甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【鎌倉市】妙本寺

今回は神奈川県鎌倉市の妙本寺(みょうほんじ)について。

 

妙本寺は市街地東部の山際の比企谷(ひきがやつ)に鎮座する日蓮宗の霊跡本山です。山号は長興山。

比企氏の屋敷跡に建立された新釈迦堂が、当寺の前身にあたります。妙本寺が開かれたのは1260年(文応元年)で、比企能員の遺児が菩提寺として開基しました。寺伝によると、比企能員とその夫人の法号から「長興山妙本寺」と名づけられたとのこと。その後は、池上本門寺(東京都大田区)とともに日蓮宗の布教拠点として江戸時代末期まで隆盛しました。

境内は市街地に面していながら幽玄な趣。現在の伽藍は江戸後期から昭和にかけてのもので、大規模な本堂が市指定有形文化財となっています。境内には政争で滅ぼされた比企氏の供養塔があるほか、前田利家の側室の供養塔とされる巨大な石塔があります。

 

現地情報

所在地 〒248-0007神奈川県鎌倉市大町1-15-1(地図)
アクセス 鎌倉駅から徒歩10分
朝比奈ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト 妙本寺
所要時間 30分程度

 

境内

総門

妙本寺の境内は西向き。入口は住宅地に面しています。

右奥に見える仏堂風の建物は、幼稚園の園舎。

 

入口に立つ総門は、一間一戸、四脚門、切妻、瓦棒銅板葺。

1925年再建。

 

正面の軒下。内部の扁額は「妙本寺」。

頭貫と台輪の上の中備えは、木鼻付きの平三斗が2つ。

 

柱はいずれも円柱。上端が絞られています(粽柱)。

柱上の組物は出三斗。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

 

右側面(南面)。

中央の主柱は棟木の近くまで貫通した構造になっています。主柱の上では平三斗が棟木を受けています。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。桁隠しはありません。

 

方丈門と本堂

総門をくぐると参道が二手に分かれていて、左手には方丈門があります。

方丈門は、冠木門と高麗門を組み合わせたような構造。

すぐ近くにある本覚寺にも似た形式の門がありました。

 

方丈門をくぐって階段を昇ると、参道左手に本堂があります。

入母屋、向拝1間 向唐破風、瓦棒銅板葺。

 

向拝。

板蟇股、笈形付き大瓶束、懸魚などの意匠が使われています。

 

二天門

本堂の前を通り過ぎると、石段の先に二天門があります。

三間一戸、八脚門、切妻、瓦棒銅板葺。

天保年間(1830~1844年)の造営。

 

正面中央の柱間。

虹梁の上の欄間には、彩色された彫刻が入っています。

 

彫刻の題材は、波間を飛ぶ怪鳥。

非常に凝った造形の力作です。

 

柱は円柱。正面には唐獅子、側面には象の木鼻。

柱上の組物は出組。

台輪の上の中備えは蟇股。

 

妻飾りは二重虹梁で、笈形付き大瓶束が棟木を受けています。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

 

背面。

軒下の意匠は同じですが、欄間の彫刻が省略されています。

 

屋根は瓦棒銅板葺。

大棟の前面には、源氏の紋である笹竜胆が描かれています。

 

祖師堂

境内の奥には大きな祖師堂が鎮座しています。

桁行正面5間・背面6間・梁間6間、入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

二天門と同様に、天保年間の造営。

 

向拝は1間。

虹梁の上の中備えは、竜の彫刻。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面は唐獅子、側面は象の木鼻。

柱上の組物は出三斗を発展させたもので、虹梁の上の組物と肘木を共有しています。

虹梁の下端に添えられた持ち送りは、菊の花の籠彫り。

 

向拝柱の上の手挟にも、菊の彫刻が入っています。

海老虹梁は、向拝側には菊の意匠の持ち送り、母屋側には唐獅子の彫刻の持ち送りが添えられています。

 

母屋前面の中央部。

虹梁の上には短い大瓶束が立てられています。

柱と台輪の上の組物は、禅宗様の尾垂木三手先。柱間にもびっしりと組物が配されています。

 

母屋柱は上端が絞られた円柱。頭貫と台輪に禅宗様木鼻がついています。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

母屋は前面の1間通りが吹き放ちの外陣となっています。

内陣の前面には蔀戸が立てられ、内陣外陣を隔てています。

 

外陣の柱間には虹梁が渡され、大瓶束が立てられています。

写真下(奥)の梁は低い場所を通るため大瓶束が長く、上(手前)の梁は高い場所を通るため大瓶束が短くなっています。

 

左側面(北面)

側面は6間。前方の1間は吹き放ちの外陣、後方の5間は蔀と桟唐戸が立てつけられています。

組物などの意匠は正面と同様で、詰組になっています。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

 

背面は6間。

閼伽棚のような突出部が左右各1つあります。

 

その他の伽藍

本堂の手前、向かって右には手水舎。

切妻、桟瓦葺。

 

柱は内転びのついた几帳面取り角柱。

台輪と頭貫には禅宗様木鼻。

 

妻虹梁の上の妻飾りは、笈形とも蟇股ともつかない微妙な意匠。

破風板の拝みには鳳凰らしき鳥の彫刻。

 

境内の南側には多数の供養塔が並びます。

写真中央の大きな石造五輪塔は、前田利家の側室で、加賀藩2代藩主・前田利常の母である千代保の方の供養塔とのこと。

奥に見えるのは、比企能員をはじめとする比企一族の供養塔のようです。

 

以上、妙本寺でした。

(訪問日2022/09/28)