今回は滋賀県東近江市五個荘町(ごかしょうちょう)の弘誓寺(ぐぜいじ)について。
弘誓寺は近江商人の町・金堂地区に鎮座する浄土真宗大谷派の寺院です。山号は金龍山。
近江七弘誓寺のひとつで、市内をはじめ近隣に同名の寺院が複数存在します。
創建は1290年(正応三年)とされ、那須与一の嫡子・愚拙が犬上郡石畑に開基したのが始まりとのこと。何度かの移転を経て、1581年に現在地に鎮座することとなったようです。
現在の境内伽藍は江戸中期以降に造られたもので、周辺の近江商人の町とともに情緒ある町並みが保存されています。とくに本堂はきわめて大規模なもので、国重文に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒529-1405滋賀県東近江市五個荘金堂町615(地図) |
アクセス | 五箇荘駅から徒歩30分 八日市ICから車で20分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
山門
弘誓寺の境内は南東向き。整備された街並みの一角に面し、山門前の水路にはコイが泳いでいます。
山門は一間一戸、薬医門、入母屋、本瓦葺。
江戸後期の造営とのこと。
前方の主柱(写真中央)は円柱、後方の控柱(左)は几帳面取りの角柱。
主柱と控柱には男梁がわたされています。主柱からは女梁が出て、前方へ突き出た男梁を持ち送りしています。また、主柱の腰に獏の木鼻がつき、巻斗を介して女梁を持ち送りしています。
門扉は縦板のものが使われています。
主柱・控柱ともに下端が絞られ、白い石材(大谷石?)の台盤のうえに立てられています。
男梁によって水引虹梁が持ち出され、水引虹梁の上には蟇股や出三斗が配置されています。
彫刻の題材は梅など。
薬医門ですが内部に天井があり、非常に凝った意匠になっています。
組物は出三斗。手挟がついています。中備えの欄間にも彫刻がありますが題材不明。
折り上げ格天井の格子部分は、板目の向きが縦横交互に並べられ市松模様のようなレイアウトになっています。
背面向かって左の控柱。上端はわずかに絞られています。
柱の腰には唐獅子の木鼻がつき、巻斗を介して水引虹梁を持ち送りしています。
柱の上部、水引虹梁の高さには、菊を題材にした木鼻。
柱上の組物は出三斗。
左側面。
鐘楼
山門をくぐって左手には鐘楼。
入母屋、本瓦葺。
柱は円柱で、わずかに内転びがつけられています。
柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様の木鼻が設けられています。
頭貫の下にも欄間彫刻があり、題材は花鳥。
台輪の上には平三斗と蟇股が配置され、蟇股彫刻は梅などの花と思しき題材。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
大棟の鬼瓦は独特なシルエット。あまり見かけない扇の紋が描かれていますが、これは那須与一の逸話(平家物語)にちなんだものらしいです。
本堂
境内中央には巨大な本堂が堂々と鎮座しています。
桁行5間・梁間5間、入母屋、向拝3間、本瓦葺。
1764年(宝暦十四年)造営。国指定重要文化財。
棟梁は高木作右衛門で、彼の一族は東寺五重塔(京都市)の造営に携わったとのこと。
正面の向拝は3間。中央の柱間がすこし広く取られています。
向拝柱は几帳面取り。上端がわずかに絞られています。
柱上の組物は出三斗および平三斗。組物の巻斗は、実肘木を介して桁を受けています。
側面には獏の木鼻が設けられ、連三斗を持ち送りしています。
中備えは蟇股。蟇股のはらわたは梅と思しき花の彫刻。
出三斗と軒裏のあいだには手挟。菊の花が彫られています。
向拝柱と母屋をつなぐ懸架材はありません。
向拝以外の柱はいずれも円柱。
母屋の周囲1間は吹き放ちの庇(外陣?)になっており、とくに正面中央は柱間がとばされて一層に開放的な印象。
母屋正面には二つ折れの桟唐戸。
柱は上端が絞られています。
奥の母屋は柱上に出組が置かれ、中備えは蟇股。蟇股のはらわたは、鳥獣が題材でした。
柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様木鼻がついています。
庇の柱と母屋柱のあいだには、緩やかにカーブした海老虹梁が渡されています。
向かって右の側面。
こちらも海老虹梁が使われています。
縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。
母屋や庇部分と較べて、縁側(濡れ縁)は一段低くなっています。
縁の下は円柱の縁束で支えられています。縁束の基部は台盤。
母屋の基部は亀腹になっています。
向かって左の側面。
縁側の後方には脇障子が立てられています。
後方にはしっくいで白く塗られた後堂がついており、文化遺産オンラインによればこちらも本堂の一部というあつかいの模様。
境外から見た破風。
破風板の拝みには鰭付きの三つ花懸魚。
大棟鬼瓦の紋は菊で、鳥衾には三つ巴があしらわれていました。
以上、弘誓寺(五個荘町)でした。
(訪問日2021/03/13)