今回は山梨県笛吹市の賀茂春日神社(かも かすが-)について。
賀茂春日神社は石和温泉の東の住宅地に鎮座しています。
創建は賀茂社が欽明天皇(西暦500年頃)、春日神社が文武天皇(西暦700年頃)の時代とのこと。甲州市の神部神社とともに『延喜式』に記載のある「神部神社」に比定される論社です。
もとは2社が並立していたようですが、1517年(永正十四年)の洪水で社殿を流失し、再建後1棟の本殿に合祀されています。現在の本殿は江戸中期のもので、比較的大規模な三間社です。
現地情報
所在地 | 〒406-0004山梨県笛吹市春日居町小松17(地図) |
アクセス | 春日居町駅から徒歩10分 一宮御坂ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道
賀茂春日神社の境内は南向き。
正面入口は入組んだ住宅地の生活道路に面しており、ちょっと道に迷って裏口から入ることになりました。
鳥居は木造の両部鳥居。稚児柱の屋根を、主柱が屋根を突き破っています。扁額はありません。
右の社号標は「郷社賀茂春日神社」。
参道の左手には手水舎。切妻、鉄板葺。
屋根の両端(ケラバ)の幅が妙に長くとられているのが印象的。
拝殿
拝殿は入母屋(平入)、銅板葺。
案内板(設置者不明)によると、田安徳川家の代官・磯部寛五郎によって1862年に再建されたとのこと。
向拝はなく、柱はいずれも角柱。
中央の間口には虹梁がわたされ、唐草が彫られています。扁額は「賀茂春日神社」。
妻は平三斗で妻虹梁が受けられ、妻虹梁の上には大瓶束。
妻壁は漆喰で塗られ、破風板には懸魚もなく、あっさりした外観。
本殿
拝殿の後方には塀で囲われた本殿が鎮座しています。
桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝1間、銅板葺。
案内板*1によると1701年(元禄十四年)の再建。もとは檜皮葺で、1934年に銅板葺になったとのこと。
祭神は賀茂別雷命、玉依姫、神武天皇、春日神(天児屋命、経津主神、タケミカヅチ)の6柱。
案内板いわく“山梨県内に数少ない三間社流造の建築として貴重”だそうですが、そもそも三間社流造はありきたりな様式なので、とりたてて貴重というほどではないと思います。
三間社ですが向拝は1間。
向拝柱は角面取り。側面に唐獅子の木鼻がついています。
虹梁中備えには3つの蟇股があり、蟇股のあいだには平三斗が置かれています。
向拝柱の組物は連三斗。
海老虹梁は母屋の頭貫の上から出て、向拝柱の組物の高さに降りています。軒裏すれすれの高さを通っており、スペースがないからか手挟が省略されています。
母屋の正面には3組の板戸が立てつけられています。
母屋柱は円柱。長押と頭貫で固定されています。頭貫木鼻は拳鼻。
組物は木鼻のついた出組。中備えは蟇股で、はらわたの彫刻は植物のツルなどが題材と思われます。
持ち出された虹梁は唐草が描かれていますが、経年で薄れています。虹梁の下は軒支輪。
妻壁は笈形付き大瓶束。
拝みには三花懸魚、桁隠しは蕪懸魚。
縁側は切目縁が3面にまわされています。欄干は擬宝珠付き。背面は脇障子でふさがれています。
縁の下には縁束や腰組がなく、腰貫だけで支えられています。とくに問題はないと思いますが、強度的に心配になってしまう構造です。
背面。軒下の意匠は側面と同様。
母屋柱の床下は八角柱になっていました。
大棟は箱棟になっています。鬼板に紋はなく、無地。
もとは檜皮葺だったとのことで、屋根の箕甲の造形はけっこう良いように感じます。
貴船明神
本殿の右隣(東)には摂社と思われる社殿。母屋の扁額には「貴船明神」とありました。
一間社流造、銅板葺。
造営年代は不明。賀茂春日神社本殿とは作風が少し異なりますが、ほぼ同年代(江戸中期)のものではないでしょうか。
向拝柱は几帳面取り。
柱上の組物は連三斗で、向拝柱の側面に出た木鼻には巻斗が載っており、連三斗の下部を持ち送りしています。
虹梁中備えはくり抜かれていない蟇股。
向拝と母屋をつなぐ梁はありません。
母屋柱は円柱で、奥まった場所に板戸が設けられています。
頭貫木鼻は拳鼻。中備えは蟇股。
妻虹梁の上は笈形付き大瓶束。
破風板の拝みと桁隠しは蕪懸魚。
以上、賀茂春日神社でした。
(訪問日2020/12/12)
*1:春日居町教育委員会による設置