甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【松本市】旧開智学校

今回は長野県松本市の旧開智学校(きゅう かいちがっこう)について。

 

2019年5月17日、文化審議委員会の答申によって松本市の旧開智学校が国宝に指定されることとなりました。学校建築が国宝指定されるのは初。長野県内では10番目の国宝となりました(長野県の国宝の一覧)。

旧開智学校は洋風の学校建築なので当ブログの趣旨とは少しずれますが、この建物は左官や宮大工の手で造られたためか、各所の意匠には寺院・神社建築の要素も散見されます。なので、当記事では寺社建築との関連性を意識しながら旧開智学校を紹介して行きます。

 

現地情報

所在地 〒390-0876長野県松本市開智2-4-12(地図)
アクセス 松本駅から徒歩20分
松本ICから車で15分
駐車場 40台(無料)
営業時間 09:00-17:00(入館は最終16:30まで)
入場料 300円
公式 旧開智学校
所要時間 60分程度

  

外観

f:id:hineriman:20190725100456j:plain

旧開智学校を斜め前方から見た図。

柵の外から建物を眺めるだけならいちおう無料です。

 

f:id:hineriman:20200522123848j:plain

旧開智学校の全体図(画像はwikipediaより引用)。

場内からは全体図がうまく撮れませんでした...

まず建物のつくりは、桟瓦葺(さんがわらぶき)の寄棟(よせむね)、二階建て。中央には尖塔があり、正面はバルコニー(ポーチ)と庇が1間。壁は漆喰(しっくい)とのこと。

建物のジャンルとしては、学校建築と洋風建築に分類されます。

 

擬洋風建築(ぎようふうけんちく)とは

擬洋風建築は明治時代初期に日本の大工棟梁や左官によって「洋風建築をまねてデザインした建築」のことを言います。つまり、擬洋風建築は日本建築です。

あくまでも見た目をまねただけなので、パッと見は洋風ですが細かいところに日本風(あるいは中国風)なところがあり、和洋中が独特のバランスで入り混じっているところが擬洋風建築のおもしろさと言えるでしょう。

 

この旧開智学校は擬洋風建築の代表ともいえる建物で、観察していると各所に和の要素を見つけることができます。

まず、屋根は桟瓦葺ですが、そもそも桟瓦(さんがわら)は江戸中期に日本で発明されたものなので、洋風建築の屋根葺きとしては有りえないです。

f:id:hineriman:20190725100808j:plain
次に注目してもらいたいのは2階の屋根から突き出た庇(ひさし)の破風(はふ)。「校学智開」と書かれたプレートが付いている部分です。ここは、擬洋風建築としての特徴が非常に色濃く現れている個所です。

寺社建築が好きな方なら、この弓のようなカーブを見てピンと来るのではないでしょうか...?

これは、紛れもなく唐破風(からはふ)です。

唐破風というのは寺院や神社の正面側に付ける装飾で、“唐”とは言いますが日本で生まれたものです。当然のことながら、本来の洋風建築にこのような意匠は使われません

 

ほか、ポーチの壁にある雲の彫刻や、その下にある竜の彫刻も、日本風あるいは中国風な趣です。

 

室内

では、校舎の中に入ってみましょう。

内部は原則として撮影OKとなっております。ただし、フラッシュの使用と、展示資料の撮影はNGです。

f:id:hineriman:20190725122036j:plain

写真は、2階の廊下。1階・2階ともに部屋数が多く、その全ての部屋にさまざまな資料が展示されています。開智学校が国宝に指定されたのも、この辺の資料が多数残っていたからだとのこと。

この写真で注目してほしいのは、左右の端に写っている両開きの扉。これは桟唐戸(さんからど)というもので、主に寺院建築に使われるものです。ここにも日本建築の特徴を見て取ることができます。

 

f:id:hineriman:20190725122108j:plain

2階の広間。ステンドグラスやシャンデリアがついており、ここは洋風の要素が多い空間になっています。

順路のとおりに行くと、ここが最後かつ最大の見どころといったところでしょうか。

 

室内の解説についてはだいぶ粗い内容になりましたが、展示資料は見ごたえのあるものばかりで、同行していた父と談義しあいながら全てに目を通してみたところ1時間半くらい楽しめました。この充実ぶりを考えると、入場料300円というのは非常に良心的だと思います。

 

真面目な解説はここまで。以下は裏の見どころについて。

 

裏の見どころ

f:id:hineriman:20190725122124j:plain

個人的に気になったのがこちらのトマソン・高所ドア。国宝のトマソンって、なんかすごいと思いませんか?

もともとは写真左奥のほうへ通路があったようですが、改築によって無用の長物になってしまったとのこと。このドアがどんな風に使われていたかは、ちゃんと写真も展示されているので、気になる人は現地へ赴いてみてください。

 

f:id:hineriman:20190725122157j:plain

最後に、こちらは1階の廊下の途中。

外観の項で述べた唐破風の部分にある、「校学智開」のプレートのレプリカです。記念撮影にどうぞ、とのこと。

プレートの両脇にいるのは天使(キューピット?)ですが、羽が茶色いし、なんだか少々おっさんくさいというか...

どういうわけか旧開智学校はこの天使をマスコットとして推したいようで、売店ではステッカーが販売されていました。どれだけ売れているのかは謎。でも、Lineスタンプとかにしたら案外売れなくもないと思えるのは私だけでしょうか...?

 

解説は以上になります。

一見すると洋風な建物ではありますが、各所に日本風の意匠があり、寺社建築の知識が応用できる点が面白かったです。建築の鑑賞が趣味ならば、松本城とともに必見の内容と言えるでしょう。

また、展示資料も質・量ともに素晴らしく、博物館としても抜群の見ごたえがあり、この点でもお勧めです。

 

以上、旧開智学校でした。

(訪問日2019/07/20)