甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【塩尻市】伊夜彦神社

今回は長野県塩尻市の伊夜彦神社(いやひこ-)について。

 

伊夜彦神社は平出遺跡の南側の集落に鎮座しています。

創建や沿革は不明。案内板によると、当初は「平出の泉」の水神を祀る神社で、年代は不明ですが弥彦神社(新潟県弥彦村)を勧請して現在の社名に改めたとのこと。1428年(正長元年)の造営の棟札が現存することから、遅くとも室町後期には確立されていたようです。

現在の境内は江戸後期以降のもので、本殿は市指定の文化財です。本殿は2代目立川和四郎の手がけた建築で、立川流の派手な彫刻で飾られています。

 

現地情報

所在地 〒399-6461長野県塩尻市宗賀1003(地図)
アクセス 塩尻駅から徒歩20分
塩尻ICから10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

拝殿

伊夜彦神社の境内は東向き。境内は集落の一画にあります。

集落の北には平出遺跡や平出一里塚が、南には平出の泉と市立平出博物館があり、この周辺は歴史的な施設や旧跡が多いです。

入口の鳥居は石造明神鳥居。扁額はありません。

 

鳥居は明神鳥居なのですが、柱の前後にこのような平行四辺形の部材が添えられています。

おそらく、前後に倒れないようにするための部材だと思います。このような部材のついた鳥居は初めて見ました。

 

鳥居の先には拝殿。

切妻、正面千鳥破風、銅板葺。

 

左側面(南面)。

屋根は直線的な形状。妻飾りは豕扠首。

縁側はありません。

 

本殿

拝殿の後方には、塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神は、弥彦神社から勧請された天香山命。

 

一間社流造、銅板葺。

1817年(文化十四年)造営*1。市指定有形文化財。

棟梁は立川和四郎富昌(2代目和四郎)。諏訪大社上社本宮の拝殿を造営した宮大工です。

 

向拝の正面。

虹梁中備えの彫刻は松に鷹。鷹が松にとまった構図です。

中備えの左右には、複雑な組物が配されています。

 

向拝柱は糸面取り。正面には唐獅子、側面には象の木鼻。

柱上の組物は、平三斗の上に連三斗を乗せた構成のもの。

 

海老虹梁には昇り竜が彫られています。向拝側は虹梁の位置から出ていて、母屋側は頭貫の位置に取り付いています。

手挟は菊の籠彫り。

 

反対側(南面)の海老虹梁と手挟。

こちらは降り竜です。

 

正面には角材の階段が5段。

階段の下には長押が打たれ、その下に浜床が張られています。

 

母屋の右側面(北面)。

正面は格子戸が入り、側面および背面は横板壁です。

縁側は3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。背面側は脇障子を立ててふさいでいて、脇障子には唐獅子の彫刻。

 

組物は二手先。持ち出された妻虹梁の下の支輪板は、波と雲の彫刻が入っています。

中備えは蟇股。

 

妻飾りは笈形付き大瓶束。

笈形は波(あるいは雲)の意匠。結綿も波のような意匠です。

 

背面。

こちらは縁側がまわされていません。

 

頭貫には拳鼻。渦状の意匠が彫られています。

背面の中備えは、蟇股ではなく間斗束が使われています。

 

左側面(南面)の破風。

拝みには、鰭のついた蕪懸魚が下がっています。桁隠しの懸魚はありません。

 

南面の床下。

社殿は礎石の上に建てられています。

縁の下は縁束で支えられ、床下は板でふさがれています。

 

境内社

拝殿と本殿の北側には境内社があります。おそらく稲荷社。

内部の社殿は、一間社流造、こけら葺。

向拝柱の連三斗を、外ではなく内側に使っているのが独特。

 

ほか、境内南側には小祠や石碑がいくつかありましたが割愛。

 

以上、伊夜彦神社でした。

(訪問日2023/04/01)

*1:棟札より