今回も石川県羽咋市の妙成寺について。
その2では丈六堂、三十番神堂、三光堂について述べました。
当記事では本堂、祖師堂、鐘楼などについて述べます。
本堂
三光堂の右隣には、存在感あふれる大型の本堂が南向きに鎮座しています。
桁行5間・梁間5間、入母屋、向拝1間、こけら葺。
1614年(慶長十九年)建立。加賀藩3代・前田利常の寄進で、棟梁は御用大工の坂上又三郎とのこと。国重文。
本尊はパンフレットによると“一塔両尊四天王四菩薩など”とのこと。
向拝全体図と蟇股。
虹梁中備えの蟇股は、桐が彫刻されています。
向拝柱は角面取り。C面がやや広めにとられています。
柱の内側(写真右)から挿肘木で斗栱が出ていて、虹梁を持ち送りしています。あまり見ない意匠。
木鼻は禅宗様っぽい形状のもので、上に巻斗を載せて組物を持ち送りしています。柱上の組物は連三斗。
向拝を左側面から見た図。
柱と組物の上では手挟が軒裏を受けています。手挟は題材がよく解りませんが、曲線的でやわらかな造形。
縋破風には桁隠しの懸魚がついていますが、欠損してしまっている様子。
母屋正面。扁額は寺号「妙成寺」。
柱は円柱で、上端が絞られています。
中央の柱間は桟唐戸、ほかの柱間は舞良戸。
台輪と頭貫には禅宗様木鼻。
組物は三斗で、柱上でない場所にも組物が配置され、禅宗様の意匠である詰組になっています。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
左側面(西面)。
いずれも舞良戸で、意匠は正面とほぼ同じ。
縁側は欄干のない切目縁が4面にまわされています。
祖師堂
本堂の左隣には祖師堂。日蓮宗の開祖である日蓮が祀られています。
桁行5間・梁間5間、入母屋、こけら葺。
1624年(慶長十九年)建立。本堂と同様、坂上又三郎らの一派によって造られたとのこと。本堂などとともに国重文。
これまでの堂宇は禅宗様の意匠が部分的に使われた折衷様式の造りでしたが、この堂は非常に禅宗様の色が濃く、毛色のちがった造りをしています。
正面。向拝はありません。
中央に回廊があるため少々見づらいですが、柱間は5間です。
中央の柱間は桟唐戸、ほかの柱間は引き戸が使われています。
柱はいずれも円柱で、上端が絞られて粽になっています。
柱上には台輪がまわされ、台輪と頭貫には禅宗様木鼻が設けられています。
柱と台輪の上の組物は尾垂木三手先。組物は柱のない場所にも配置されています(詰組)。詰組は典型的な禅宗様の意匠です。
軒裏は二軒の扇垂木。垂木が放射状に延びており、これも典型的な禅宗様の意匠。
びっしりと並んだ尾垂木三手先の組物とあいまって、圧巻の軒下。あからさまにほかの堂宇より気合の入った造りをしています。
左側面(西面)。
側面も柱間5間ですが、前方の1間だけ幅が広くなっており、詰組が2つ配置されています。
母屋は亀腹の上に建てられ、切目縁が4面にまわされています。この部分だけは禅宗様のセオリーに反しています。
破風板の拝みには鰭付きの三花懸魚が下がっています。桁隠しにも同様の懸魚が下がっていますが、欠損してしまったのか、あるいはもともとこうなのか判然としない中途半端な形状をしています。
入母屋破風内部は二重虹梁。
組物は平三斗のほか、2つの巻斗を並べて組んだ二つ斗(ふたつど)というめずらしいタイプのものが使われ、大虹梁を受けています。
大虹梁は左右に大瓶束が立てられ、中備えには二つ斗と彫刻(題材不明)を組み合わせた意匠が配されています。初めて見た意匠で、どう呼称したらいいのかわかりません...
二重虹梁の上では大瓶束が棟木を受けています。
めったにお目にかかれない二つ斗と、初めて見た謎の彫刻の意匠が使われており、非常に興味深いです。
鐘楼
本堂の手前、二王門のとなりには鐘楼。
入母屋、こけら葺。下層は袴腰。
1625年(寛永二年)建立。本堂などとともに国重文。
前述の祖師堂とは一転して禅宗様の意匠はほぼなく、ほとんどが和様の意匠で構成されています。
桁行は3間。
柱は円柱。軸部は長押で固定され、頭貫木鼻はありません。
組物は拳鼻のついた三手先。中備えは間斗束と巻斗。
持出しされた桁の下には軒支輪と格子の小天井。
梁間は2間。柱間は連子窓になっています。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
破風板の拝みには猪目懸魚が下がり、妻飾りは豕扠首。
縁側は切目縁で、欄干は跳高欄。縁の下は三手先の腰組。
下層は下見板の袴腰となっています。
書院と庭園
鐘楼と祖師堂の回廊を通って境内の奥へ進むと、小さな門の先に書院と庭園があります。
書院は寄棟、こけら葺。
1659年(万治二年)建立。こちらも国重文。
前田家代々の霊屋と、参拝時の御座所を兼ねた建物とのこと。
庭園は蓬莱式とのこと。
江戸初期の作庭で、県指定文化財。
書院の縁側に腰かけて庭園を眺めると、借景のような感じで五重塔を遠くに眺めることができます。
妙成寺の境内伽藍は以上。
ほか、方丈や庫裏もあり後者は国重文となっていますが、ここまでの圧倒的なボリュームに満足するあまり写真を撮り忘れてしまったため割愛。
以上、妙成寺でした。
(訪問日2021/05/01)