁王像が向かい合って配置されています。
一間一戸の門を仁王門にしている例はめずらしいと思います。たいていの仁王門は像を置くために三間一戸の形式(八脚門や楼門)にしている場合がほとんどです。
前後の控柱は面取り角柱。柱上の組物は大斗と実肘木。
虹梁中備えも大斗と実肘木。虹梁の木鼻は拳鼻。
背面側から境内入口のほうを見た図。
主柱は円柱が使われています。
梁の中央と妻飾りには間斗束。舟肘木を介して棟木を受けています。
軒裏は一重の繁垂木で、化粧屋根裏。
不動堂
駐車場を過ぎて境内の中心部へ進むと、左手に不動堂があります。東向き。
桁行3間・梁間3間、入母屋、向拝1間、本瓦葺。
向拝柱は角柱。几帳面取りの部分が黒く塗り分けられています。組物は連三斗。
虹梁は雲状の唐草が浮き彫りになっています。中備えは板蟇股。木鼻は白い象鼻が設けられています。
手挟は板状のもの。黒い線で波頭状の繰型が彫られています。
縋破風の桁隠しには懸魚。複雑な形状をしています。
母屋柱は面取り角柱。
正面側面ともに3間。正面中央は桟唐戸、左右は格子の窓。
頭貫には象鼻。柱上は大斗と花肘木。
軒裏は一重の繁垂木。
本堂
参道を進むと蓮池があり、橋を渡った先に本堂が鎮座しています。
参道左にある鐘楼は工事中だったため割愛。
鐘楼の向かい、参道右側には水かけ清水地蔵。
本堂は桁行5間・梁間5間、入母屋、向拝1間、本瓦葺。
1648年(慶安元年)再建。「家原寺境内」として境内全体で府指定史跡となっています。
本尊は文殊菩薩。
本堂の外壁や柱には、白い布がびっしりと貼られています。これは寺務所で販売されているハンカチで、文殊菩薩にあやかって受験生が合格祈願のために貼りつけるようです。
もとは受験生が名前や志望校を壁に書き込んでいたため「落書き寺」と呼ばれたらしいですが、文化財保護の観点や、次の受験生のために落書きを消す手間などの諸事情により、現在のハンカチを貼る形式になったとのこと。
個人的な感想を述べますと、研究所を名乗る某集団が「スカラー電磁波」なるものを防ぐため、こんな感じの紙を車にべたべたと貼っていたのを思い出しました... いま(2021年度)の高校3年生が生まれる直前あたりの出来事なので、受験生のほとんどは知らないと思いますが。
向拝は1間。
虹梁中備えの蟇股には唐獅子の彫刻が入っているのですが、網がかかっていてよく見えず。
向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象鼻。
柱上は連三斗。組物の上では板状の手挟が軒裏を受けています。
母屋正面は5間。中央の扁額の右半分は「行基菩薩」、左半分は判読できず。
向拝柱と母屋をつなぐ懸架材はありません。
母屋柱は円柱。柱上は出組で、持ち出された桁の下には軒支輪。
網がかかっていて見づらいですが、中備えは蓑束。
側面。
さすがに引き戸(舞良戸)のところは貼りつけ禁止のようで、その旨を書いた張り紙がありました。
妻飾りは虹梁と大瓶束。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
大棟鬼板は鬼瓦になっています。
正面5間に対し、こちらの背面は4間になっています。
三重塔
境内東端には薬師堂があり、その右手の小屋とゲートを通って先へ進むと三重塔があります。
三間三重塔、銅板葺。
1989年(平成元年)の造営。
初重。
三間三重塔のため、母屋は正面側面ともに3間。柱はいずれも円柱。
柱間は正面が板戸、左右は緑色の連子窓。
軸部の固定には長押が多用され、木鼻は使われていません。
組物は和様の尾垂木三手先。中備えは間斗束。
純粋な和様の意匠で構成されています。
二重。母屋や軒下の意匠は初重とほぼ同じ。
縁側は切目縁で、跳高欄が立てられています。
軒裏は二軒繁垂木。
三重と頂部の宝輪。
宝輪は九輪と水煙がついたもの。
その他の伽藍
三重塔の近くには塔頭(境内寺院)。
塔頭の本堂は入母屋(妻入)、向拝1間、銅板葺。
境内西側には「行基菩薩誕生塚」と名称不明の堂。
工事中のように見えますが、周辺が立入禁止になっているわけでもなく、おざなりな感じのする状態。
最後に三重塔の近辺から見下ろした境内。
以上、家原寺でした。
(訪問日2021/11/21)