今回は長野県長野市の桑台院(そうだいいん)について。
桑台院(桑臺院)は旧松代町の南部の山際に鎮座している真言宗の寺院です。山号は虫歌山。
創建は不明ですが、信濃三十三観音霊場の第七番にあたるようです。通称は虫歌観音(むしうた-)で、養蚕の守り神として信仰されていたようです。あまり目立たない場所にある無住の寺院ですが、山門や懸造の観音堂は見栄えのする内容です。
現地情報
所在地 | 〒381-1222長野県長野市松代町豊栄6531-1(地図) |
アクセス | 長野ICから車で10分 |
駐車場 | 5台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし(福徳寺が兼務) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道
桑台院の境内は東向き。松代高校などがある住宅地の一角に入口があります。
住宅地から参道に入り、石段を少し登った先には山門があります。扁額は「大悲門」。
桟瓦葺の切妻。正面3間・側面2間。三間一戸。
内部は化粧屋根裏。
中央の2本の柱だけ、上端がすぼまった粽(ちまき)の柱が使われています。ほかの柱は角柱です。
観音堂
山門をくぐって石段を登ると観音堂が現れます。
観音堂は鉄板葺の入母屋(妻入)。正面3間・側面不明。外陣は角柱、内陣は円柱。前方が張り出した懸造(かけづくり)。
造営年は不明。年代推定の手掛かりになるパーツや意匠が見当たらないですが、江戸中期以降のものと思われます。
本尊の観音像は高さ4メートル近い巨像とのこと。虫歌観音の通称があり、養蚕の守り神です。当地は養蚕が盛んだったため、篤く信仰されたようです。
軒下。扁額は山号「蟲歌山」。
軒裏は一重のまばら垂木で、天井を伸ばして軒の支えにした造りになっています。
屋根は、もとは茅葺きだったところに上から鉄板を張っているように見えます。
木鼻は、頭貫と台輪の両方に設けられた禅宗様の木鼻になっています。
柱上の組物は出三斗(でみつど)、組物のあいだには蟇股(かえるまた)。
床下は角柱と貫で構成された骨組みで支えられています。土台の石積みは城の石垣のような整った積みかた。
よく見ると柱は通し柱ではなく、床上と床下とで別材でした。そして縁側の四隅を支える材も一本ではなく途中で途切れており、強度的になんとも不安になってしまいます。だからなのか、縁側の隅には明らかに後補とわかるつっかえ棒で補強してあります。
観音堂の左手にある石段を登ると外陣へあがることができます。
堂は意外に奥行きがあり、吹き放ちの外陣(左)だけで4間もあります。
堂内は格天井。垂れ幕は真田氏の六文銭。
内陣を構成する柱は粽の円柱。組物や蟇股の意匠は外陣と同様でした。
外陣の入口にある案内板には、虫歌観音の創建にまつわる民話が書かれています。
要約すると「当地に住む若者が布引観音と北向観音へ行った帰り道、地蔵峠(上田市真田町と長野市松代町をむすぶ道)にさしかかると、峠の下の松代のほうから蚕の悲鳴が聞こえてきたため、蚕を慰霊する観音像をここに安置した」といったところ。
蚕が鳴くわけないだろう... と思ったのですが、同行していた父いわく「部屋いっぱいの蚕棚に桑の葉をくれてやると、蚕がいっせいに桑を食んで、夕立が来たような大音量になった」そうで、多少の誇張はあれど蚕の悲鳴が聞こえたという話もそこまでおかしな話ではないのかもしれません。
以上、桑台院(虫歌観音)でした。
(訪問日2020/08/11)