今回は群馬県のメジャー観光地ということで、富岡市の貫前神社(ぬきさき-)について。
貫前神社は富岡市街にある丘の中腹に鎮座しており、上野国(群馬県)でもっとも格の高い一宮であることで知られます。
そんな格式高い神社でありながら社殿の配置や様式は異例づくしで、他の神社ではまずありえない奇妙な構成になっており、東日本の神社の中でもきっての個性派です。
現地情報
所在地 | 〒370-2452 群馬県富岡市一ノ宮1535(地図) |
アクセス |
上州一ノ宮駅から徒歩15分 富岡ICまたは下仁田ICから車で20分 |
駐車場 | 20台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 一之宮 貫前神社 |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
駐車場に車を置いて境内に入ると、最初に総門を通ることになります。
入口の鳥居は丘の下のほうにありますが、今回はスルーと相成りました。
総門は銅板葺の切妻(平入)の四脚門(よつあしもん)。
門扉が立てつけられている柱は円柱で、その前後の柱は角柱。これは四脚門のセオリー。
総門から境内を見ると、このようになっています。
写真中央が楼門で、そのすぐ後ろに拝殿と本殿があります。
ご覧のとおり、本殿よりも総門のほうが高い場所にあり、ここから階段を下って参拝することになります。これが世にも珍しい「下り宮」。
境内の中枢となる本殿・本堂はいちばん高い場所に置くのが常識のはずですが、この貫前神社はそれに真っ向から反する奇妙な社殿配置となっています。
階段を下った先には、楼門と回廊、そして手水舎があります。
中央の楼門は銅板葺の入母屋(平入)で2階建て。一間一戸で、彫刻もほとんどなく楼門としてはシンプルな構造。柱は円柱。
楼門の左右にある回廊は銅板葺の切妻。楼門とともに1635年の造営で、重要文化財に指定されています。
写真左は手水舎で、銅板葺の入母屋、柱は角柱です。
拝殿と本殿
楼門の脇にあるくぐり戸を抜けると、拝殿が建っています。こちらも重要文化財。
拝殿は檜皮葺の入母屋(平入)、正面3間・側面3間、正面に軒唐破風(のき からはふ)。
向拝はなく、柱は角柱。垂木は一重。
軒下の梁、貫、蟇股(かえるまた)、欄間、長押などの部材はいずれも極彩色に塗装されていて美麗な外観ですが、構造的にはかなりシンプルな造りをしています。梁と桁を受ける組物も、持出しのないただの出三斗(でみつど)。
拝殿の右側面。
軒下の意匠は、正面側ととくに大差ありません。
破風(はふ:屋根の側面の三角になった部分のこと)の内部も極彩色に塗り分けられています。
そしてこちらが本殿。重要文化財です。
本殿は檜皮葺の三間社貫前造(さんけんしゃ ぬきさきづくり)。単層2階建て、正面3間・側面3間、向拝3間。
江戸初期の1635年に徳川家光の命で造営され、1698年に徳川綱吉の命で大規模な修理が行われ、現在の漆塗りの極彩色になったようです。
屋根の大棟の上には内削ぎの千木と5本の鰹木が載っています。
男神の神社は「外削ぎの千木と奇数本の鰹木」、女神の神社は「内削ぎの千木と偶数本の鰹木」だと言われることがありますが、これは俗説。この俗説をもとに貫前神社本殿を見てみても、千木と鰹木の組み合わせがあべこべです。
なお、祭神は経津主神(ふつぬしのかみ:男神)と姫大神(詳細不明)で、どちらが主祭神なのか、あるいは序列はどちらが上なのかもわかっていません。
この本殿は建築様式としては入母屋に属するのですが、内部は神社本殿として異例の2階建てになっており、正面側の破風には「雷神小窓」という小さな正方形の窓が取り付けられている点が貫前造の特徴。
貫前造の社殿はこの貫前神社本殿の1棟だけしか例がなく、唯一無二の建築様式と言えます。
本殿の背面。
さすがに背面に窓はありませんが、こちらの破風も美麗な外観。
三間社なので、正面と背面は4本の柱で構成されており、柱間は3つ。平入の入母屋の三間社はたまに見かけますが、妻入の入母屋の三間社はなかなか見られません。
基本的に、平入よりも妻入のほうが間口が小さくなってしまうものなので、妻入の本殿でここまで大規模なものはめずらしいと言えるでしょう。
社殿の解説は以上。
「下り宮」「貫前造」という奇妙で特異な造りの神社となっていますが、やはり社殿は一宮にふさわしい風格と貫禄を持っており、すばらしいとしか言いようがありません。
非常に見ごたえがある上、寺社にあまり詳しくない人でも「おや?」と思わずにいられない個性的な境内ですので、万人におすすめできる神社です。
以上、貫前神社でした。
(訪問日2019/03/01)