今回は山梨県甲州市の雲峰寺(うんぽうじ)について。
雲峰寺は甲州市の山間に鎮座している臨済宗の寺院です。山号は裂石山。
創建は行基による開基と伝えられ、室町期には武田氏から寄進を受けていたようです。現在の伽藍は本堂と仁王門が武田信虎の時代のもの、庫裏と書院が江戸初期から中期のもので、いずれも国重文に指定されています。また、武田氏の家宝とされる風林火山の旗も保存されています。
現地情報
所在地 | 〒404-0022山梨県甲州市塩山上萩原2678(地図) |
アクセス | 勝沼ICから車で20分 |
駐車場 | 20台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり |
公式サイト | 裂石山 雲峰寺 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
仁王門
雲峰寺の境内は南向きで、正面側の参道は長い石段になっています。
参道の先には仁王門が鎮座。扁額は山号「裂石山」。
三間一戸、八脚門、入母屋、銅板葺。
室町後期の造営で、単体で国重文に指定されています。
柱上の組物はいずれも出三斗(でみつど)。頭貫には木鼻がつけられています。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。
壁板は縦方向に張られています。
内部にわたされた梁の上には蟇股(かえるまた)が置かれており、その内部(はらわたと言う)には雲と竜が彫刻されています。ここは室町後期(あるいは安土桃山時代)以降の作風です。
本堂
仁王門をすぎると、大型の本堂が現れます。
桁行5間・梁間5間、入母屋、向拝1間 軒唐破風付、檜皮葺。
こちらも仁王門と同様、室町後期の造営。国重文です。
本尊は十一面観音。
正面の向拝の軒下。2つの蟇股が上下に配置されています。
上の蟇股はくり抜かれていない古風なもので、武田菱ではなく花菱が彫られています。
下の蟇股はくり抜かれていて内部に彫刻があり、花(題材不明)が彫られています。
この本堂の最大の特徴は、正面の軒先を支える向拝柱に円柱が使われていること。
寺社建築における柱は「円柱>角柱」という格差があり、格上の空間である母屋には円柱を、格下の空間である向拝には角柱を使うのがセオリーです。しかしこの本堂はセオリーを無視しています。
このような例は甲信だと窪八幡神社本殿(山梨市)と大宮熱田神社本殿(松本市)くらいしかありません。
向拝柱には木鼻がつけられており、正面側は唐獅子、側面は象。造形はやや野暮ったさが否めませんが、室町後期は木鼻に動物が彫刻されるようになってから日が浅いので、造形が粗いのは致し方なしでしょう。
柱上の組物は出三斗と連三斗(つれみつど)を組み合わせたもの。木鼻の象の頭上には斗(ます)が乗っており、連三斗を受けています。
向拝(右)と母屋(左)は湾曲した海老虹梁(えびこうりょう)でつながれています。海老虹梁は表面に雲状の模様が彫られています。
海老虹梁の向拝側は木鼻の高さから出ています。向拝柱の上で軒裏を受けている手挟(たばさみ)は、彫刻や装飾のないシンプルかつ古風なもの。
軒裏は一重のまばら垂木。向拝部分だけ二軒になっています。
母屋の正面の扉は2つ折れの桟唐戸(さんからど)。その他の柱間は、壁板が縦方向に張られています。
縁側は壁面と直交に張られた切目縁が4面にまわされており、欄干はありません。
右側面。
母屋柱上の組物は出三斗。組物のあいだには間斗束(けんとづか)。頭貫の木鼻は雲状の意匠の拳鼻。
母屋柱の床下は、円柱に成形されていました。
左側面から見た屋根。
大棟は箱棟になっており、鬼板には花菱の紋。破風板の拝みからは懸魚。
暗くなって見づらいですが、入母屋破風の内部は格子になっていました。
本堂の裏手には国重文の書院(1716年の造営)があり、写真左手前の門が入口のようですが進入禁止の旨が書かれていたので、書院は遠目に屋根を眺めることしかできませんでした。
庫裏など
本堂の右手には庫裏があります。切妻、茅葺。
屋根はやや曲線的な形状をしており、破風ぎわの箕甲(みのこう)の茅の厚みが山の緑に映えます。
壁面は漆喰。妻壁には蟇股があり、花菱の紋にくり抜かれています。
江戸初期の造営で、こちらも単体で国重文となっています。
庫裏の手前には桜の大木。案内板(雲峰寺の設置)によると樹齢700年とのこと。
右奥に見えるコンクリート造りの建物は宝物館で、武田氏の家宝である日の丸の旗、孫氏の旗(風林火山)、諏訪大明神の旗などが収蔵されていて見学可能です。
なお、著名な風林火山の旗は後世の創作である説が濃厚なようです。
以上、雲峰寺でした。
(訪問日2020/05/24)