今回は長野県長野市の長谷寺(はせでら)について。
長谷寺は市の南西部の丘陵に鎮座する真言宗智山派の寺院です。山号は金峯山。通称は信濃長谷寺。
創建は34代・舒明天皇の時代とされます。伝承によれば、天皇家から当地へ流罪となった一族が、善光寺如来の霊験を受けて大和国の長谷寺(奈良県桜井市)から勧請したのが始まりとのこと。
記録上、奈良時代には確立されていたことが判っており、県内でも屈指の古刹です。平安期の『延喜式』には境内社の長谷神社が記載され、式内社に列しています。鎌倉期には幕府の命で再興され、江戸期には幕府から寄進を受けています。
境内は姨捨山に程近い高台にあり、善光寺平を見下ろせます。伽藍は江戸後期あたりの派手な楼門と、善光寺を意識したと思われる観音堂を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒388-8014長野県長野市篠ノ井塩崎878(地図) |
アクセス | 稲荷山駅から徒歩20分 更埴ICから車で15分 |
駐車場 | 20台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | 金峯山長谷寺 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
鐘楼門
長谷寺の境内は東向き。駐車場から境内へ進むと、階段の先に鐘楼門が鎮座しています。
駐車場の下には仁王門もあったようですが、時間的な都合と単にそこまで下るのが億劫だったので割愛。
鐘楼門の様式は、三間三戸、楼門、入母屋、銅板葺。
造営年不明。江戸後期から明治期のものと思われます。
下層。
柱はいずれも角柱。中央の柱間がかなり広く取られています。
左右の柱間に仁王像などはなく、3間あるうちのすべての間口が通行可能。よって三間三戸。
柱の面取りは几帳面取り。柱上の組物は出三斗で、腕木を伸ばして上層の縁の下を受けています。
欄間には彫刻が入っており、波や竜が題材。
下層向かって右の欄間と木鼻。
写真右の木鼻は拳鼻をアレンジしたもので、ふちと繰型が浮き彫りになっているのがユニーク。斬新な意匠だと思います。
右側面。
中央の柱の上の組物は、連三斗を拡張して左右対称にしたもの。
内部中央の通路。こちらも欄間彫刻があります。
内部には板の天井が張られています。おそらく踏み天井。
上層。柱はいずれも円柱。内部には梵鐘が吊るされています。
下層と同じく柱間に彫刻がありますが、こちらは虹梁の形をしていて控えめな彫刻です。題材は菊。
木鼻は象鼻で、下層と同様に繰型を浮き彫りにしたおもしろい意匠。
大棟鬼板の紋は五三の桐。入母屋破風の拝みには鶴の彫刻が下がっています。
軒裏は二軒繁垂木。
観音堂
鐘楼門をくぐると、石垣の上に鎮座する観音堂が現れます。
入母屋(妻入)、左右千鳥破風付、正面軒唐破風付。
造営年不明。本尊は十一面観音。
左側面(南面)。
左右の側面後方には千鳥破風が設けられており、単純な入母屋ではないことがわかります。妻入の屋根で前後に長い平面だからか、撞木造(善光寺本堂の建築様式)を意識した造りに見えます。
正面中央の軒下。
向拝はなく、軒の唐破風の下に扁額が掲げられています。扁額は「長谷寺」。
柱は円柱で、上端が絞られています。
右側面(北面)。
軸部は頭貫と長押で固定され、長押は六角形の釘隠しで飾られています。
柱上には台輪がまわされ、台輪と頭貫に禅宗様木鼻がついています。
組物は出組で、持ち出された桁の下には軒支輪。中備えは蟇股。
境内社
観音堂の手前には境内社の山口社。
一間社流造、銅板葺。
江戸後期以降の作と思われます。祭神不明。
向拝中備えは竜の彫刻。
向拝柱の木鼻は正面が唐獅子、側面が獏あるいは象。
海老虹梁と手挟も立体的に彫刻されています。
海老虹梁がかなり高い場所を通っているせいか、手挟との距離が近く、ほとんど一体化しています。
側面には題材不明の人物像。
縁側の脇障子にも彫刻。
組物は出組。
妻飾りは束ではなく、唐獅子の彫刻が配されています。風雨の当たりにくい場所だからか、比較的良い状態が保たれています。
破風板の拝みの懸魚にも彫刻。題材は松。
観音堂の左奥には境内社の長谷神社上社。
平安時代の延喜式神名帳に記載された由緒正しい古社のようですが、この拝殿らしき建物しかない様子。奥のほうを見ても本殿らしいものは見つからず。
本堂
鐘楼門と観音堂の右手には本堂があります。
本堂の手前には、南面する薬医門。
一間一戸、薬医門、切妻、銅板葺。
側面。
この門も欄間などに派手な彫刻がついていますが、装飾の類を取り払えばふつうの薬医門です。
欄間の彫刻は波や鶴。破風板の拝み懸魚は、意外にも通常の蕪懸魚でした。
本堂は寄棟、鉄板葺(?)。
屋根の素材は鉄板と思われますが、本瓦葺のような形状をしています。
壁面の上半分はしっくい塗りの壁で、なぜか透かし彫りの欄間がついています。
本堂隣の玄関の唐破風。
唐獅子の木鼻や、菊が彫られた中備えの蟇股、妻飾りは波に亀と、非常に派手な軒下になっています。
なお、玄関内部は工事で取り込み中の様子だったため、この唐破風部分だけ撮って退散と相成りました。
以上、長谷寺でした。
(訪問日2021/04/30)