甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【佐久市】山田神社

今回は長野県佐久市の山田神社(やまだ-)について。

 

山田神社は佐久市の集落の山際に鎮座しています。

境内には多数の社殿があり、特に本殿は善光寺と似た「撞木造」(しゅもくづくり)という屋根になっており、神社本殿として非常に特異で凝った造りをしています。

 

現地情報

所在地 〒385-0032長野県佐久市常和1528(地図)
アクセス 太田部駅から徒歩40分
佐久南ICから車で20分
駐車場 3台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道と鳥居

山田神社一の鳥居

山田神社の一の鳥居は石製の明神鳥居で北向き。

扁額は「山田神社」。山の字が独特なフォント。

 

山田神社前の道路

山田神社は常和集落の奥にありますが、集落から神社までの道路はところどころ路面が崩壊しており、砂利で埋め立てて応急処置している状態でした。昨年(2019年)秋の台風のせいでしょうか。

山田神社の前までなら車で乗りつけできますが、神社の前を過ぎると写真のように応急処置さえできていない状態です。

 

山田神社二の鳥居

一の鳥居を過ぎると参道が右に90度折れ、境内は東向きになります。

二の鳥居は木製の両部鳥居。扁額は「宗像大明神」で、独特なフォントと字体。

 

楼門

山田神社楼門

鳥居の後ろに建っている社殿は、佐久市ホームページによると楼門とのこと。

確かに楼になっていますが、とても門には見えません。正面側は木組みで支えられており、まるで懸造(かけづくり)のよう。

鳥居とこの楼門をくぐった先に境内が広がっており、本殿などがあります。

 

社殿をくぐって境内に入る神社というと十五社神社(岡谷市今井)の“くぐり舞屋”があり、これとよく似た構成をしています。

 

山田神社楼門

楼門の後ろ半分は石垣の上に乗っています。扁額は「霊石殿」。

奥に見えるのは拝殿ではなく本殿。

 

山田神社楼門の背面

楼門を背面側(本殿のほう)から見た図。

屋根は桟瓦葺の切妻(平入)。

 

その他の社殿

山田神社舞屋

楼門の右手には舞屋(神楽殿)と思しき寄棟の社殿がありますが、物置のような状態で雑然としています。

 

山田神社の舞台

左手にも舞屋と舞台のような社殿がありますが、あまり活用されていない様子。

 

山田神社の手水舎

手水舎は桟瓦葺の入母屋。

なぜか本殿の右奥のほうの、参道の動線から大きく離れた場所にあります。

手水鉢はなく、手押し式ポンプで水をくみ上げる方式でした。

 

本殿

山田神社本殿正面

境内の中央には本殿が鎮座しています。

ふつう、神社の境内の中央には拝殿があって、その裏に本殿があるものです。しかし山田神社には拝殿がなく、本殿だけがあります

また、神社本殿にしては異様に大きくて奥行きがあるのも奇妙です。

 

山田神社本殿全体図

本殿は銅板葺の入母屋(妻入)で、正面1間・側面3間、軒唐破風の向拝1間。

造営年代は不明ですが、おそらく江戸中期から後期でしょう。

屋根は正面側が妻入、背面側が平入になっており、善光寺本堂(長野市)と同じ撞木造(しゅもくづくり)という様式 

 

山田神社本殿の屋根

しかしこの本殿は背面側にも破風がついており、棟がT字ではなく十字です。撞木造は棟がT字であることが名前の由来なので、これは厳密に定義するなら撞木造とは言えません。

ですが、境内の案内板や佐久市ホームページには撞木造だと書いてあるので、強いて言うなら「広義の撞木造」といったところでしょうか。建築様式としては、入母屋に属すると考えていいでしょう。

 

山田神社本殿の唐破風

神社とも寺院ともつかない微妙な建築様式ですが、屋根の上には千木と鰹木が載っており、はっきりと神社であることがわかります。

鬼板には鬼の面。これは甲信の神社ではよく見かける意匠です。

弓なりにカーブした破風板から垂れ下がる兎毛通(うのけどおし)の彫刻は、鳳凰。

 

山田神社本殿の向拝

軒を支える柱は、几帳面取りされた角柱。

角柱は虹梁(こうりょう)でつながれており、虹梁の両端には首を曲げた竜が彫刻された木鼻がついています。虹梁の上に置かれた中備えは、鶴の彫刻。

 

山田神社本殿の正面の扉

母屋に掲げられた扁額は「山田神社」。

扉は桟唐戸(さんからど)で、左は竹と虎、右は波と竜の彫刻。竜虎で双璧をなしています。

頭貫の木鼻は象鼻。

 

山田神社本殿の向拝側面

向拝柱(角柱)と母屋柱(円柱)はカーブした海老虹梁でつながれています。

向拝柱の上で垂木を受けている手挟(たばさみ)は、雲状に線彫りされただけのシンプルかつ古風な造形。

母屋柱の上で桁を持出ししている組物は、尾垂木の突き出た二手先の出組。

 

山田神社本殿の右側面

側面。

組物のあいだには蟇股(かえるまた)が配置されています。

当然ですが壁板は横向き(水平方向)に張られています。

 

縁側は擬宝珠付きの欄干が立てられた切目縁(きれめえん)が3面にまわされています。床下は束と平三斗(ひらみつど)の組物で支えられています。

 

山田神社本殿の脇障子

縁側の背面をふさぐ脇障子には細かな彫刻が施されています。

何かの故事が彫られているものと思われますが、題材不明。

 

山田神社本殿の背面

母屋の背面側は柱が3本あり、柱間2間となっています。

母屋柱は「床上は円柱だが床下は角柱」。江戸期の神社本殿のお約束と言える手抜き工作。

 

以上、山田神社でした。

(訪問日2020/02/23)