今回は愛知県稲沢市の萬徳寺(まんとくじ)について。
萬徳寺は稲沢市街の長野地区に鎮座している真言宗豊山派の寺院です。山号は長沼山。
創建は寺伝によると768年。称徳天皇の勅願を受けた慈賢によって開かれ、その後空海によって再興されたとのこと。災害により何度も伽藍を損失していますがその度に再建され、安土桃山時代から幕末まで当地の真言宗寺院の中心として栄えたようです。
現在の境内伽藍から往時の隆盛を偲ぶことはやや難しいですが、室町期の多宝塔と鎮守堂が現存して往時のなごりをとどめており、両者とも国重文に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒492-8142愛知県稲沢市長野3-2-57(地図) |
アクセス | 稲沢駅から徒歩10分 一宮ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
総門
萬徳寺の境内は南向き。寺号標は「長沼山華王院萬徳寺」。
境内入口には薬医門形式の門。名称がわからないので「総門」としておきます。
総門は一間一戸、薬医門、切妻、本瓦葺。
内部、向かって右側。
薬医門なので柱は前後に2本だけのはずですが、この門は前方(写真右)につっかい棒のような細めの柱が入っています。ほかの材と色味が同じでなじんでいる様子なので、後補ではなく当初からの材のように見えます。
主柱(中央)は大面取りで、C面が広いです。前後の柱は糸面取り。
天井はなく、化粧屋根裏になっています。軒裏は一重まばら垂木。
右側外部(東面)から見た妻壁。写真左が前方です。
妻飾りはシンプルな板蟇股。拳鼻付きの斗と実肘木を介して棟木を受けています。
破風板の拝みには梅鉢懸魚。曲面的に削られていて、下端が鋭く尖っています。
鐘楼
総門をくぐると、本堂の右手に鐘楼があります。
入母屋、本瓦葺。
柱上の組物は出組。柱間の中備えにも組物が配置されています。
内部は格天井。軒裏は二軒繁垂木。
柱は円柱で、上端が絞られて粽になっています。
柱の上部には頭貫と木鼻が通り、両者に木鼻が設けられています。禅宗様木鼻です。
本堂
境内の中央には本堂が鎮座しています。
入母屋、向拝1間・軒唐破風付、桟瓦葺。
本尊は薬師如来と思われます。
向拝は広めにとられており、ゆったりとした印象を受けるバランス。
母屋の正面側の建具は、桟唐戸と蔀戸が使い分けられています。
向拝の虹梁。
虹梁には唐草が彫られ、中備えは蟇股。蟇股は造形こそ古風ですが、あまり見かけない個性的な彫りかたをしていると思います。
唐破風の小壁には笈形付き大瓶束。笈形は菊水の彫刻、大瓶束は角ばった形状。小壁はしっくい塗り。
向拝柱は几帳面取り。木鼻は正面が唐獅子、側面が象。
柱上の組物は連三斗を発展させた横長な構成のもの。
母屋柱は大面取りの角柱。頭貫と台輪に禅宗様木鼻が設けられています。
組物は出組。中備えは間斗束。持ち出された桁の下には軒支輪。
軒裏は二軒繁垂木。
左側面(西面)。
柱間は前方が蔀戸、後方がしっくいの壁。
破風内部の妻壁は、二重(あるいは三重?)の虹梁になっています。
破風板拝みには鰭付きの蕪懸魚。
鬼板には鬼瓦。
多宝塔
本堂向かって左手(境内西側)には多宝塔と鎮守社が東面して鎮座しています。
三間多宝塔、檜皮葺。
詳細な年代は不明ですが、室町期の造営*1。国指定重要文化財。
木造の三間多宝塔としては最小規模。各所の意匠も簡略化されていて、素朴で質素な造りをしています。
下層の正面。
柱は角柱、中央は両開きの扉、左右は横板壁。
縁側は切目縁がまわされています。
右側面(北面)。
左右の両側面には扉などがなく、単純な横板壁が張られているだけ。
背面は中央に桟唐戸が使われていました。
柱の上部と木鼻。
柱はC面がかなり大きく取られており、室町期らしい造り。
頭貫木鼻はあまり見かけない独特な形状。案内板(稲沢市教育委員会)いわく、この部分は同市の性海寺多宝塔と類似しているとのこと。
柱上の組物。
出組で、桁下には軒支輪が使われています。
多宝塔なので上層の母屋と縁側は円形になっています。
組物は和様の尾垂木の出た四手先。
組物の実肘木に渦が描かれていないのが特徴らしいですが、私のカメラでは残念ながらそのような遠くの細部までは観察できず。
軒裏は二軒繁垂木。飛檐垂木(軒先のほうの垂木)は先端に向けて細くなる形状をしており、繊細な趣。
鎮守堂
多宝塔向かって右隣(北側)には鎮守堂が東面しています。
一間社流造、檜皮葺。
棟札より1530年(享禄三年)の建立*2。国指定重要文化財。
祭神は不明。
正面に3組の扉があるので三間社にも見えますが、構造は桁行1間・梁間1間なので一間社のようです。
向拝柱は大面取り角柱。組物は出三斗。
木鼻は象鼻に近い形状のもの。室町期のものだからか、繰型の渦の巻き数が若干多いです。
なお、虹梁の中備えはありません。
組物の上の手挟。ここだけ組物が二重になり、雲の彫刻は緑色に彩色されています。
向拝柱と母屋をつなぐ懸架材はありません。
向拝の軒下、母屋正面には角材の階段が7段。木口は黄色く塗装されています。
階段の下には切目縁の浜床。
母屋は前後に区画が別れており、前方は壁のない外陣、後方は扉と板で囲われた内陣になっています。
外陣には白い鏡天井が張られています。
縁側はくれ縁が3面にまわされています。欄干はありません。背面側は脇障子が立てられています。
側面の妻壁。
頭貫木鼻は拳鼻。こちらも巻き数が多め。
柱上の組物は出三斗と舟肘木を組み合わせた独特な構成のもの。このような組みかたは初めて見ました。
妻飾りは豕扠首。大斗を介して棟木を受けています。
背面。
正面に扉が3つあるのでこちらも3つに区切られていますが、柱間は1間です。
向かって右正面から見た図。室町期の2棟が並ぶ構図はまさに壮観。
鎮守堂の屋根は檜皮葺。檜皮の柔軟性を活かし、柔らかくて厚みのある箕甲になっています。
破風板から下がる懸魚は猪目懸魚で、エッジを黒、断面を白に塗り分けているからか、妙な立体感があるのがおもしろいです。
以上、萬徳寺でした。
(訪問日2021/05/15)