甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【弘前市】稲荷神社(和徳町)

今回は青森県弘前市和徳町(わとくまち/わっとくまち)の稲荷神社(いなり-)について。

 

稲荷神社は奥羽本線沿線の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。当社境内は、南部氏の庶流である安倍氏が弘和年間(1381-1384)に築城したとされる「和徳城」に比定されています。戦国時代の和徳城は小山内氏の居城で、津軽為信によって滅ぼされたとのこと。江戸初期に廃城となったのちの沿革は不明。

現在の境内社殿は、おそらく江戸後期以降のもの。境内には城のなごりと思しき土塁の跡があるほか、「けの汁」という郷土料理の発祥地とされています。

 

現地情報

所在地 〒036-8021青森県弘前市和徳町210-3(地図)
アクセス 弘前駅または撫牛子駅から徒歩25分
大鰐弘前ICまたは黒石ICから車で20分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道

稲荷神社の境内は南東向き。

入口には木造の両部鳥居が、東向きに立っています。扁額は「稲荷神社」。

 

二の鳥居および三の鳥居も木造の両部鳥居。

 

拝殿は切妻(妻入)、銅板葺。

庇の上の扁額は「稲荷神社」。

 

稲荷神社本殿

拝殿の後方には、石塀に囲われた本殿があります。

一間社流造、鉄板葺。

祭神は不明。稲荷なので、ウカノミタマなどが祀られていると思われます。

 

向拝柱は面取り角柱。面幅がやや大きめ。

柱間には虹梁がなく、したがって中備えの意匠もありません。

柱上は大斗と実肘木。

海老虹梁は向拝柱の上から出て、母屋柱の高い位置に取り付いています。

 

母屋柱は角柱。

妻飾りは虹梁と角柱の束。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

母屋の前面には板戸が設けられ、その上の中備えはシンプルな蟇股。

 

背面。

縁側は背面をのぞく3面にまわされ、欄干はついていません。縁側の背面側には脇障子が立てられています。

 

本殿の後方には、城のなごりを思わせる盛り土(?)があります。

この盛り土の向こうは公園になっています。

 

金刀比羅社

拝殿向かって左(西)には、金刀比羅社が鎮座しています。

鳥居は木造の両部鳥居。

拝殿は切妻(妻入)、鉄板葺。

 

拝殿のとなりには“和徳城がけの汁発祥の地であることを宣言する”という案内板*1がありました。

「けの汁」は津軽地方の郷土料理。根菜を昆布出汁で煮て作る精進料理の一種です。よく似た料理のけんちん汁*2は全国区で有名だと思いますが、「けの汁」は初めて知りました。

 

金刀比羅社本殿は、一間社流造、鉄板葺。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。柱上は出三斗。

こちらの本殿は虹梁があります。中備えは蟇股。

虹梁の木鼻は唐獅子の彫刻。

 

母屋柱は円柱。

頭貫には木鼻がついています。

組物は出三斗。中備えは蟇股。

妻飾りは大瓶束。

破風板の拝みには蕪懸魚。桁隠しには雲状の意匠がついていますが、一部欠損しています。

 

その他の境内社

ほかにも境内にはいくつか末社があります。

こちらは参道右手の薬師社。

入母屋(妻入)、銅板葺。

 

名称不明の境内社。

一間社流造、銅板葺。

 

以上、稲荷神社でした。

(訪問日2022/04/09)

*1:「平成十七年六月九日 和徳歴史探偵団」の設置

*2:鎌倉の建長寺が由来という説がある