甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【豊田市】平戸橋胸形神社

今回は愛知県豊田市の平戸橋胸形神社(ひらとばし むなかた-)について。

 

平戸橋胸形神社は豊田市北部の矢作川西岸の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。境内や社殿はそこまで古さを感じるものではないですが、独特な太鼓橋があったり、本殿では端正で造形の良い彫刻が見られたりと、小さいながらも見どころのある内容となっています。

社名についてはGoogle Mapには「胸形社(平戸橋胸形神社)」、本殿前の案内板(氏子総代の設置)には「平戸橋胸形神社」とあり、愛知県神社庁のページでも正式名称がわからなかったので「平戸橋胸形神社」を記事名に使用しています。

 

現地情報

所在地 〒470-0331愛知県豊田市平戸橋町波岩1(地図)
アクセス 平戸橋駅から徒歩10分
豊田勘八ICから車で5分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道

平戸橋胸形神社参道

平戸橋胸形神社の境内は南向き。すぐ脇を幹線道路が通っており、少々落ちつきのない雰囲気。

鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「胸形神社」。

 

平戸橋胸形神社太鼓橋

参道の右手にはこのような太鼓橋が池にかかっています。

前に立ってみると踏み板が壁のようにそそりたっていて、もし渡ろうとするなら「渡る」というより「登る」に近い運動を要求されそうな代物。とても渡る気にはなれません。

とはいえ、池が小さいため右からも左からも簡単に迂回でき、参道からも外れているため、わざわざこんな太鼓橋を渡る必要はありません。なぜ造った...?

 

拝殿(神楽殿)

平戸橋胸形神社拝殿

参道を進むと中央に拝殿があります。壁がなく吹き放ちで、神楽殿も兼ねていると思われる造り。

桟瓦葺の入母屋。2つの入母屋をT字に組み合わせた形式。

 

拝殿虹梁

正面中央には若葉が彫られた虹梁(こうりょう)があり、軒裏は一重のまばら垂木。写真上端に見切れている破風板(はふいた)には懸魚(げぎょ)が確認できます。

外観や出来はともかく、しっかり神社建築だとわかる造りです。

 

本殿

平戸橋胸形神社本殿

拝殿の裏には3棟の本殿が鎮座しています。写真右手前が胸形神社本殿。

鉄板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。造営年はおそらく明治以降。

案内板(氏子総代)によると祭神は宗像三神の1柱であるイチキシマヒメ(市杵島姫)。弁天と同一視され、当地は矢作川沿岸にあるので漁業と水運の神として信仰されていたとのこと。

 

本殿向拝

正面向拝の軒下。

中央、向拝中備えには竜の彫刻。左右の向拝柱は、正面側には唐獅子、側には象の木鼻がついています。

向拝柱は几帳面取り。柱上の組物は連三斗(つれみつど)と出三斗を組み合わせたもの。

 

本殿海老虹梁

左側面から見た向拝。

向拝柱と母屋柱は、大きく湾曲した海老虹梁でつながれています。海老虹梁の右上では波が彫刻された手挟(たばさみ)が軒裏の垂木を受けています。

 

本殿妻壁

左側面の妻壁。派手な彫刻や意匠で飾り立てられています。

 

本殿妻壁

反対側(右側面)。

下から、頭貫には六角形を3つ組み合わせた紋様、頭貫の木鼻は波の意匠。台輪には青海波の紋様。柱上の組物は皿斗(さらと)に波の意匠の肘木をあわせたもの、柱間には波と兎が彫られた蟇股(かえるまた)。妻虹梁の上には四角い大瓶束(たいへいづか)が立てられ、その両脇には雲状の笈形(おいがた)が添えられています。

兎の躍動感もさるものながら、その下の台輪と頭貫の紋様も印象的。

 

本殿縁側

縁側は切目縁(きれめえん)が3面にまわされています。欄干は跳高欄(はねこうらん)。床下は縁束。

縁側の終端には脇障子が立てられています。彫刻は牡丹に唐獅子。こちらの彫刻もなかなか凝っていますがぱっと見で構図が解りにくく、前述の兎とくらべるとしなやかさや躍動感に欠け、別人が彫ったもののように思えます。

 

本殿背面

背面。

さすがに腰羽目などはないので、こちらは特に目立った装飾はなくあっさりしています。

母屋柱は、床下も円柱に成形されていました。

 

境内社(摂社)

平戸橋胸形神社境内社

胸形神社本殿の両隣には境内社があります。

こちらは右隣にあるもの。鉄板葺の神明造。

神明造は向拝を設けないのが正式ですが、この境内社は角柱で向拝が設けられています。

 

写真右奥は矢作川。川岸の岩が浸食によって削られ、寝覚の床(長野県上松町)をスケールダウンしたような景観になっています。

 

平戸橋胸形神社境内社

こちらは平戸橋胸形神社本殿の左隣にある境内社。銅板葺の一間社流造、正面軒唐破風(のき からはふ)。

 

境内社妻壁

母屋の頭貫には唐獅子、組物は一手先で詰組があり、組物と組物のあいだには御幣の彫刻、妻虹梁の上の笈形は波の意匠。

 

境内社脇障子

脇障子には蘇鉄が彫られていました。

前述の胸形神社本殿とくらべると小規模かつ簡素ですが、決して手抜きではない造り。

 

以上、平戸橋胸形神社でした。

(訪問日2020/09/12)