甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【東近江市】大濱神社

今回は滋賀県東近江市の大濱神社(おおはま-)について。

 

大濱神社(大浜神社)は伊庭地区の集落に鎮座しています。

創建は不明。1471年の本殿造営の棟札が残されていることから、遅くとも室町中期には確立されていたと考えられます。室町時代には伊庭氏の崇敬を受け、安土桃山時代は安土城の鬼門に当社があったため、織田氏の崇敬を受けました。当初は古天王という場所にあったようですが、1594年(文禄三年)に現在地へ移転しました。江戸時代も、歴代の領主の庇護を受け隆盛しました。明治時代までは牛頭天王社と呼ばれましたが、1871年に現在の社号に改められています。

現在の境内は近世以降のものと思われますが、幣殿や本殿は桧皮葺で造られています。境内西側にある仁王堂は鎌倉時代の建築と考えられ、県の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒521-1235滋賀県東近江市伊庭町1890(地図)
アクセス 能登川駅から徒歩25分
八日市ICから車で20分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

鳥居と愛宕神社

大濱神社の境内は南西向き。入口は集落内の水路に面した場所にあります。

右の社号標は「大濱神社」。

参道には石造明神鳥居がかかり、扁額は「大濱神社」。

 

入口向かって左には、境内社の愛宕神社。

石造明神鳥居が立ち、扁額には「愛宕神社」とあります。

 

愛宕神社本殿には、覆い屋がかかっています。

覆い屋の柱は面取り角柱で、正面中央の柱間には虹梁が使われています。

虹梁の両端には雲状の木鼻がつき、中備えは蟇股があります。

 

愛宕神社本殿は、一間社流造、檜皮葺。

虹梁中備えは鶴の彫刻。向拝柱には唐獅子と獏の木鼻がついています。

 

右側面。

母屋柱は円柱。母屋上部の欄間には雲の彫刻。

組物は二手先。柱間にも詰組が置かれています。

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は雲の意匠です。

 

拝殿

鳥居と参道の先には拝殿があります。

入母屋(妻入)、鉄板葺。

柱間は4面すべて吹き放ちで、神楽殿のような構造。滋賀県やその周辺でよく見られる造りです。

 

柱は面取り角柱で、正面側面ともに3間。

柱間に建具はありませんが、蔀を吊るすような金具が軒裏から下がっています。

 

右側面から内部を見た図。

内部は二重の折上げ小組格天井です。

 

背面。

縁側には欄干が立てられ、正面と背面には階段と昇高欄がついています。

 

入母屋破風には木連格子が張られています。

拝みには蕪懸魚が下がり、左右のひれは雲状の衣装です。

 

幣殿

拝殿の先には幣殿があります。

中央部は、切妻、向拝1間 向唐破風。左右は、外側入母屋、内側切妻。総檜皮葺。

 

中央の向拝部分の柱は円柱が使われています。

正面と側面に拳鼻がつき、柱上は舟肘木です。

 

虹梁中備え(写真下側)は蟇股。その上には笈形付き大瓶束が立てられています。

破風板に下がる兎毛通は、鰭のついた蕪懸魚。

 

向かって右側の小屋。

屋根の外側の端は入母屋になっており、妻面に木連格子が張られています。

 

母屋柱は角柱。

中備えや木鼻など、装飾的な意匠はありません。

 

本殿と境内社

幣殿の後方には本殿がありますが、保護のため妻面に板が立てられています。

本殿は、桁行3間・梁間2間?、切妻、向拝1間、檜皮葺。

 

滋賀県内でよく見られる大型の流造本殿*1ではなく、切妻屋根の正面に1間ぶんの幅の向拝をつけた構造となっています。

 

詳細の観察はむずかしいですが、向拝1間、母屋正面(桁行)は3間であることがわかります。

母屋の中央には板戸が設けられ、左右の柱間の羽目板には鳳凰を題材にした彫刻が入っています。

 

本殿向かって右側には末社が並んでいます。

 

本殿右側には道祖神社。

一間社流造、桟瓦葺。

 

仁王堂

本殿向かって右、境内西側の区画には仁王堂があります。

桁行5間・梁間5間、入母屋、茅葺。

鎌倉時代の造営(推定)。案内板*2によると、もとは正面に1間の向拝があったらしく、移築や大幅な改造を経ていますが、“当初の柱、組物、天井桁など主要部材を良く残して”いるとのこと。

「大浜神社仁王堂」の名称で県指定有形文化財。

 

正面中央の柱間。柱はいずれも円柱で、これは当初からの材のようです。

組物は舟肘木。ただし、ふつうの舟肘木(柱上に乗せて設置される)とちがって、柱を貫通するように設置されています。

 

滋賀県内の寺社建築は京風の端正なものが多いですが、この仁王堂は野趣に富み素朴で力強い雰囲気の建築だと思います。

 

正面向かって右側の2間。

柱間は貫で連結され、長押は使われていません。貫はいつの時代の改変かわかりませんが、少なくとも鎌倉以降のものと推定できます。

内部には低い床が張られ、周囲に縁側はありません。

 

右側面。

後方には壁が張られています。

 

内部の中心部の柱間には、虹梁が使われています。

上を見上げると、天井がないため小屋組が見え、化粧屋根裏となっています。

 

入母屋破風は板でふさがれています。

破風板の拝みには小ぶりな蕪懸魚。

 

以上、大濱神社でした。

(訪問日2024/02/17)

*1:苗村神社西本殿(竜王町)、園城寺新羅善神堂(大津市)が代表的

*2:滋賀県教育委員会による設置