甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【草津市】老杉神社

今回は滋賀県草津市の老杉神社(おいすぎ-)について。

 

老杉神社は市郊外の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によれば704年の草創とのこと。1452年には近江国守護・佐々木氏の家臣である下笠高賀によって本殿が造営され、これが現在の本殿です。室町幕府将軍・足利義高の参拝も受けたとのこと。

本殿は前述のとおり室町期のもので、国重文に指定されています。三間社流造というありきたりな様式ですが、構造や彩色に特徴があります。

 

現地情報

所在地 〒525-0029滋賀県草津市下笠町1194(地図)
アクセス 草津駅から徒歩50分
栗東ICから車で20分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

四脚門

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老杉神社の境内は南向き。入口は集落の生活道路に面しています。

鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「老杉神社」。

右の社号標は「邨社 老杉神社」。

 

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鳥居の先には四脚門。

一間一戸、四脚門、切妻、桟瓦葺。

 

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柱はいずれも角柱。

柱間には無地の梁がわたされています。梁の上では菊の紋が彫られた蟇股が棟木を受けています。

 

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内部の蟇股。

写真中央は織田木瓜に似た五弁の花の紋、奥のほうは梅鉢のような紋(中央が五角ではなく丸になっているため梅鉢ではない)。

 

四脚門の先には拝殿がありますが、工事中だったため割愛。

様式は切妻(妻入)、檜皮葺でした。

 

中門と透かし塀

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拝殿の後方には中門と透かし塀に囲われた本殿が鎮座しています。

中門は一間一戸、唐門(妻入)、檜皮葺。

透かし塀は桟瓦葺。斜めの吹寄せ格子が使われています。

 

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中門の柱は円柱。木鼻は正面側面ともに拳鼻。

見づらいですが蟇股には沢瀉と下り藤を組み合わせた紋が彫られていました。

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形はつる草のような意匠。

 

本殿

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本殿は桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、檜皮葺。

棟木の墨書より1452年(宝徳四年)建立国指定重要文化財

祭神はスサノオ、稲田姫、八王子神。

 

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向拝は3間。

向拝柱は角面取りで、室町の中頃のものなので面幅がやや大きめに取られています。

中備えは蟇股。はらわたは雲や波が題材で、全体が極彩色に塗装されています。また、写真奥の母屋の柱間にも極彩色の彫刻が見えます。

このような派手に彩色された寺社彫刻が普及するのは安土桃山時代なので、この本殿は時代を先取りした先進的な作風と言えるでしょう。

 

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右側面(東面)。

母屋の側面(梁間)は2間なのですが、妻虹梁は後方(写真右)の1間にだけわたされています。妻飾りは豕扠首。前方の1間は庇の外陣のようです。

ほかの本殿では見かけない風変わりな構造。滋賀県内にある鎌倉~室町の本殿は、たいてい母屋側面を3間にして後方の2間に妻虹梁をわたします。

 

母屋柱はいずれも円柱。

柱上には舟肘木が置かれ、桁を直接受けています。ここは時代のわりに古風です。

前方の柱間には少し低い位置に長押が打たれ、長押には緑色のツタの彫刻がついています。これもあまり見かけない装飾です。

 

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縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面は脇障子でふさがれています。縁束は円柱が使われ、四角い礎石に立てられています。

 

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背面。三間社なのでこちらも柱間3間。

樹木の影になって見づらいですが、柱間の貫の上には中備えはありません。

母屋柱は床下も円柱に成形されています。

 

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破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

母屋の構造が独特なせいか、懸魚の間隔が狭く感じます。

 

滋賀県内の流造本殿は端正で行儀の良い(悪く言うと型にはまって個性に欠ける)造りをしたものが多いですが、この本殿はその対極で、独創的かつ先進的で自由な造りをしていると思います。

 

以上、老杉神社でした。

(訪問日2021/03/12)